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25 勇者の成長


 娘勇者は次々と魔物を倒していった。


 存在を消す能力は多対一でも高い効果を発揮していた。

 見えない相手が迫ることで、まともに戦えない魔族もいた。


 中には、部屋の中を魔法で満たすことにより、娘勇者の動きを可視化しようという動きもあった。

 だが位置をつかんだところで半分でしかない。

 娘勇者は動きにフェイントを織り交ぜ、 床をけり、壁をけり、天井をけり、魔王城を庭のように扱っていたのだ。

 魔物の動きを利用し、敵を翻弄することさえあった。


 もちろん攻撃を受けることもあったが、最小限に抑えていた。

 回避しながら時間を稼ぎ、剣の祝福で傷を癒やし、仕留める。


 もはや初めて会ったときの面影はないといってもいい。


 二階、三階、四階、とどんどん制していった。


 そういう娘勇者の姿を見ながらファイスが言う。

「魔王さま。あいつは何者なんですかい」

「気になっておりました」

 ドランゴも言う。

 ガンショットも目で訴えてくる。

「人間だろ?」

「まあな」

「でもあれ、人間か?」

「というところまでくれば、あと一歩だな」

「へ?」

「まさか、勇者でもありませんし……」

 ドランゴが言う。

 私は黙っている。


「え、勇者?」

「勇者の血は絶滅したはずでは」

「いやいやいや、なんで魔王さまが勇者の世話なんかしてるんすか! 意味わかんないっしょ!」

 ファイスが炎と氷を大きくする。


「私もそう思う」

「なに言ってんすか!」

「なぜこんなことを……?」

「相手がおらんのだ」

「相手?」

「私の力についてこられる相手がおらぬからだ」

「なにをおっしゃっているのです?」


 ドランゴたちが足を止めた。


「おかしいか?」

「おかしいですよ!」

「私は私の力を試したいと思っているだけなのだ。500年にも及ぶ特訓の成果を試したいと。魔王が自分の欲望に素直になることがおかしいのか?」

「それは、じゃなくて、勇者を育てるってことがっすよ!」

「勇者ではないかもしれない。私が勇者だと思っているだけかもしれぬ」

「勇者だと思ってるやつを育てるのが問題だって言ってんすよ!」


「それはわかっているが、わからぬ。欲望に素直であってかまわぬのが魔王なら、なぜ勇者を育ててはいかんのか。もし勇者にやられる可能性があるというのなら、それは魔王不信だ。それは問題ないのか?」

「いや、でも!」

「魔族の発展のために最善をつくすべきか? ではお前たちは最善をつくしているのか? 自分たちのやりたいようにやっているだけではないか」


「いや、お前たちの言っていることもわかる。だがな、魔族が欲望に忠実であること、それを認めた時点でこういうことも起こり得る。お前たちは、欲望に忠実であることをやめろというのか?」


 ドランゴはそれを聞いて考え込んだが、ファイスは怒鳴ってきた。

「勇者を育てる魔王なんかについていけるかよ!」

「ではグレゴリーにつくか?」

「お、おお! そのほうがマシだ!」

「私が勇者を殺せば良いのだろう?」

「そりゃそうだけど、殺せなかったらどうすんだよ!」

「……、小さいな」

「あ?」

「そのときは、お前が勇者を殺せば、新しい魔王になれるではないか。飼いならされた魔族とは、無様なものだ」

「う……、この……!」

「文句があるなら殺せ」


「私に文句があるのなら、私を殺せ」


 ファイスは私をにらみつける。

 が、動かない。


 そして、娘勇者の方へ走り出した。


 娘勇者が振り返る。

 その姿が凍りついた。

 足元から上がった冷気が一瞬にして娘勇者を氷漬けにした。


 はずが、中にはなにもいない。

 娘勇者はファイスの背後に。


「こんなところで練習ですか?」

 娘勇者は言った。

「この!」

 ファイスは炎の弾丸と氷の刃を無数に飛ばす。

 娘勇者はそれをすべてかわす。

 気配を消していない。


「ファイスさん?」

 娘勇者は平気でかわす。

 その様子に焦ってさらにファイスの攻撃が単調になる。

 娘勇者の動きは迷いがなく、木の棒で遊ぶよりもゆったりと落ち着いているように感じられた。


 ファイスが止まらないので、娘勇者は両腕を破壊した。


「治療魔法を」


 娘勇者は私に言った。


「ぐ、ぐぐ……!」

 ファイスの心境はどうだろう。

 ちょっと前まで互角だったのが、気配消しをせずに圧倒された。


「う、うおおお!」

 ファイスが力を込めると、炎と氷の両腕が生えてきた。

 

「勇者と組むなんてやってられるか! ここでお別れだ!」

「そうか」

「ドランゴ! ガンショット! てめえらはどうする!」



 ドランゴたちが顔を見合わせる。


 その顔が槍に貫かれた。

 私やファイス、娘勇者のところにも槍が来たが、ワンテンポ遅れてきたせいか見極めは難しくなかった。


 一本刺さった時点でドランゴたちは動きが鈍くなり、無数の槍は突き刺さると、ドランゴ、ガンショットは魔力を大きく吸われ、動けなくなった。


「なんだありゃ!」

「お早いことだ」

 グレゴリーがいるのは七階。

 まだ六階もあるのに。

 二人の指輪を一個ずつ消費してしまったな。


 そう思ったのだが、ドランゴ、ガンショットはそのまま力を吸われて干からびていってしまった。


 反応がなくなる。


「おい、ドランゴ、ガンショット……?」

 ファイスが呼びかけたが、反応がない。


 二人が装着した指輪が反応していない……?


 天井から、パラパラと細かい石が落ちてきていた。

 地震か?

 いや、これは。


 天井が抜けた。

 六階が降ってきたのだ。


 私は娘勇者に近寄り、魔法陣の壁をつくって防御。

 石が砕けて散っていく。


 すると、その壁の上から檻が降ってきた。

 例の檻だ。

 封魔の檻とかいったか。


 風魔法で、石が砕けて舞い上がったホコリをすべて払うと、すでにグレゴリーが立っていた。

 腕が六本。

 今日はそのそれぞれに、剣や杖を持っていた。


 檻のせいか、私の魔法陣は消えてしまった。

「死んだか」

 グレゴリーは、ドランゴとガンショットを見て言った。

「お前、なにしやがった!」

 ファイスが言う。


「封魔の檻だとか、槍だとか、そういうものらしい。知らんのか」

「封魔? じゃあ、こいつら死んでんじゃねえか!」

 ファイスが叫ぶ。

「死んでいる? しかし指輪が」

「勇者の封魔の技だろうが! 魔道具なんか効かねえよ!」

 ファイスが言う。

「お前は勇者を知っているのか」

「700年生きてりゃ勇者とやったことくらいあるわ! 魔王さま、あんたは知らねえのかよ!」

「知らぬ」


 勇者のおおよその話は聞いたことがあったが、まだ直接戦ったことはない。

 そのころは魔王城で待っていたころだ。


 勇者の得意とする技はそれぞれで異なるし、それを勇者以外から教わるのはあまり良しとされていなかったこともある。


「グレゴリー。なぜ勇者の技など知っている。いや、使っている」

 私は異空間で檻を消した。


 グレゴリーは表情ひとつ変えない。

「それで、逃げたか……」

「前回の話か。そうだな」

「また、逃げるか……?」

 グレゴリーが言う。

 

 グレゴリーはまた私たちを檻に閉じ込めた。


 だが私はまたすぐに檻を消す。

「逃げる必要はない。今回は、お前を殺しに来た」


「指輪は効かないそうだ。今回は無理をせず、いったん退却するぞ」

 私は人間の言葉で娘勇者に言った。

「戦うのか、逃げるのか……」

「グレゴリー、人間の言葉がわかるのか?」

「その娘……、人間だな」


「しかも勇者の血を引いているな」

「なぜそう思う」

「合ってるぜ」

 ファイスが言う。

「わかるのだ……」

「なぜそう言える」


 と思ったが、気づいた。

 さっきの会話を聞いていたのだ。


「お前たちの会話を聞いていたわけではない……」

 グレゴリーが言う。


「ではなんだという」

「勇者は、勇者を知るということだ」


 グレゴリーは言った。


「は?」

 ファイスが言う。


 するとグレゴリーの体の前面が裂けた。


 ゆっくりと開いていく。


 魔族の大きな体の中から、磔にされたような格好の、全裸の男が現れた。


 強い青い気配を持つ。


 娘勇者と同じ気配だ。


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