10.ステファンの婚約者探し
※追記
中盤以降、前作の親世代のお話をお読みいただいてない方には通じない「名称」や「人物」「展開」部分が増えていきます。直接、この作品からお読みいただいた場合は意味不明になってしまうと思うので、お詫びします。
立縞の限界です。
今日もステファンが中等部に来ている。
彼が婚約者を選び始めたと聞いた令嬢達に囲まれて。
あの令嬢には、既に婚約者がいたはず。あの令嬢もそう。公爵夫人になれるなら、破棄しても構わないということ?
令嬢達の気持ちが理解出来なくて、呆然としているうちに、高等部から追いかけてきた令嬢と中等部の令嬢との間でにらみ合いが始まっていた。
それなのに、当のステファンは腕に令嬢をしがみつかせたまま、別の令嬢と楽しげに会話している。
あれは本当にステファンなの?
ステファンの見たことがない姿に、とても距離を感じた。
誰よりも近しい関係だと思っていたのは、私だけだったのかも。寂しいのも涙が出そうになるのも仕方がないわ。だって、本当にそう思っていたのだもの。
ずっといままでのような関係でいられるとは思っていなかったけれど、こんなに距離が出来るとも思っていなかった。
胸に穴が空いたよう。
だって、ずっと側にいたの…………
でも、私には何もいう資格はないわよね。忘れていたとはいえ、ステファンに酷い仕打ちをしたのは本当だから。
ステファンと令嬢達の集団は、どこかに腰をおろすことにしたらしい。ぞろぞろと目の前を横切っていく。令嬢のうちの一人が、此方を見て フン とそっぽを向いた。
私って、知らないうちにたくさんの令嬢達に妬まれていたのね。どれだけ恨まれているのかしら…………サーシャ嬢のように、婚約者がいるからとステファンを諦めた令嬢もいるだろうし。
そう思うと同時に誰かとぶつかって身体が傾いだ。
「どういうご気分かしら?」
サーシャ嬢本人が目の前で睨んでいる。
自分でぶつかっておきながら、擦っているあたり、加減出来ないほど私が憎いのね。
それなのに、なぜステファンの側に行かずに私のところへ来ているの?
「ちょっと! 私、そんなに強くしてなくてよ?」
なぜかおろおろし始めた彼女に、どうしたのと首を傾げてみせる。
「あなた…………本当にお勉強ばかりなさってたのね」
急に疲れた様子で、手に下げていた日傘を差しかけてくる。
まったく、意味がわからない。彼女は何を言っているの?
「ねぇ、マリア様? 今、ご自分がどんな顔して泣いているかご存知?」
私は泣いているの?
慌てて頬に手をやると冷たかった。
「私はこんな人に負けたなんて…………さぁ、マリア様、此方へいらして? 平気ですわ。誰にも見えていません」
「サーシャ様、ありがとうございました」
「落ち着きまして?」
泣く私をサーシャ様が連れ出してくれたのは、ステファン達と遠く離れた木陰だった。
泣き止むまでついていてくれたサーシャ様は、驚くほど優しい。
「マリア様、どうなさりたいの?」
「どうというと?」
「お惚けにならないで。ステファン様はあのままで宜しいの?とお聞きしているのですわ」
「でも、私には何もいう資格はないわ」
「お立ちなさい」
「へ?」
「へ?ではございません! 何もせずに引き下がるなんて、そんな方に負けたなんて、私を貶めないで戴きたいわ」
白く細い手でマリアを立ち上がらせる。
「仮にも私はマリア様をライバルと思っていた時期もありますの。私は正々堂々、討ち死にしましてよ。参りましょう!」
「サ、サーシャ様?」
私より小柄なサーシャ様が、私を引き摺るようにして、ずんずんと歩いていく。
嫌な予感しかしない。この方向には…………
「サーシャ様、待ってください、お願いします」
サーシャ様の手を引き剥がそうと下を向いていたから気がつかなかった。
「もう遅いですわ、ちゃんとご自分のお気持ちをおっしゃいなさい」
数歩先でステファンが此方を見ている。
あんなにいた令嬢達が一人もいない。
「失礼致しますわね」
クルクルと日傘を回しながら、サーシャ様が去って行く。
反対に怒った顔でステファンが近づいて来た。
「どうして泣いているんだ!」
「そんな怖い顔で怒鳴らないで」
「怒鳴ってなんかいない!…………悪かった。どうして泣いているのか聞いてもいい?」
「ステファン?」
「ああ」
久しぶりにステファンが優しい。
「あの……」
「うん?」
言えない!言えないわ!
だって、ステファンはもう私を望んでいないとハッキリお父様に言ったのよ。今さら……
「マリア、僕に言いたいことがあるんだろう?」
気のせいか、ステファンの声が上擦っている。
私を見る目もとても柔らかい。
「心配はいらない。言ってごらん?」
でも、やっぱり無理だわ!
「約束ってどんな約束だったのかな?って。
ほら、すっきりしなくて…………」
「…………それだけ?」
ステファンの声が急に冷たい。
「え、ええ」
「そうか。ごめん、僕ももう忘れたよ」
声どころか視線すら凍りそう。さっきまで優しかったのが嘘みたい。
「そんなことはもう気にする必要ないんじゃないかな。君にはもう関係ないことだよ。それじゃ」
「でも、」
なおも、いいかけた私をおいて、ステファンは高等部に戻っていく。
その早さに強い拒絶を感じて足が動かない。
もう、彼の側には私の場所はないというかのように、どんどん遠ざかっていく。
身体が自分のものではないかのよう。
いつの間にか、座り込んで芝生を握り締めている。
サーシャ様が日傘を放り出して駆けて来るのが滲んで見えた。




