添え物
という訳で、2話目というか、主人公以外の視点から見たお話です。
うちの主人公ののんびり具合が……。
[視点無し]
使用人達の休憩室の中。
そこで向かい合っているのは二人のメイド服姿の女性だ。
片方は亜麻色の髪をきっちりと結んだ真面目そうな女性。
もう一人は同じメイド服を着ているのに、先の女性とは違って妙に浮ついた雰囲気を漂わせた茶色の髪の女性だ。
そして二人共怒りの方向性は違ったが怒っていた。
「……一体どういうつもりなの? イグニットさんはあなたに部屋の窓を閉めるように頼んだのよ!? それを掃除まで頼まれたって勘違いした上それをサボって、窓を閉めるのまで忘れるなんて!」
「サボったって言うけど、もともと掃除は頼まれてなかったんだからいいじゃない! それにちょっと窓を閉め忘れただけよ!? あんな本しかない部屋、窓閉め忘れたって問題ないでしょ!」
そんな感じで言い争う中、閉じられていた休憩室の扉が薄く開かれる。
言い争う二人はまだ気付かない。
そこから顔を覗かせるのは、他称マンドラゴラが『イケオジ』と呼んでいる男性──イグニットだ。
しばらく二人のやり取りを静かに聞いていたイグニットは、薄く開いていた扉をゆっくりと開いて室内へと入り──。
そこでどんなやり取りが行われたかを知るのは、当事者とこの屋敷の主人である『飼い主』の青年だけだろう。
ただ確かなのは、次の日一人のメイトが暇を出され、不満たらたらな表情で屋敷を後にしたという事だけだった。
話は少し遡り、二人のメイドとの『話し合い』を手短に終わらせたイグニットが出来うる限りの早足で向かう先は、窓を閉め忘れられている事が判明した主人の書斎だ。
辿り着いたイグニットが扉を開くと、開いていた窓から吹き込んだ風で飛ばされたのか床には一枚の紙が落ちている。
それを拾い上げて執務机の上へ戻してから、イグニットはこの部屋で一番価値があるともいえる本棚をざっと確認して、他に異変が起きてない様子に小さく安堵の息を吐く。
そして、改めて窓を閉めようとそちらへ歩を進めた所でイグニットの顔色がサッと変わる。
「……マンドラゴラさん?」
イグニットが思わず口にしていたのは、少し前から書斎の出窓が定位置になっている愛嬌溢れる鉢植え植物の名前。
数時間前に彼が水やりを行い、交流したばかりの存在。
驚きで見張られたイグニットの目に映っていたのは、そのマンドラゴラが入っている植木鉢が倒され、中身が空になっているという信じ難い現実だ。
開かれていたままの窓。
窓へ向けて倒れた植木鉢。
いなくなったマンドラゴラ。
導き出されるのは最悪のシナリオ。
「……すぐに旦那様へご連絡をしなければ!」
まだ間に合うかもしれないと急いだイグニットは思いもしないだろう。
本人(?)が、ちょっと土から出て歩いてみようかな、ぐらいのノリで行動した結果、すっぽ抜けて外へと飛んでいったなんて。
もちろん、緊急事態だと連絡を受けて戻って来るであろう『飼い主』の青年ことフォスフォラスも、想像すらつかないであろう真相だった。
こうして詳細を知らされず、緊急事態だと連絡を受け自身の屋敷へと舞い戻ったフォスフォラスだったが、屋敷へ入ろうとしたところで妙な気配を感じて庭へと足を向ける。
その結果、最低限しか整えられていない庭木が立ち並ぶ見慣れた庭に、見慣れない物体があるのを見つけてしまう。
「は?」
気の抜けた声を洩らしながらも、自然と体が動いていたのかフォスフォラスの手はその見慣れない物体を掴んでいた。
正確には最近見慣れてきてはいたが、ここにあるのはおかしい物体といえる存在。
もさもふとした鮮やかな緑色の葉と、綺麗な橙色の根にあたる部分との対比が目を惹き、緑の多い庭の中でも目立ちまくっている。
「……どう見ても私のマンドラゴラだな。何故こんな所に?」
ポツリと落とされたフォスフォラスの呟きに応えるように、彼の手の中でマンドラゴラが奇妙に葉を揺らしている。
「……とりあえず、戻ろう」
いつも通りなマンドラゴラの様子に安堵を覚えたのか小さく笑みを零したフォスフォラスは、ゆらゆらしているマンドラゴラを小脇に抱えて、まずは自身の書斎へと向かう。
何故か庭に落ちていたマンドラゴラを植木鉢へ戻すためだ。
植え戻そうとフォスフォラスが鉢植えにマンドラゴラを置くと、まるでそれを待っていたかのようにその根の部分がひとりでに土の中へと埋まっていく。
そして定位置に戻ったマンドラゴラは、まるでフォスフォラスへアピールするように葉をピッと立ててみせる。
「…………どうやって落ちたか気になるが、まずは緊急事態の確認だ」
何とも言えない表情で自分へ言い聞かせるように呟いたフォスフォラスは、執務机の椅子に腰掛けて何かを待つ体勢となる。
そんな飼い主の様子を不思議そうに葉を傾げて眺めるマンドラゴラ。
そこへ忙しなく扉がノックされ、応えとほぼ同時に扉が開かれてイグニットが飛び込んで来る。
イグニットはその勢いのままフォスフォラスの前で九十度の見事なお辞儀を披露する。
「旦那様! 申し訳ございません! わたくしのせいで、マンドラゴラさんが窓から侵入した何者かにさらわれたようで行方不明に……! 他の者に咎はありません! ここはどうかわたくしの首で……」
「イグニット、落ち着け。……緊急事態とはマンドラゴラが消えた事なのだな?」
顔を上げずに謝罪を始めたイグニットに、フォスフォラスは微かな安堵を滲ませてその謝罪を遮って質問をする。
「はい、その通りでございます」
「それなら庭に落ちていて、私が回収した。特に傷などもない。窓の開閉に関しては次回から気をつけてくれればいい」
そう言ってフォスフォラスがマンドラゴラが置かれている窓辺へちらりと視線を向けると、イグニットの表情が驚愕に染まり、やがて明らかな安堵の表情へと変わる。
「マンドラゴラさん、ご無事だったのですね」
「あぁ。運悪く風か何かで植木鉢が倒れて落ちたのだろう」
主従の注目を受けたマンドラゴラはというと、まるでその視線を受けて照れたかのように頭の葉を揺らめかせているのだった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
ちなみにざまぁされたメイドさんは、窓の閉め忘れとサボりだけでクビにされた訳じゃないのです。
もちろん他にも色々やらかしてましたよ?
書くスペースがなかったので省きましたけど。
主人公の自由さに振り回される苦労人飼い主……頑張れ(๑•̀ㅂ•́)و




