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6.父の半生と、思わぬ出会い



「さぁ、そこに座って?」


 お母様が長くなるのだからと、手ずからお茶を入れてくれる。


「こんな時間だけど、早く知りたいのでしょう? 」


「ええ。お願いよ、お母様」


 ここまで来たら全部知りたいと思い直した私に、お母様が頷いた。


「今上陛下が、あなたのお父様の叔父だということは当然知っていると思うけれど、陛下の姉君、お父様のお母様が若くして亡くなった理由は知っているかしら? 」


「お母様と同じピンクのガーベラがお好きで、三十路前に亡くなったことしか知らないわ」


「そうでしょうね。それはね、前国王陛下が箝口令をお敷きになったからなのよ」


「どうして? 」


「アンジェリカ様が、毒殺されたからなの」


「ヒッ! ど、毒殺? 」


「ええ。王家の血をどうしても、もう一度迎えたかったらしい前ゼノア公爵、つまりあなたのお祖父様が、愛人がいることを隠してアンジェリカ様に求婚したの

 彼を信じたアンジェリカ様や、前国王ご夫妻を騙したのね」


「不敬だわ それに外道のすることよ」


「私もそう思うわ。でも、国教では離婚を許されていないでしょう? 降嫁したとはいえ、元王女がそれを覆すことは出来ないと、アンジェリカ様は長いこと堪えていらっしゃったの

 愛人の嫌がらせにも気丈にしていらしたそうだけれど、お身体に影響が出てしまったのね、療養に出られたのよ

 その療養先で、私はおふたりと出会ったの」


「お可哀想な、おばあ様…………」


「私も母を亡くして、家族に愛されているとはいえない環境だったから、ふたり目の母として

アンジェリカ様をとてもお慕いしていたわ

 一緒にピンクのガーベラを育てたこともあってね、とてもお美しくてお優しい方だったの」


 その頃のことを思い出しているのね、お母様のお顔が緩んでいらっしゃるわ


「でも、父親に愛されずにただ後継ぎとして扱われるシオン様をご覧になって、アンジェリカ様は離婚を決意されたそうよ

 このままではシオン様にとって良くないと、思われたのでしょう

 だけどそれが毒殺の引き金になってしまったの」


「おばあ様は何も悪くないのに…………」


「元王女と国教に背いて離婚することになれば、前公爵は破滅だということがわかっていたのね

 そこまでして王女が離婚を望むなんて、当然、理由を話すことになるもの

 王女が受けた仕打ちを王家が黙っているはずがないと、あなたにもわかるでしょう? 」


「ええ。前陛下に亡き者にされても仕方ないわ」


「そうね。だから前公爵は、愛人と共謀してアンジェリカ様の暗殺を図ったの

 病死に見せ掛けて殺す為に療養先に行かせて、人を使って毒を盛ったとわかっているわ

 後継ぎ(シオン様)も生まれていたから、アンジェリカ様が邪魔でしかなかったらしくて」


「なんて身勝手な! 」


「本当に勝手よね。結局、前陛下と王太后陛下に発見されて犯行は発覚したのだけど、アンジェリカ様を目の前で毒殺されたシオン様は、涙も出ないほど哀しまれたの

 子どもながらにアンジェリカ様を守ろうと頑張っていたシオン様は、ご自分を責めてらしたのよ…………まだ11歳でいらしたのに」


「毒を盛られたとき、お父様はその場にいらっしゃったの?!」


「そうよ、私もいたようだけど覚えていないの

 アンジェリカ様の苦しむ姿に衝撃を受けたせいで、高熱が出て記憶を飛ばしてしまったから。それほどのお苦しみだったらしいわ」


「お父様は覚えていらっしゃるのね……」


「そうね、忘れられないでしょう。なのに、私には忘れていて欲しいと仰ってくださったの。アンジェリカ様の笑顔だけを覚えていて欲しいと仰って」


「じゃあ、お父様はお一人で……」


「いいえ、ジェスキアのお祖父様も、アンジェリカ様の最後に立ち会われていらっしゃるわ

 まだ子どもだったシオン様を守ると、アンジェリカ様に誓ってくださったの」


「ああ、良かった。お祖父様がいてくださって

 私、お祖父様にもっと優しくするわ」


「ふふ そうして頂戴、きっとお喜びになるわ」


「それからどうなったの? 」


「前公爵と愛人、そしてふたりに加担した者達は処罰を受けたわ。前公爵は爵位を剥奪されて、12歳だったシオン様が公爵位を継いだのよ」


「今の私より3つも下で公爵になったの?!」


「そうよ、お祖父様が後見されていたとはいえ、大変なご苦労があったと思うわ」


「え? お母様はその頃のお父様を知らないの?」


「ええ、今でもそれが悔しいの。私もまだ7歳で、ロイド家で生きていくのが精一杯だったし、シオン様も領主として、為すべきことや覚えることが多かったから、滅多に会えなくなってしまって」


「そうよね、お父様もお母様もまだ子どもだったのよね……」


「10年ほどあとで、どうにか落ち着いてきたシオン様が、私を望んでくださったそうなの

 けれど私には、彼から婚約の話があったことすら教えて貰えなかったわ

 別の愛妾から生まれたお姉様をシオン様に嫁がせたかった、ロイドの父と正妻達の妨害だったのよ

 あの人達はどうしてもお姉様を公爵夫人にしたかったみたい

 結局、彼等の妨害のせいでシオン様に愛されていると知らなくて、私はロイド家を飛び出したの

 シオン様を愛していたから、お姉様と結ばれるシオン様を見たくなかったのよ」


「お母様つらかったわね……」


「そのときはとてもね。 お父様から聞いたわよね? それからどうなったのか」


「聞いてるわ。どうしてお母様は助かったの? 」


「行方不明になった私を、お父様とセイラ、そしてお祖父様と王太后陛下が探してくださったの

 皆がロイド家のしたことを暴いて、私を助けてくれたのよ。

 王太后陛下には、彼等に負わされた火傷や怪我も治していただいたわ」


「お母様は、探してくれると信じていたのね」


「そうね。皆のおかげで私は幸せに暮らしていられるの。あなた達もね」


「わかっているわ」


「ロイド家の皆は、裁判のあと、鉱山行きになったり、出ることの出来ない修道院行きになったわ

 ルシェラお姉様も、元ロイド家の所領で監視されながら平民として暮らしているはずよ

 全員、そこから出ることも、その場所以外の誰とも連絡をとることを禁じられているの」


「犯した罪に比べて罰が軽い気がするわ」


「そんなことないわ。ロイドの父は国庫横領の罪で、陛下から別の罰も賜っているし、正妻と妾のユリアさんは、私が負っていた大火傷を複写されているのよ

 治癒魔法を使わない限り、けして治ることのない酷い火傷なの

 逃げられないように足枷もつけられているわ」


「痛そう……」

「それはもう! 痛いなんてものじゃなかったわ」


「ひいおばあ様にも、もっと優しくしなくちゃ」


「ふふふ あなたもあちこち大変ね」


「いいの。もともと皆が大好きだもの」


「そう言って貰えると私も嬉しいわ。ありがとう」


「それからはロイド家の人達とは……」


「きっぱり縁を切っているわ。私の家族はシオン様とあなた達。そして、ジェスキア家の皆さんと王室の方々だもの

 それに、私とシオン様の望みは、彼等と二度と関わらないことだったから

 私達かわりに、今上陛下と王太后陛下が監視をつけてくださっているの

 どのみち、国賊だからと仰ってね」


「ふぅ 想像していたよりずっと複雑で大驚いた」


「そうでしょうね。だから、あなたのお父様と相談して、高等部に入る頃に伝えようと決めていたの

 ジェリスにもそうしたのだけど、マリアは少し早くなってしまったわね」


「構わないわ。ちゃんと本当のことを、お父様とお母様から聞けて良かった

 周りの人達が、好き勝手に教えてくるのが煩わしくてしょうがなかったもの」


「嫌な人達。いつでもそんな人達はいるのね」


「まったくだわ」


 急に、お母様が改まって私を見る。



「マリア、ごめんなさい……」


「お母様? 」


「あなたのお父様が求婚してくださったことを知らなくて、私もつらい思いをしたのに、ステファンとの婚約を黙っていたわ」


「いいの。今ならお母様達が、どうしてそうしたのかわかるから。アンジェリカおばあ様やシルビアおばあ様のように、私を不幸にしたくなかったのでしょう? 」


「ええ。でも、それが良かったのか私達もわからなくなってきているの」


「良かったのよ。だってそのおかげで、私もステファンも不幸にならずに済んだわ」


「ありがとう………ステファンは、5歳のときからすべて聞かされていたの

 だから、あなたが忘れても、婚約を秘密にするとお祖父様に誓ってしまったのよ

 自分であなたを振り向かせてみせるからって

 ………マリア、どうかあの子を赦してあげて」


「そんな小さな頃から、さっきの話を?」


「お祖父様の方針でね。だから……」


「大丈夫よ、お母様。私、もう婚約のことを怒っていないわ」


「でもステファンのこと、これでいいの?」


「仕方ないわ。お兄様にも言われたの。ステファンを受け入れる気がないのなら、何もするなって」


「……そう。本当にステファンを好きではないのね?」


「好きよ。ジェリスお兄様よりも、ずっと側にいてくれたのだもの。大切なお兄様だと思っているわ」


「………わかったわ。でも、少しでも何か思うことがあれば、すぐに私に話して頂戴。約束よ? 」


「 ? 変なお母様」





 翌日、図書館でお母様との話を思い出していると、後ろから肩を叩かれた。



 「君がマリア・ゼノア嬢かな?」


 

 きらびやかなお顔をされた、皇太子の第二王子、ギール殿下が真後ろに立っていた。







いつもより、少し長めでした。

前作をお読みになっていなくても、前話と今回で大丈夫になったかな?と思います。


と同時に、両親と子ども達の育ちの違いを感じてくださればいいな。

よくも悪くもお坊ちゃんとお嬢さんなのです。


次回、ギール殿下とマリアが急接近です。

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