9.森の古城⑮ 動き出す物語
「確かにお預かりしました。うちのギルドの鑑定の人たちに調べてもらうように頼んでおくから」
「はい。お願いします」
あの後、何とか全員バスの時間に間に合いギルドまで戻ってきた後、俺たちは受付に行って水瀬さんに古城で起きた出来事を話し、例のマナクリスタルをギルドで調べてもらうように頼んでいた。
「……にしても、皆随分と疲れた顔してるけど本当に大丈夫?」
「まあ……何とか。はは……」
ただでさえ、ダンジョン探索に戦闘をした後だというのに、その直後に徒歩20分の距離を全力疾走した後に40分もバスに揺られたのだ。
皐さんや木ノ崎先輩はまだ幾分かは大丈夫そうだが……いや、晃太も割とピンピンしてんな。
ということで、俺と美穂と紗奈は今日1日の疲労が溜まりに溜まり、ぐったりとしていた。
特に紗奈はこくこくと体が揺れていて今にも眠りそうである。
「まあ、その日向君たちが接触した男の人とこのマナクリスタルのことは私たちに任せて、ゆっくり休むといいよ」
水瀬さんはそう言ってにっこりと優しい笑顔を俺たちに向けてきた。
……これで癒される冒険者は数知れないだろう。
「はい、ではこれで」
水瀬さんの笑顔で心が回復した俺は水瀬さんにぺこりと頭を下げる。
それに続くように皆が水瀬さん一礼して、俺たちは受付を後にした。
「―――今日は本当にありがとうございました。2人が来てくれてなかったら今頃は……」
「そんなお礼なんていいよ。元はと言えば私があの古城進めたのが原因なんだし」
「そうだぜ日向。お前が謝ることはねえ」
「……あんたに言われると何故だか無性にむかついてくるんですけど……」
「あ?」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ。こうして皆無事だったから良かったじゃないですか」
「うう……美穂ちゃんは良い子だね、本当にごめんね……あの件……」
「いや! 本当にいいですから! なのでそのことにはもう触れないでください!」
ギルドの玄関にて、帰り道が逆方向の皐さんと木ノ崎先輩と別れる前に俺は改めて2人にお礼を言った。
原因は何であれ、2人が俺を助けてくれたのは事実だし、あんなのは本当に予測できない出来事だった。
2人が来てくれなかったら俺は今頃どうなっていたのか……。
そして、結局皐さんは美穂たちにもバスの中でカサカサに件について正直に話し謝っていて、美穂は最初怪訝そうな顔をしていたがすぐに皐さんを許してあげていて、晃太と紗奈はそもそもカサカサは平気な類なので気にしていなかった。
「じゃ、またね」
「また」
皐さんと木ノ崎先輩はそう言って、俺らに軽く手を振って帰っていった。
「……ねえ南」
「どした?」
「あの2人、口喧嘩ばかりしてたけど一緒に帰る辺り何だかんだで仲良いよね」
「あれだろ。喧嘩する程仲が良いってやつだろ。あの2人の場合は」
美穂が遠ざかっていく2人の背中を見てクスッと笑う。
「さ、俺たちも帰ろうぜ。そこに今にも寝そうなやつもいるし……」
俺はそう言って紗奈をちらりと見る。
さっきから歩くときもフラフラしてたがこいつは本当に大丈夫だろうか。
「ふ……なんの……問題……も……ない。寧ろ……眠った時に……我……の……真の力は……発揮され……」
うん、大丈夫じゃねえな。
「はあ……しょうがねえな。おい、家まで送ってってやるから晃太におぶされ」
「は!? 俺かよ!」
「この中で一番ピンピンしてんのお前だろ」
「うっ……それもそうだな。ほれ、紗奈」
「ぐ……かたじけない……」
紗奈は眠気がピークだったのか、晃太におぶさるとそのまま寝息を立てはじめた。
「即寝かよ……」
「あらら、さすがの紗奈も眠気には抗えなかったかー」
その様子を見てにやにやする美穂。
晃太もさすがに少し恥ずかしいのか、顔を少し赤らめている。
「……っておい、こいつが寝たら家まで送り届けられねえじゃねえか! 俺、紗奈の家とか知らねえぞ」
「いいよ。私紗奈の家知ってるから案内するよ。皆で行こ?」
「なら頼む……ってそしたら俺別に付いていく必要なくね?」
「いいからいいから。たまにはこういうのも良いでしょ?」
「そうそう、南が家まで送り届けるって言い出したんだしな」
「……それもそうだな。じゃ、紗奈を家まで送り届けるとするか」
「「おう!」」
こうして、俺たちは全員で紗奈を送り届けるために歩き始めた。
そして、この日の出来事が俺たちの運命が動き始めることにきっかけになるとは、まだ誰も知るよしもなかった。
▷▷
「―――では、その邪魔が入って例の物を入手するのに失敗したと?」
「申し訳ありません」
とある場所、とある部屋にて、全身を黒いフードで包み込んだ男を前に古城にて南たちに襲いかかった音のフォースを操る男が片膝をついて謝罪を入れる。
「……まあいいでしょう。今はまだ無理をする時期ではありません。あなたも我らの大事な戦力……。今回はまあよしとします」
「はっ。ありがとうございます! それでなんですが、その邪魔をした1人に朱雀の契約者がいるのを確認しました」
「ふむ……それは真ですか?」
「はい。その者は紅蓮の炎を操り、さらには朱雀を召喚したのをこの目で確認しております」
「そうですか……。それは探す手間が省けましたね。何故、このイーストに南の守護神である朱雀とその契約者がいるのかはわかりませんが……それはとても良い情報です」
「この契約者と朱雀はいかが致しますか?」
「しばらくは放っておいて大丈夫です。まだこちらも準備ができていませんから」
「かしこまりました」
「では、ご苦労様でした。サウンさん」
「はっ、失礼します」
サウンは黒いフードの男に頭を下げると、この場から去り、この部屋には黒いフードの男1人となる。
「ふふ……さて、どうなるのやら、楽しみです」
男はそう言って口元をニヤリとすると、その場から姿を消した。
Chapter1 Encounter and Start -Story that begins to move- END
To be continued in Chapter2