魔王と勇者たちと戦いの記録
魔王ソルレオンは【魔王】として君臨してから現在まで、数々の勇者たちと死闘を繰り広げてきた。
これはその記録の一部である。
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かの魔人王はその素性ゆえか、非常に好戦的な性格で様々な武術・武器を使いこなす能力を備えている。『戦い』に関するズバ抜けた才覚は生まれ持ったものであった。
優れた武芸者ほど基礎がしっかりとできている場合が多い。
基礎は合理性の集大成である。ひとつひとつの動作に意味があり、そのすべてに無駄はない。
基礎を学ぶ方法も単純明快の一言に尽きる。「ただひたすらに繰り返す」だけだ。
何千何万と同じ型を繰り返す。それにより『技』以外のすべてがそぎ落とされ、『技』はより鋭く冴え渡ってゆく。
いずれ『技』は『業』に昇華され、確かな『武力』を手に入れることができる。
その頃には鏡面に映る幻影のように、まったく同じ動き、まったく同じ軌道、まったく同じタイミングで、まったく同じ攻撃することが可能になる。
「フハハ、ゆくぞ勇者! 避けられるものなら避けてみよ!
毎回 ま っ た く 同 じ 動 き で攻撃してやろう!!」
しかし、ほとんどの勇者はそのモーションを覚える隙もなくあっさりと倒されてしまう。
魔王ソルレオンの放つ威圧感は尋常ではない。
だいたいの勇者たちはこのプレッシャーで足がすくんで動きが鈍くなってしまう。攻撃の一発一発を避けるだけでも戦々恐々という有り様だ。
「避けやすいように」という有難迷惑な理由から繰り出される魔王の一撃は、常に大振りの強攻撃である。心が弱い者ならば空振りの風圧でさえ死を招きかねないほどだ。
「我の攻撃はまだまだ終わらぬぞ!
今日は――そう、なんとなくそんな気分だから、 同 じ 順 番 で 技 を 繰 り 出 し て やろうではないか、フハハハハ!!」
魔王の連続攻撃!
魔王がいくら同じパターン、同じローテーションで技を繰り出そうとしても、二週目まで残っている頑丈な挑戦者は稀である。
竜巻のような猛攻に巻き込まれた運の悪い勇者たちは問答無用で戦闘不能にさせられる。一撃目で足を止められ、硬直したところに二撃目三撃目が当てられて即終了となるからだ。むしろ一撃目で後ろに大きく吹き飛ばされた者は運が良い方だろう。
その後の攻撃が当たらなくても一連の動作を続け、なぜか手を休めない魔王は空振りを続ける。もはや瀕死状態の勇者たちの前で堂々と演武をしているようなものだ。
「ほう、我の攻撃をなんとか凌げたようであるな。褒めてやろう。
だが満身創痍か……、
我もちょうど連撃で疲れたからな。ほんの少しだけ 動 か ず に 休 憩 し よ う ではないか、フハハ」
「ここが弱点」とばかりに背を向ける魔王だが、勇者たちは自分たちが動けるように回復するのに精一杯で攻撃に転じることができなかった。
あからさまな隙を作り、わざと攻撃されてカウンターを狙っているのかもしれなかった。手痛い反撃のことを考えると、うかつに攻撃するわけにはいかない。
勇者たちにとってこの静止状態は「嵐の前の静けさ」としか思えない。
「どうしたのだ勇者よ? 来ないのならばこちらからゆくぞ!
我が『必殺技』をとくと味わえ!
タ メ に 時 間 が か か っ て 、そ の 間 隙 だ ら け に な る が、
この必殺技は一撃で貴様らを葬り去るぞ! 覚悟するがいい」
大仰な姿勢で長々と詠唱を始める魔王。禍々しい黒炎の魔力は大気を振るわせ、凝縮された熱気の渦は空間を歪めるほどだ。
ほんの少しずつ、ゆっくりと大きく育っていく黒炎球を支える魔王は、その胴体を晒して無防備な状態だ。「時間がかかって隙だらけになる」という言葉に偽りはないように見える。
勇者たちはそのチャンスを逃さなかった。
「あっ!?」
勇者たちは――――――――――――――――――もちろん、逃げ出した。
ぽつんと残された魔王は黒炎球を握り潰した。
「…………またか、また逃げられたのだ」
その握り締めた拳の行方を、魔王はまだ見付けられずにいた。
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また別の日の戦いである。
命を懸けた戦いに「卑怯」という言葉は存在しない。
『敗北 = 死』である非情な戦いでは、生き延びるためのありとあらゆる手段が肯定される。
一対多数という状況はたしかに公平ではないが、「勝利」を得るための手段のひとつである。
魔王ソルレオンは戦いの場から大きく飛び退いた。
装備している鎧のところどころが破損し、右腕には深い裂傷が刻まれている。しかしどくどくと血を流しながらもその表情にはまだ余裕を残していた。
「なかなかやるではないか、鎧の」
勇者と、そう呼ぶには武骨すぎる鎧武者が魔王の相手だった。
【大鎧の勇者】もまたボロボロである。珍しく魔王と真正面からぶつかり合えるほど堅く、強く、そして重い。ダメージを受けることを前提とした超重量級の鎧兜に特大の大剣と大盾。その姿は一般的な勇者とは大きくかけ離れていた。
「ハッ、てめえもな」
荒々しい態度と言葉もまた勇者らしくはない。それもそのはず彼は傭兵出身で、肩書き以外はすべて傭兵流で通している無頼漢だ。
人間としては並外れた膂力を持ち、振り回す剛剣は相手の防御を容易く打ち砕く力任せの戦法を好む。
乱戦が常となる戦場でこんな隙の多い戦い方ができたのは、ふたつ名にも使われている大鎧のおかげであった。ほとんどの攻撃はこの鎧の前には無力化されてしまう。
だがさすがというべきか、魔王の攻撃は人間と比べ物にならないほど強力で、鉄壁の大鎧だけでなく勇者の本体にまでダメージを浸透させていた。
「……てめえの首には懸賞金がたんまりとついてるからな、ぜったい俺様が仕留めてやる」
勇者は燃え滾る野心で己を支えた。
見たところ消耗はほぼ同じ。魔王が深い傷を負っている分、勇者が優勢にも思える。ならば削られた体力は気力で支えるまでだ。
だが魔王はさらに後方、玉座まで下がった。
今までに見たことないほどの邪悪な笑みを浮かべた。
「出でよ、我が分身【ソル・シル】」
闇魔法の亜種であった。
魔王から魔力が放出される。魔力が影に潜り込み、人型を成して立ち上がった。
「なん………………だと?」
魔王と同じ輪郭を持つ『影』が十体も出現する。それは消耗している勇者に衝撃を与えるのに十分すぎるほどだった。
影どもに囲まれた勇者は玉座の魔王に非難の声を上げた。
「くそったれがぁ! 卑怯だぞ魔王!」
「フハハハハ、なんとでも言うがいい。要は勝てばいいのだよ、勝てば」
魔王は嘲笑う。
なんだか珍しくとっても【魔王】っぽい。だが実はこれらの行動には真意が隠されていた。
「うおおおおおおっ!」
勇者が大剣で影を薙ぎ払う。数が多いが動きは鈍いため、まだ戦える。
装備している武器の射程距離が広く、より広範囲を巻き込むことのできる大剣であったことが幸いして影を全滅させることに成功する。何度か攻撃は受けたがいずれも致命傷は避けられた。
「くっ、はぁはぁ……なんとか凌いだ…………うん?」
勇者は足元に転がる石を見つけた。
「これは……『回復の輝石』じゃねぇか! やったぜ!」
『影』の落としたものだ。ほかにも『魔力水』や『傷薬』、『万能薬』などもなぜか落ちていた。
「……そろそろよいかな?」
魔王ソルレオンはぽつりと呟く。
玉座から立ち上がるとわざとらしく大声を上げた。
「ほほう! まさか【ソル・シル】をすべて倒すとはな。どうやら我は貴様をみくびっていたようである。
よかろう! この我が再び相手になってやろうではないか!」
「かかってきやがれ! 今日の俺様には【幸運の女神】がついてるんだ。負ける気がしないぜっ!」
全回復した勇者と魔王がふたたび激闘を繰り広げる。
果たして決着はいつ訪れるのか――――――
~ 二刻(四時間)後 ~
「――――――もう勘弁してください」
【大鎧の勇者】は土下座をしていた。
まだ泣いてはいないが、もはや決壊寸前の有り様である。
あれからずっと激闘は続けられていた。
一戦目と同じく、何度も何度も魔王と勇者は真正面から激しくぶつかり合い、体力と魔力を削り合っていた。近年稀に見るほどの『激闘』であり『死闘』である。
だが勇者は二戦目にしてすでに違和感を抱いていた。
なんと二戦目は、一戦目とだいたい同じだったのである。
二戦目、三戦目と繰り返すも内容はほぼ似通っていて、最初は真正面からのぶつかり合い。ある程度消耗したら魔王は下がり『影』を召喚する。そして『影』を倒すと回復アイテムが出てきて、それで回復したのちに魔王が再び玉座から降りてくる。
この繰り返しだった。
五戦目あたりでようやく、勇者は『影』が「回復アイテムを落とすための雑魚敵」だということに気付く。魔王がなんのためにこんなことをするのかわからない。
だが勇者は傭兵時代から身に沁みついた「目の前の敵をひたすら倒す」という作業を延々と繰り返していった。
十戦目。武器と鎧がついに大破する。だが『影』が次に持ってきたのは回復アイテムではなく、新しい大剣と大鎧だった。
つまりは「もっと戦え」と。
そして現在、【大鎧の勇者】は下着一枚の【パンツの勇者】に転職していた。土下座をしたままの哀愁漂う背中は同情を誘う。
見るに堪えない光景に、セラたちが全力で魔王を停めていた。
魔王はまだ少し諦めきれないようだ。真正面から戦える好敵手などそうそういないからだ。
「なぁ、鎧の。もう少しだけ頑張ってみてはどうだろうか?」
「すいません。勘弁してください」
「もうあと、ほんの少しでいいのだ。な?」
「すいません。勘弁してください」
「あとちょっとで我の体力が半分になるのだ。そうしたら――――」
「すいません。勘弁して――――」
「――――そうしたら、ようやく本気モードで戦えるようになるのだ」
「――――ッ!? ~~~ッ!! ッッッッ!?!?」
「もうやめて魔王さま! とっくに勇者のライフはゼロよ!」
限界を迎えた勇者はついに最後の一枚も脱ぎ去る。
【全裸の勇者】が爆誕した瞬間であった。
ここで一部は終わります。
コメディタッチの短編のような作風は1~10話まで。11話~からはわりと普通のファンタジーになります。
ここまで読んでくださった方々に感謝を。
よかったら第二部も楽しんでいただければ幸いです。




