第1章総集編+α「異世界民族文化の奇祭がまじやばい! 何故ゾンビ達は自らを日の光で焼くのか!?」
「ねぇ~、日本三大奇祭って知ってる~?」
不思議な空間の中でサダコ姉(民俗学大好き)に話しかけられる怪談師のユウキ。
2人は幼馴染で、それぞれの立場からオカルトを考察する動画チャンネル、「異世界オカルトチャンネル!」のメンバー。
この2人にガチの科学者ヨッシーをくわえた幼馴染3人で、毎週オカルト動画を公開中だ。
「そのくらい俺だって知ってるよ。
諏訪の御柱祭、富士吉田の火祭り、秋田のなまはげだろ? 御柱は前に3人で見に行ったこともあるよな。
俺達の時は死人が出ないでよかったぜ」
「うんうん~。御柱の死人は出る時はホントに出るからね~。
でも、なんでそんな危険を冒してまでお祭りをするか知ってる~?」
風の神が舞い踊る同人ゲームで広く知られた諏訪大社の御柱祭。
山の斜面を巨大な丸太が滑り降り、その上に男たちが飛び乗るという見ていてハラハラすること間違いなしの奇祭だ。
「そりゃ神事だからだろう。
神事っていうか、長く続いた文化は危険だってだけでやめていいもんじゃない」
「ホントにそう思う~?
なら、ユウキ君は今年御柱に飛び乗る役ねって言われたら死ぬかもしれないとわかってもなお『これは文化を守るため』ってお祭りに参加できる~?」
「……痛っ! いたた! すまん! 突然腹が!」
わざとらしく腹を抱えるユウキ。
なにか腐った食べ物でも拾い食いしたのだろうか?
「そうよね~。
むしろ、そうなっちゃうのが自然だと思うのよ~。
いろいろ科学でわからないことがあった古代ならまだしも、現代でホントに土着の神様のこと信じてますって方が少しおかしい所があるもの~。
でも、もしも神様の祟りとかじゃなくて、お祭りをやめることで本当に実害があったら~?」
「それって、いろいろ巡りまわって間接的に問題が起きるみたいな?
御柱祭なら、山の木を定期的に間引きしないと生態系が壊れるとか」
「いい線行ってるけど、今回のお祭りはもっと直接的だったのよ~。
異世界オルコットンに暮らすゾンビ達のお祭りでは、ゾンビが1週間昼の恒星の光の下で生活し、みんな半死半生の限界状態になっちゃうの~」
異世界オルコットン。
夜には4色の月が空を照らし、昼には恒星ティーガーデンが大地を明るく照らす世界。
ゾンビ、エルフ、ドワーフ、天使、そして神々。
僕らがイメージするファンタジーゲームや異世界転生の舞台のような世界だ。
「えっ!? ゾンビがわざわざ昼に!?
だって奴ら、光を浴びるとジューッって皮膚が煙を立てて燃えちまうじゃないか!
なんだってそんな祭りが!?」
「ということで今回は、私達が異世界オルコットンで最初に遭遇した奇妙な文化、ゾンビの奇祭編をまとめた総集編をお届けするわ~」
「何故ゾンビ達は全身を火傷するような祭りを1週間も続けるのか!?
そして、ゾンビ達と同じ腐った食い物を食べても俺達人間は腹を壊さず済むのか!?
ソシャゲでしか見ないビキニアーマーのウサ耳剣士の正体は何者か!?」
「それじゃ、動画スタート~」
(中略)
「いや~、そんな秘密があったとは驚きねぇ~」
「ちょっと待てぇ!」
さらっと2時間分の動画がスキップされ、思わずユウキもツッコミを入れる。
「どしたの~?」
「いや今明らかに動画飛ばしたよな!?
ゾンビの里アップフィルドだぞ!? カメラを止めるなよ!
監督で村長のキユカタさんにあの顔でマジギレされんぞ!
つーか、本編完結して、最後のエピローグで字幕やト書きの秘密、そもそも今までの動画は何だったのかのネタバレもされたが、中略なんて機能は俺知らないぞ!
どういうことだ!?」
「いやね~、ほら、動画サイトのチャンネル登録者数増やすため、定期的に総集編を作るのってお約束じゃない~?」
「よく知らない人からは手抜きしてるって言われるけどな、実際ここでチャンネルを知ってくれる人が大半なんだよ。
総集編は新規の導入として必要なんだ。わかってくれ」
「うんうん~。
それで前に一度ゾンビ奇祭編をただ繋げただけの総集編を公開したんだけど~
いくら動画チャンネルのお約束ってメタ構造でも、なろうでは文章にして公開する分には新規さんを引き寄せる効果はないし、都合全体の文量が2倍になって表示されちゃうし、後で誤字を修正する手間が2倍になるしで、ヨッシーに怒られちゃって~」
「あぁ……まぁ、それは……」
本当に手間なんだよ。特に誤字修正が。
読む側も絶対そこだけ飛ばしてるし。
「ということで今日から4回に分けて、総集編+として、タイトルだけ総集編にしたおまけ動画を公開しようと思うわ~。
時間軸はエピローグの後すぐ、5章以降の撮影前よ~」
「なるほど。そりゃ悪くないな。
で、ヨッシーは今回ずっとト書き担当なのか?」
ゾンビ奇祭編で一番活躍したのはサダコ姉だからな。
「キリヤは?」
動画編集用のパソコンでSEKIR◯ノーコンティニュークリアを目指してる。
「フロムゲーは地獄だろ……」
プレイ中の汚い叫び声も録音してあるから、後でサブチャンネルに公開するつもりだ。
「もう完全に扱いがVTuberこと檻の中の猿なんだよなぁ。
そのうちメインチャンネルでもキリヤにいろいろ無茶振り企画させようぜ」
考えておこう。
「で、総集編+では何するんだ?」
「今回の撮影に関する小話を語っていくつもりよ~。
最初になんだけど、ユウキ君はなんでユウキ君なの~?」
「なんでロミオとジュリエットなん?」
「いや、そういうロマンティクスじゃなくてね~。
なんでユウキって名前なの~?」
「いや本名をカタカナにしただけだよ」
「作者はどうしてユウキって名前つけたの~?」
「作者ってなんだよ!?
せめて親御さんって言ってくれよ!
つーか今回はそういうメタ空間なのか!?」
そういうことだ。
ちなみに、ヨッシーこと僕の本名は猿橋善彦。
猿橋は東京から山梨県に伸びる中央線の駅で、次の駅は東京からの終点でおなじみの大月駅だ。
大月と言えば漢字は違うが、一時期オカルト番組に引っ張りだこで、幽霊の正体をプラズマだって解説した科学者の先生が有名だろ?
「あぁ、あの人な。
当時からいろいろなところで、オカルトを否定する科学者のキャラクター造形の元ネタになってる人だ。
名前が大月の別の漢字で、名前は確かヨシヒコだったか?」
そうだな。
で、科学担当でオカルトを否定する僕がヨッシーというわけだ。
「スマブラやマリカでお前が緑の恐竜使いだからじゃなかったんだな」
ヨッシーは初心者には使いやすい。
「わかったわかった。で、俺な。
俺の本名は志田原結城。
名字のシダハラは後ろのハラを取って頭に1文字くわえてくれ。
ユウキはそのままだ。
好きな食べ物は焼きトウモロコシ。
子どもの頃の憧れの職業はオカルト探偵だ」
「ただ怖い話を語るんじゃなくて、オカルトの元ネタを徹底的に暴いていく職業、オカルト探偵ね~。
今ヨッシーから中央線の話題が出たけど、中央線怪談の書籍も素晴らしかったわ~。
ユウキ君もあの先生大好きなのよね~」
「あぁ。オカルトに関わる俺としちゃ憧れみたいな人だ」
「でも私としてはそのスタイルがどうも、怪談文化人と混ざるのよね~」
「サダコ姉」
ユウキがサダコ姉の胸ぐらを掴む。
「もう一度言ってみろ。殺すぞ」
「ご、ごめんなさい。
私、ちゃんと毎日ユウキ君に言われた方法で髪の手入れしてます」
「よし」
強火ファンはこれだから……
「ヨッシー?」
なんでもない。
「じゃぁサダコ姉は? やっぱりあの伝説的ホラー映画の悪霊か?」
「と、思うじゃない~? もちろんオカルトということでそれを想起させてもらう狙いはあるけど、実は違うのよね~」
「じゃぁその悪霊の元ネタになった、明治時代の超能力者、高橋貞子か?」
・高橋貞子
1886年生まれの日本の超能力者の女性で没年不明。
当時、超心理学の名前で人間のESP能力を本気で研究していた東京帝国大学助教授、福来友吉博士の元で透視や念話の実験被検体として活躍したが、後年には一部がトリックとして暴かれ福来博士と共に学会を追われた。
有名オカルト作品に登場する悪霊の名前のモデルになったというのは監督本人の発言だが、モデルとされたのは名前だけで、他の設定に関しては福来博士の元で活躍したもう一人の超能力被験者、御船千鶴子。
「だいぶ近付いたけどはずれよ~。
私の本名は森越貞子。
これ、名前ほぼそのまんまね~。
元は森が木になるわ~」
「いや、そのまんまって言われてもそんな人知らん」
「異世界オルコットンって名前からすらっと元ネタが出てくるユウキ君でも知らないなんて、ほんとにマイナー人物なのね~。
まぁ厳密にはオカルトじゃないし、本当に一部の文献にしか名前が残ってない人だから当然かしら~。
この人はね~、日本民俗学の父こと私の魂のパパ、柳田國男の憧れの人で、幻の奥さんなのよ~」
「そうなん? でも、柳田國男の奥さんって別にいるんだよな? 不倫相手か?」
「奥さんは柳田為正さんで、お茶の水女子大名誉教授の生物学者よ~。
夫婦仲は決して悪くなく、柳田本人も真面目な性格で、当時の日本の文化人みたいなダメンズじゃなかったから、浮気なんてする人じゃなかったわ~」
明治の文化人、今の価値観で言わせてもらうとダメ男じゃない人探す方が難しいもんな。
太宰治とか中原中也とか。
「いやまぁ柳田もちょっと……いや、かな~りダメなところあるけど、そこもまたかわいいからヨシ! よ~」
現場キャット。
「当時の柳田の資料は遠野物語をはじめとした書籍や、研究仲間だった旧々5000円札の人こと新渡戸稲造の日記をはじめとしていろいろなところに残されているんだけど、木越貞子の名前はそのどこにもないわ~。
ただ、柳田がいろいろな人に当てた手紙の中に、貞姉さまという人物の名前が出てくるのよ~」
「それでサダコ姉なのか」
「そういうこと~。
貞姉さまが一体誰なのかは今も柳田研究者達が頭をひねらせていて、少し前までは実の姉、順ではないかという説が主流だったの~。
ところが近年でこの人は、同じ研究仲間の木越安綱の奥さんの貞子ではないか説が浮上したの~。
山口昌男が自著の中で、演劇研究って雑誌に掲載された三村竹清の日記を引用するところに、柳田國男についての記載があるのよ~」
「その人もよく見つけたな。
つーか、まじで明治の文化人の横の繋がりすげーな。
ということは、横恋慕だったわけか」
「そうなのよ~! それもまた明治の文学っぽくて素敵じゃない~!?
あの柳田國男の恋の相手は友人の奥さんで、しかもこの時もう自分には奥さんがいて、それでも貞さんを忘れられずに、自分の実の姉のことですけど?
みたいな顔して貞子さんへの思いを語ってたなんて、これ以上のロマンティクスがあるかしら~!?」
確かにそれは僕も歴史ロマンを感じる。
「でもオカルトを名乗るチャンネルでサダコなんて言ったら100人が100人テレビの中から出てくる悪霊を想像するぞ」
「オカルトを名乗るチャンネルなんだからそれでいいのよ~。
でも、そういう一見恐ろしい名前の影に真実のロマンティクスが潜んでるなんて、まさに私達のチャンネルらしい叙述トリックじゃない~?」
「うーん、深い。
元ネタのドマイナーもあって100%気付かない」
一応これまでの4章はミステリーの構文を意識しているんだが、ミステリー小説のルールを定めたノックスの十戒はかなりのところで違反しているとの声があるな。
「犯人は物語の当初に登場していなければいけない」
「天照大神は日本神話の最初期に登場してるわ~」
「探偵方法に超自然能力を用いてはならない」
僕が幽霊に憑依されたのは科学で説明できる事象だ。
「犯行現場に秘密の抜け穴・通路が2つ以上あってはならない」
「メカドラゴンプラントへの坑道は1本道だったわ~」
「未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない」
僕の説明はわかりやすいと評判だ。
ヤナギランの成分も常識だな。
「主要人物として中国人を登場させてはならない」
「これ、ちょっとステレオタイプな差別的印象があって嫌い~。
キリヤちゃんはエルフだし騎士だしセーフ~」
「探偵は偶然や第六感によって事件を解決してはならない」
猫耳が嘘を感知したんだ。
何の問題もない。
「変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない」
アイさんと僕の会話は殺人教唆には当たらないと考える。
「探偵は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない」
「ユウキ君の髪フェチについてはしつこく気持ち悪く描写し続けたわ~」
「サイドキックは、自分の判断を全て読者に知らせねばならない。
また、その知能は、一般読者よりもごくわずかに低くなければならない」
これに関しては違反している可能性が否めない。
キリヤの知能は一般読者より相当低い。
――あーーーー!! 槍は! 槍はずるいです!
剣聖が槍なんて持つなーーーー!!
もう水手曲輪からやり直したくないーーーー!
「双子、一人二役はあらかじめ読者に知らされなければならない」
「そういえばプリングさんって古文書にあった小竹さんでいいのよね~?
姉の小梅さんって物語にでてた~?」
……よし!
「ヨシ!」
「よし~!」
「じゃ、今回はこの辺で終わっとくか。
明日はエルフ因習村編の総集編?」
「の、予定よ~。
それじゃ平地人のみんな~、チャンネル登録といいね、SNSのフォローに通知のONもお願いね~」




