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第12章 理解しがたい署名

廊下は、静かだった。

議場の熱気が、嘘みたいだ。

アリサが出てきた。

書類の束を抱えたまま。

いつも通りだ。


「終わったな」


「はい」


「父の名誉も、戻るか」


「数字が証明しました」


「ありがとう」


アリサは少し間を置いた。


「お礼は」


「終わってから言うものだろう」


「……はい」


耳の先が、赤い。

俺は笑った。


「次は、何をする」


「報告書の作成です」


「その次は」


「追加監査の準備です」


「その次は」


アリサは俺を見た。

無表情だ。

だが。


「……何か、ご用ですか」


「一つ、確認したいことがある」


俺は一枚の紙を出した。

婚姻届だ。

アリサは受け取った。

目を走らせた。

少し間を置いた。

今度は、長い間だった。


「合理的ですね」


「感情的に、合理的か?」


アリサは俺を見た。

耳が、真っ赤だ。


「……感情的に、合理的です」


署名した。

返した。

俺は紙を受け取った。

婚約解消書と同じ筆跡で。

だが今度は。

置いていかれる胸が、ない。

窓から、王都が見えた。

市場が動いている。

数字が動いている。

誰かが、正直に帳簿をつけている。


不幸な男だった、俺は。


この世で一番奇怪な数字のモンスターを、愛してしまっていた。


そして今。


その数字のモンスターが、婚姻届に署名した。

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