プロローグ
石畳の広場の片隅で、秋の夜風が祭りの熱気をさらっていく。
異世界の旧都・アザネス。一年に一度訪れる『安息の祭』の夜、町の中心広場は色鮮やかな提灯と賑やかな歓声に包まれていた。酒を酌み交わす人々、踊る子供たち、屋台から漂う香ばしい匂い。その喧騒の中心には、黒々とした塔が真っ直ぐに聳え立ち、その頂上では昼も夜もなく静かにゆらめく「白い炎」が町全体を神聖な光で照らしている。
「・・・・おばあちゃん、おばあちゃんってば」
「ん?ごめんよ、なんだい?」
小さくて温かい手が、物思いにふけっていた年老いた女性の服の裾をそっと引っ張った。まだ七歳になる孫娘だった。くりくりとした大きな瞳を輝かせながら、広場の中央で悠然と燃え続ける塔の上の光を見上げている。
「あの塔の火は、なんでずっと消えずに燃えているの? 絵本みたいに、神様が私達のことを見守ってくれてるのかな」
無邪気な問いかけに、女性は目を細めた。
白くなった髪を夜風になびかせながら、孫娘の頭を優しく撫でる。
「そうだねぇ……きっと、私達のためにずっと燃えてくれているんだよ」
「本当? じゃあ、神様にお願いしなきゃ! これからも私達をずっと守ってください、って!」
孫娘は小さな手を胸の前で合わせ、塔の火に向かって一途に祈りを捧げた。その温かな横顔を、女性は愛おしそうに見つめる。
塔の頂上で優しく揺らめく聖なる光。
賑やかな祭りの笛の音が響き、孫娘が楽しそうに笑った。
世界は今日も、驚くほど優しく平和だった。




