17-3:人生初のオカルト調査の様子を記憶の中から動画化してみた!
第5章は地震の描写を含みます。
「でも、私達が最初に探ったオカルトって、口裂け女じゃないでしょ~」
「……あぁ、そういえば」
「え? いやいや、3人で動画チャンネルやりはじめてからはこの口裂け女調査が……あ」
ユウキの表情が、凍る。
時は今を去ることもう20年以上前のことだった。
『ネッシーはいる! ほんとにいるんだ!
テレビでやってたもん!』
猿橋善彦。当時4歳。
谷根千幼稚園の星組。
『ばっかじゃぇの!
ネッシーなんているわけないって!
それより、イノーセイゾンタイごっこしようぜー!
パイルバンカーだー! バン、バーン!』
志田原結城。当時4歳。
谷根千幼稚園の星組。
『私はおままごとしたい~。
私がお嫁さんやるから、ヨシ君は職場先でセクハラしてくる課長で、ユウキ君は家で養ってるヒモやってよ~』
森越貞子。当時5歳。
谷根千幼稚園の星組。
『やだよよくわからないし!
ネッシーをさがしにいくんだ!』
『ヨシおまえオカルトしんじてるとかマジありえねーよ!
サダコのおままごともなんでおれがハダカにならないといけないのかわかんないし!
イノーセイゾンタイごっこだよ!
あ、でもサダコはおんなだし、イノーセイゾンタイなんてしらないか?』
『むせる香りのする美味しいコーヒーの淹れ方解説よね~』
『お、おう。
やっぱサダコすげぇな……おれしょうじき、あのはなしはよくわかんない……』
人間、子どもの頃はどうしても男の子よりも女の子の方が成長が早くなるもの。
幼馴染の3人であっても、2月生まれ3月生まれのユウキとヨシに対して、4月生まれのサダコが差を広げてしまうのは致し方ないことである。
――いや、そうはならんやろ。
――なっとるやろがい~。
――僕の記憶でもなってるんだよなぁ……
回想にツッコミを挟みつつ。
『ほらサダコもイノーセイゾンタイしってるから、2たい1だぞ!
きょうはイノーセイゾンタイごっこだ!』
『ユウキ、なんでヒモが服着てるの~?
それに、私が帰ってきたらまずはご挨拶しなさいって、普段から躾してるわよね~?』
『おままごとなんておんなみてーなあそび、するわけねーだろ!』
『じゃあ男らしくビール飲みましょ~。
少し待ってね今出すからちゃんと飲めるよね~』
『ならこうへいにあみだくじできめよう!』
――なあ、この回想モザイクとか伏せ字とかつけないで動画化平気か?
――子どもの遊びじゃないの~。
微笑ましいわ~。
――子どものいじめの方がえぐいというのはよくある話だが、下ネタもえぐいな。
しかしこのカメラ、僕達の脳内の回想まで撮影できるのすごいな……
こうしてヨシの提案でしぶしぶあみだくじに了解した2人。
そして、結果。
『やった! ネッシーだ!』
『あー! くそ!』
『仕方ないわね~。
付き合ってあげるわ~。
でも、ネッシーなんてほんとにいるの~?』
『いるもん!』
『けど、テレビのなかだろ?』
『イギリスのネスこにいるもん!』
『ネス湖までなんて私達行けるわけないわ~』
『い、いつかいけるもん! おとなになったらいける!』
そう主張するヨシの目からは、必死の涙が滲んでいた。
――……そういや、俺達、まだネス湖行ってないな。
――そうね~。
チャンネル登録者数1兆人突破記念で行きたいわね~。
――なんだかまたすぐにこっちに戻って来るオチだけ見えるのは嫌だな。
『そ、そうだ! すどうこうえんだ!
いけもあるし、たきもある!
あそこなら、ネッシーがいるかも!』
『ホントかぁ~? ていうかおまえ、しらないのか?
すどうこうえんは、おばけがでるんだぞ!』
『山の滝の隣のベンチに座ると、異世界につれていかれちゃうんでしょ~?』
『お、おれはそんなうわさ、し、しんじてないけどな!』
『それに、須藤公園の池にはアオダイショウが住んでるってお母さん言ってた~』
都心の公園にしては珍しく、池と人工の滝がある須藤公園。
さらに池の中心には弁財天の社があり、おそらくそこから宇賀神信仰に繋がり、ヘビがいるという話に繋がったのだろう。
近くには高層マンションが建ち、ただでさえ築山に木が植えられている公園の中は薄暗く、幽霊の噂が立つことにも十分な環境が整っていた。
『アオダイショウってなんだ?』
『どくヘビのことだよ!
すどうこうえんにどくヘビがいるの!? うそだ!』
『じゃぁネッシーはいないと思うけど、アオダイショウはわからないから、探しにいきましょ~』
『お、おい! ヨシ!
おまえがいいだしたんだぞ!?
ほんとにいくのか!?』
『う……うう……どくヘビ……』
『ネッシーは怖くないのに、ヘビは怖いのね~。
そんなことじゃ大人になってもネス湖になんて行けないわ~』
『そ、それは!』
『おいサダコ!
ヨシのこといじめるとおれがおこるぞ!』
『ユウキ君もほんとはヘビが怖いんでしょ~?
ほら、もう私のヒモになっちゃいなさいよ~』
――5歳の発言か? これが?
――女の子はませて育つのよ~。
――それにしても、こう、もう少しなんというか……
手心というものをだな……しかし、ユウキ。お前は……
『こわく……ないもん……』
『聞こえないわ~』
『こわくないもん!
どくヘビがいてもネッシーがいてもこわくないもん!』
『そうだヨシ、よく言った! どうだサダコ!
どくヘビもネッシーもいるぞ! たぶん!』
『ほんとかしら~?』
『ほんとだ! もしどくヘビかネッシーをみつけたら、あしたからこいつのことヨッシーってよぼうぜ!』
3人の記憶から自動再生された映像に、思わずユウキは声を失った。
「へー。ヨッシーさんはそれでヨッシーさんになったんですね。
ということは、ヘビはほんとに居たんですね」
「あ、うん。まぁ、その、うん」
1万回の素振りを終え、気付けば回想を覗き見ていたキリヤ。
気恥ずかしさやいろいろな思いが混ざり、ユウキはしどろもどろになる。
「ところで、ヒモってなんですか?
なんでユウキさんは裸になるんですか?」
「キリヤちゃんにはまだ早いわ~」
「それってつまり、この動画が少なくともR-1500指定だと認めることなんだが、それは」
「なんか桁数バグってて未来から来るアンドロイドみたいね~」
「そういう話じゃねぇから」
「なら堂々と動画を最後まで見せる他ないわね~。
はい、続き~」
「ちょ、おま! 待て! やめろ!」
そしてそれから再生されたものは。
『こ、これがゆうれいがすわってるベンチか……!』
はじめての心霊スポットに怯えるユウキと。
『このじんじゃにヘビがいるのか……?』
社の中を覗くヨシと。
『ネッシーなんているわけないけど、ま、夢を見せてあげるのもいいわね~』
一人暗躍をはじめるサダコ。そして。
『きゃああああああ~、ヘビがいたわ~』
『うわぁぁぁぁあああああ!! に、にげろぉぉぉぉおおおお!!』
『ぎゃぁぁぁぁああああ! どくへびだぁぁぁぁああああ!!』
サダコの言葉だけで確認もせずに逃げ出す2人。
漏らすユウキ。
――畜生! だからやめろと言ったんだ!
そして翌日。
『おれ、ワタナベさんにこくはくする!』
――ちょっと待てぇ!? なんでそこまで!?
おい、カメラを! カメラ止めろ!
――カメラを止めるな~。
『すきです! ワタナベさん! けっこんしてください!』
『えいっ』
後ろから下ろされるズボン。
『このポークビッツの先っぽから肉汁が出たのよ〜?』
少年の初恋は終わった。
「うぎゃぁぁぁぁあああああ!!!!」
「あ~。怖かった~、心霊映像ってほんと最高ね~」
「サダコ姉……その……ユウキ……すまん……」
「男の子同士の友情羨ましいわ~」
「殺してやる……絶対に殺してやるからなサダコ姉ぇ!」
サダコ姉の両肩に手を置き、ぐわんぐわんと肩を揺らすユウキ。
きゃっきゃと楽しそうに笑うサダコ姉。
手で顔をおおい目を伏せるヨッシー。
そしてキリヤは神妙な表情で。
「……ユウキさん、ホウケイなんですね」
「なんでその知識はあるの!?
つーか、子どもの頃はみんなそうなんじゃねぇの!?」
「今は~?」
「くそがぁぁぁぁああああ!!」
「あはははは~」
より強く体をゆすられるサダコ姉。
本当にこの3人の仲が良いことを示す象徴的なエピソードであると同時に、この物語の中で恋愛展開がはじまることがないと改めて確約する内容でもあった。
「でもそうよね~。
オカルトのチャンネルなんだし、今はもうすっかりUMAネタが斜陽化してるとはいえ、やっぱりいつかネス湖には行きたいわね~。
チャンネル登録者数1兆人突破時の企画はもう決まったわね~」
「僕は動画の再生数を考える上で反対する。
UMAネタの斜陽化もそうだが、そもそもネス湖のネッシーが存在する確率は限りなくゼロに近い。
それならまだこの異世界オルコットンでネッシーのようなUMAを探した方がマシだ」
「いや、いねぇだろ。
ほら、メカドラゴンの時に言われたろ。
ドラゴンはこの世界には存在しない。
恐竜みたいなモンスターもだ。
だから、ネッシーみたいな首長竜みたいなのも……」
「あ、そういうモンスターの噂、聞いたことありますよ。
ここからだいぶ東ですけど、マーメイドが住んでる湖に首長竜のUMAヨルムンガンドがいるって」
「……まじ?」
硬直する男2人。
やはり神託からは逃れられないのか。
サダコ姉は自分の肩に当てられたままのユウキの手を掴んでにやりと笑った。
「ロデオマシン健康法はもういいわ。
神託に従ってやりましょう。
行こうじゃないのよ。異世界の、ネス湖に」
異世界オカルトチャンネル7、新章開始! UMAヨルムンガンド編、開幕!




