キエロ
コンビニから戻って…
ひっそり音をたてずに部屋に戻る。
部屋の電気を消す。
けど、眠れない。
病院でもらった薬を飲む。
だけどこんなんじゃ…
わたしにはもう効かないよ。
のど飴にさえならない。
窓が明るくなってきた。
ようやく眠さが迎えにきてくれる。
長い夜から、やっと一時的、逃げられる。
こんな毎日の繰り返しで…
気づいたら、一年が過ぎていた。
空白の一年。
振り返ってもなんの思い出さえない。
夏の暑さ、どんなだっけ?
秋ってあったの? 紅葉見たかったな…
部屋では、時計の針だけが淡々と進み、
その数だけカレンダーに過ぎた日を
バツで消す、それがわたしの日課。
こんな生活…
これを生活と呼ぶのかな?
わたし、ほんと生きてるの?
一度、狂ってしまった歯車。
それを戻すなんて…ムリか。
だったら、とことん狂わすしかない。
もしかしたら何万分の確率で、
また歯車が合うかもしれない。
何万分の確率であいつに出会った
同じくらいの奇跡で…
ぼんやりカレンダーに目をやる。
今月の日付けが、ほとんどバツで
塗りつぶされている。
真っ黒になった、カレンダー。
今年もあと少しなんだな…
眺めながら、つぶやいた。
ねえ、そろそろ動き出そう?
このままじゃ変わらないよ?
自分に言い聞かせた。
よし、
わたしは決めた。
わたしを誰も知らない場所。
誰にも迷惑をかけない場所。
わたしが自分の力で、いける場所。
そこに、いこう。
一枚だけ、残していたあいつの写真。
それを灰皿に置き、ライターで火をつける。
笑顔がグチャグチャになって…
あいつの顔が、真っ黒になっていく。
消えろ、消えろ…………キエロ。
わたしは、ぶつぶつ繰り返す。
写真はやがて灰になり、
あいつは消えた。
次はわたしの番か。
机に座り、紙とペンを用意。
「少し、出かけてきます。ずっと迷惑かけてごめんなさい。2人には感謝しています、ありがとう」
手紙を置いて…
わたしは、夜中に家を抜け出した。
午前4時を回っていた。
どの家も電気は消えている。
みんな、安らかな夢のなか、だろな。
わたしもそんな毎日を、送りたい。
もし…
いつか、またここに帰ってきたら
今度は、ほんとの笑顔で会えたらいいな。
家を眺めながら、わたしは駅に向かった。