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ラスボスは終焉を選ぶ  作者: matelight
勇者の仲間たち編 (長編)
42/72

勇者と子供たちと寄り道

 エレン【ゆうしゃ】

→ソル【かくとうか】  つよさ

 セラ【まじゅつし】  わざ・まほう

 シフ【とうぞく】   →もちもの    Eけんぽうぎ

             はなす     Eかわのこて

                      Eかわのくつ

                       きょだいなリュック

                       やくそう

                      →ちいさなこどもA

                       ちいさなこどもB

                       ちいさなこどもC

                       ちいさなこどもD

                       ちいさなこどもE



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「おい貴様ら、なにかおかしくないか?」


 ひときわ大きな荷物を背負ったソルが声を上げる。

 体力の高い彼にしては珍しく、ぜいぜいと肩で息をしていた。


「なぜ我がこんなことを――――おいっ、耳元で騒ぐでない! ちょっと静かに――――」


 ソルの左肩のあたりで子供が二人、ケンカを始めた。

 顔の真横でギャーギャー騒がれるだけでも迷惑なのに、取っ組み合いのケンカにまで発展する。


「つぎはぼくのばんだぞ! どけよー!」

「やーっ! ソルのとなりはあたしのなのーっ!」

「――――おいこら、暴れるでない! 髪を、引っ張るな!」


 子供たちはソルの全身に登ったり、思い思いの場所に掴まったりしていた。

 その場所は肩の上にちょこんと座ったり、巨大なリュックの上に腰を下ろしていたり、ソルの小脇に抱えられたりと様々だ。たまに自分の足で歩いたりもするようだが、歩き疲れるとすぐにソルの体を遊具のようによじ登ってくる。


「チビども、いいかげんに――――ぐわっ! やめぬか、耳が取れてしまうっ」


 子供たちに人気なのはやはり肩の上だ。リュックの上の方が眺めがいいが、揺れが少なくて座りやすいのはソルの肩が一番だったようで、今のように場所の取り合いになるほど大人気だ。


「た、たしかに『必ず送り届ける』と約束はしたが……まさかこんな……こんなことになるとは……」


 きつい上り坂を歩きながらぼやく。その表情こそ冴えないが、足取りは意外など乱れていない。

 常識的に考えれば、大荷物に加えて子供五人を纏わりつかせて歩くなどと言うことは普通の人には不可能な芸当だ。しかしソルの頑健な足腰は、子供たちが暴れても転ぶどころかふらつきもしない。



 陣形は荷物番と子守をしているソルを中心にして、前方にはエレンとシフ、後方の殿(しんがり)にはセラが配置されている。


 前方を並んで歩くエレンとシフは、なにやら楽しそうに談笑しながら進んでいる。

 いちおう敵を警戒しながら歩くが、エレンはずいぶんと旅慣れているおかげで緊張しすぎることはない。シフにいたっては才能があったのか、誰よりも先に敵の気配を察知して危険を回避するのに役立っていた。


「エレン。ドロボー。そろそろ子守を交代してくれぬか? フハハハハ、なあに大丈夫である。近くに魔獣どもはおらぬようだし、そろそろ我も最前線の空気を吸いたくなってきたところなのだ」

「なにを言ってるのさぁ。みんなソルのこと気に入ったみたいだし、このままでいいんじゃないかなぁ? というわけで前方はボクたちに任せてよ」

「……だからドロボーっていうな」


 エレンにやんわりと断られる。シフも交代する気はなさそうだ。

 実際のところ、そろそろ道程は終盤に差し掛かっている。村や集落といった人間たちの領域が近いために野性の魔獣や魔物との遭遇率は大幅に減少していた。明らかな危険地帯からは脱出したはずなので、最大戦力であるソルがこのまま動けなくてもあまり問題はない。


「ではセラ。セラはどうであるか? 我と配置を換わって――――」


 ソルは後ろを振り向いて、ぎょっとした。

 魔術師のセラは汗をだらだら流しながら、呼吸を整えるのに必死な様子であった。魔術師の証であるねじくれた杖でなんとか体を支えている状態だ。


「せ、セラ……? 大丈夫であるか?」

「……っ。……っ。…………っっ」


 どうやらダメそうだ。

 セラは魔力に特化しているためか体力が低い。彼女の今までの修行は座学が中心であったため、長時間の行進や登山のような体力勝負には弱い。あの荒野を無事に抜けられたのは、途中で乗せてもらった馬車の存在が非常に大きかったようだ。

 なんにせよ、着いてくるだけで精一杯なセラに子供たちの世話をさせるのは酷なことだ。


「わたしなら……っ。へいき……っ。ですわ…………っっ」


 ぜったい平気じゃない。

 ソルは前の二人にそのことを告げ、シフが後方に下がってセラに付き従うことになった。エレンはとりあえず休めそうな場所を探す。

 必然的にソルは、子供たちを見守ることになる。


 孤児院を目指して出発した当初は、子供たちはひときわ体が大きく威圧的だったソルを怖がって近付きもしなかった。しかし数日間仲良く寝食をともにして、さらに道中に出没する敵からみんなを守る勇敢な姿を目の当たりにして、子供たちの評価は激変した。


 その結果がこの有り様である。


 ソルは慣れない子守に右往左往して、邪険に扱うこともできずにされるがままになっていた。

 けっきょく歩く遊具のようになっているソルは目的地の集落までこのままである。

 そのことに内心愕然としていると、年上の女の子が降りてきた。精神的に疲弊して、困り果てているソルの様子に気付いたらしく、気を使って降りてきたようだ。

 察しの悪いソルが女の子に問いかける。


「どうしたのであるか? もよおしたのか?」

「…………いっしょに、あるく」


 はにかんで手を握ってくる。

 ソルは素直に喜んだ。


「おおっ、そうであるか! では一緒に歩こうではないか」

「…………ん」


 頬を染めた女の子がうれしそうに隣を歩く。

 その光景をまざまざと見せつけられたセラが驚愕する。だが彼女はそれ以上の行動を起こすには体力も気力も足りなかった。

 いっそ嫉妬の感情を燃料にして歩いた方がいいのかもしれない。


 勇者一行の目的地は、もうすぐだ。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



『荒野の町』からの大きな道路を外れ、険しい山間部にその集落はあった。


 その集落を一言で表せば「田舎」だ。


 パッと見える家の数は二十棟ほどだ。いくらか拓けた中心部に集合しているが、家同士の間隔は広い。

 そこに住んでいる人たちは少ない農耕地で野菜などを栽培して細々と暮らしている。ほかの仕事は木こりと猟師くらいなものだろう。

 山と森に囲まれ、川辺が近くて自然が豊富である典型的な田舎だった。


 勇者一行が辿り着いた時、住人たちから奇異な視線で見られた。

 しかしこの出で立ちやこの組み合わせでは仕方ないのかもしれない。


 まず真っ先に視界に入るのは、こんな田舎ではお目にかかれないほど顔立ちが整った金髪の美少女である。恰好は剣士のそれであり、勇敢さと華麗さが同居している。真っ直ぐな眼差しは凛々しく、しかしその表情には引き付けられるような愛嬌があった。

 次に興味を引くのは黒いローブを羽織った魔術師の姿だ。美麗な剣士の後なので不気味な印象を持たせるが、よくよく見ればフードの下はやわらかい顔つきをした娘だ。親しみやすさを感じさせる黒髪美人で、思わず手を貸してしまいたくなる女性らしさを湛えている。

 魔術師の傍にいるのは、まだ子供といえる年端のいかない少年だった。痩せていて目付きが悪いが、油断なく周囲を警戒する様子からは手慣れた感がある。さりげなく魔術師を気遣っているところからは、見た目に反してやさしい性格なのだとわかる。


 そして最後の一人だ。もっとも異様な姿のこの大男は、いったい何者なのだろうか。

 筋骨隆々の肉体に防具を身に着けてはいるが、武器らしきものは持っていない。大荷物を背負っているが行商人には到底思えない。

 さらになぜか幼い子供たちが彼の周りにぴったりとくっついている。子供たちを拘束している様子はないが、あの恐ろしげな顔だ。ひょっとしたら奴隷商の可能性も否定できない。



 おそるおそる遠巻きに彼ら彼女らの動向をうかがっている住人たち。

 そしてついに村長らしき老人物が決死の覚悟を決め、声をかけることにした。

 もちろん当たり障りのなさそうな金髪の美少女にである。大男とは間違っても目を合わせないように気を付けていた。


「旅のお方、こんな田舎にいったいなんのご用ですかな?」

「あっはい。ボクたちは噂に聞いた『とある神父さま』に会うためにここに来ました。この場所で孤児院を運営しているとか……」

「ほう。神父さまですかな?」

「はい。ボクたちは旅をしている者なんですが、荒野の町で会ったこの子たちを受け入れてもらえる施設を探しているんです」

「ああ、なるほどのう……」


 老人は胸を撫で下ろした。

 少なくともこの娘は悪人ではなさそうだ。その仲間である者たちもきっと大丈夫であろうと判断した。

 いや、後ろの大男はどうかわからないが『あの神父さま』ならば、いきなり悪漢が襲いかかっても問題なく対処できるはずだ。


 こうして老人はエレンたちに孤児院の場所を教えることにした。



 二週間とかからずに辿り着いた目的地。

 ひょんなことから始まった勇者一行の寄り道は、終わりを迎えようとしていた。




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