ゴブリンの巣
「……おうぇえ、」
「気持ち悪い……」
「そんな、複数人の長距離転移なんて……ありえない……」
「酔った……」
転移魔法で悪酔いしたのか、地面に手をついてうなだれる『暁の雷光』だった。いやミーシャだけは酔ったというより打ちひしがれたって感じだけど。
「ん~んっ、と」
自分で発動した転移魔法なので、もちろん私が悪酔いすることはない。背伸びしながら周囲を見渡すと――見慣れた農村風景。目的地の村に無事到着したようね。
「無事じゃないが……?」
ニッツが弱々しく突っ込んでくるけど、声が小さくて聞こえなかったということにして。突如として現れた私たちを見た村人たちが警戒していたので、私は美少女力を最大出力にして笑顔を作ったのだった。
「こんにちは。冒険者パーティ『暁の雷光』です。ゴブリン退治の依頼を受けてやって来ました。村長か責任者の方はいらっしゃいますか?」
◇
「……信じられません。複数人の同時長距離転移なんて……。セナさんって一体何者なんですか?」
「普通よ、普通。ちょっと『コツ』を知っているだけで」
「コツって。コツだけであんな大規模魔法を使えるわけが……」
「ミーシャだって実績解除すればできるようになると思うわよ?」
「じっせきかいじょ……?」
そんなやり取りをしながら向かった村長の家は、言い方は悪いけど貧相な建物だった。いかにも寒村にありそうなボロさ。だけど、周りの家よりは数段立派なのでやはり村長の家ってことなのでしょう。
家の中で村長から聞いた話によると、ゴブリンたちは山の中の洞窟に巣を作り始めたらしい。
運良く初期の頃に発見できたので自分たちで間引こうとしたのだけど、多勢に無勢。村一番の狩人がケガをしたところで冬への蓄えを切り崩し、冒険者ギルドへの依頼を決意したらしい。
「森の中なら他の魔物もいそうよね――じゃなかった! 日々を慎ましやかに生きる人々の幸せを奪うとは! ゴブリンどもめ! 許せないわね!」
義憤に駆られた私が拳を握りしめていると、
「誤魔化しきれてないな」
「顔に『肉』って書いてあるな」
「瞳にも『肉』って書いてありますね」
「肉欲女」
私はそろそろ雑な扱いに泣いても許されるんじゃないだろうか? 私は騎士爵じゃぞー。雷光じゃぞー。偉いんじゃぞー。
それはともかくとして。ゴブリンが巣くっているという洞窟の場所は分かったので、さっそく森へと入り、洞窟を目指す。
道中、冒険者としての先達であるニッツたちが色々と教えてくれる。
「ゴブリンは巣作りを終えると本格的な繁殖に入って一気に数が増えるんだ。あの村人たちはそうなる前に何とかしたかったんだが、自分たちでは無理だからギルドに頼んだってところだな」
「へぇ。噂には聞くけど、そんなに繁殖力が高いんだ?」
「なんでも三ヶ月くらいで生まれる上に、妊娠中も別の子供を妊娠できるらしい。しかも一年中繁殖期だから、安心して子育てができる環境が出来上がってしまうと一気に増えてな……。ゴブリンの巣を放置すると町一つ滅びても不思議じゃないんだ」
「凄いのねぇ」
「なんか気の抜ける感想だな……。ゴブリンの巣を相手に短期決戦は無謀だ。地の利は相手にあるし、数が多いからな。だからこっちは洞窟の外で待機して、食糧確保のために洞窟から出てきたゴブリンを少しずつ狩っていく戦法をとるのが一般的だ」
うちのパーティには魔術師二人がいるから簡単なケガの治療はできるけど、さすがに死人を生き返らせるのは不可能だからね。無理をしないで少しずつ着実に狩っていくのは悪くない戦法でしょう。
……ただ、今回は別の方法も可能なので、現地に着いたらそっちを提案してみましょうか。
他にも冒険者の心得などを聞きながら森の中を進み、洞窟を目指す。
複数人であったおかげか、幸いにして別の魔物と遭遇することなく目的地に到着した。
崖になっているところに空いた洞窟。
その入り口では二匹のゴブリンが見張り役をやっていた。下っ端なのかどことなく普通のゴブリンより小柄な気がする。
「で? セナは何をするつもりなんだ?」
「ま、とりあえず見張り役を排除しましょうか」
攻撃魔法だと派手な音がするから洞窟内のゴブリンに気づかれるかもしれない。ここは別の方法を使いましょう。
魔力で練り上げた糸を伸ばし、見張り役の首に巻き付ける。魔力の糸なので魔術師なら目視できるだろうけど、普通の人間やゴブリンでは見ることはできない。
ゴブリンの首に糸が何重にも巻き付いたところで、糸を収縮。急激に短くなった糸は巻き付いていたゴブリンの首を締め上げた。
抵抗すらできず、断末魔を発することすらできず。窒息というよりは首をへし折られて絶命するゴブリン。
ニッツとガイルは何が起こったか理解できていないようだけど、魔力を目視できるミーシャとフェイス君は「うわぁ……」とドン引きしていた。そりゃあ確かにえげつないとは思うけど、危険を冒さず、音も立てない方法だというのに。なぜだ。
こほんと、仕切り直しとばかりにミーシャが咳払いする。
「……え~っと、では、探知魔法で洞窟の中を調べますか。セナさんは使えますか?」
「あまり上手く使えないわね」
「え? 意外ですね? 攻撃魔法の方が難しいでしょう?」
「何というか……こう、細々とした魔法って苦手なのよね。力加減ができないというか。攻撃魔法なら力ずくで目標をぶち抜けばいいだけなんだけど」
「「「「あぁ……」」」」
心底納得したような「あぁ……」だった。私が不器用みたいな扱いには厳重に抗議したいところだ。
ミーシャが探知魔法を発動して、洞窟の中を調べる。魔力風で新緑色の髪が穏やかに揺れていて、それだけでもう芸術作品として成立しそうな美しさだ。エルフ美少女魔術師。いいわね。中身は年上かもしれないけど。もはやそんなものは超越してしまっているのだ。
「……セナは女好き?」
とんでもない発言をするフェイス君だった。誰だこんな下品な言葉を教えたのは? ……ニッツかガイルしかいないか。あとでお説教ね。
それはともかく訂正しなければ。私は女好きじゃなくて、美少年と美少女が好きなのだ。見ているだけで満足で、手を出すつもりはないのだ。あとは大人のおねーさんも大好きだし、男性の鍛え上げられたマッスルも嫌いじゃないわ。
「……肉欲騎士」
誰だこんな言葉を教えたのは?




