9.森の古城⑭ 謎のマナクリスタル
「南、あいつは!?」
「逃げたよ……というかまじでお前らどうした?」
「逃げた? なら良かった……というかその人たちは……」
「ああ……皐さんと木ノ崎先輩。色々あって助けてくれた。というか俺の質問に答えろよ」
「ああ……それは―――」
俺の質問を無視して、質問ばかりしてくる晃太に変わり、美穂が晃太と紗奈がこの状況になった経緯を説明する。
「ふーん……なるほどな。ならもう一旦降ろしてやれよ。紗奈が恥ずかしさのあまり顔真っ赤にしてるぞ」
俺が晃太にそう言うと、晃太は紗奈の顔を見て自分も少し顔を赤らめた後、慌てて紗奈を降ろしてやっていた。
「……というか美穂、お前が紗奈に“リカバリー”掛けてやれば良かったんじゃね?」
「あ……」
美穂は俺の言葉にその手があったと言わんばかりに思い出したような顔をする。
「急いでたからすっかり忘れてた……」
「おいおい……まあいいや。で、そっちはどうだったんだ?」
「そうだった。これを見て!」
美穂はまた思い出したように、自分の腰に着けているポーチから小さい箱を取りだし、それを開ける。
「これは……マナクリスタル……か?」
箱の中には、俺のペンダントの紅色のマナクリスタルと同じくらいの大きさをした透明に輝くマナクリスタルが入っていた。
「うーん……確かにマナクリスタルっぽいけど……透明なものは聞いたことないな……」
皐さんが箱の中のクリスタルを除きこんで考え込むように呟く。
「うむ……透明なマナクリスタルか。私もこのようなマナクリスタルは初めて見たな……」
「ハバネロでも見たことないのか……」
ハバネロは神獣と呼ばれる生き物だけあって、それこそ何百年、もしくは何千年生きてるのかもわからないレベルで長寿である。
そのハバネロが知らないというのはよっぽどなのだろう。
「そもそも、この古城にこんなのあるなんてね……。ここって割と調べ尽くされてるダンジョンだし、私たちも前に来て全部の部屋回って見たけど、日向君たちの言う鍵なんてなかったし……」
「それに、モンスターハウスにカサカサの大漁発生だったか……? そんなのもなかったぞ確か」
カサカサという言葉を聞いて美穂が「ひっ」と声を上げて耳を塞ぐ。
どうやら、心のダメージはまだ結構残ってるらしい。
「っと悪い。あの名は迂闊に出すもんじゃねえな……」
木ノ崎先輩はそう言って何かを思い出してしまったのか少し顔を青ざめさせる。
……あれだよな、さっきから話聞いてて思ったけど、木ノ崎先輩もカサカサ……というよりは例のアレが苦手な感じだよな。言ったら怒られそうだから言わないけど。
「ま、まあ、私たちがここに前に来たにも2年は前の話だし、このダンジョンのギミックとかが変わってるって可能性もなくはないし……」
「……大自然の摂理……ですか。でも……」
美穂が皐さんの言葉に何か引っ掛かるような顔をする。
「どうかしたのか?」
「うん……あの隠し通路の先、鉄の扉があったんだけどそれが鍵を使って開けても中々開かなかったんだよね」
「あー、確かに重かったなあれ。美穂に“アームズ”掛けてもらって3人で押してようやく開いたし」
「そう、確かに重かったんだけど、でもあれ、それだけじゃなかったんだよね」
「というと?」
「あの扉、扉の間とか隙間とか見てみたらあちこちが結構錆びてて。それも大分年月掛けてるような錆びかたで……。だから、あくまで私の推測なんだけど、あの隠し通路と私たちが見つけた鍵、最初からこの古城に存在してたんじゃないかなって。今までは何かしらの方法で鍵も隠し通路も見つからなかったってだけで」
「んー……何かしらの方法か……。でも、そんなのあるのかな?」
美穂の考えに、皐さんは疑問の声で自分も考えるような顔をする。
まあ、この古城が調べ尽くされてるダンジョンだって言うなら、俺たちが見つけた鍵を他の冒険者たちが見つけててもおかしくはない。
それに、何かしらの方法で隠されていたなら、どうして俺たちは鍵を見つけることができたのかという疑問も出てくる。
別に俺たちは普通に探索してただけで、特別なことはしていないし、偶然的に見つけたようなものだ。
けど……。
「あ、あくまでも推測なので……」
「……いや、その推測、当たってるかもな」
多分だが、美穂の言っていることは結構正しい答えなのかもしれない。
「へえ……どうして?」
皐さんが俺の言葉に興味津々そうに聞いてくる。
「いや、俺たちがここに来たのは皐さんに進められたからであって、まあ言ってしまえばたまたま来たようなもんです。けど、あの男は違った。俺たちが戦ったあの男、鍵がどこでつかわれるものなのかもそうだし、隠し通路がある場所もわかってたような感じで、明らかに目的を持ってこの古城にやってきた。つまり、大自然の摂理とかじゃなく、この古城には元からあったんですよ。鍵と隠し通路、それにこのマナクリスタルが」
「でも、だったら今頃はとっくに別の冒険者が……」
「そうですね。元からあったなら、とっくにこのマナクリスタルが発見されていてもおかしくはないです。だから、元からあって尚且つ、今までは発見されていなかったということは、何かしらの特殊なギミックみたいなもので見つからないようにされていた。けど、それがつい最近になって解かれたとしたら……それを知ってあの男が今日この古城にやってきたとしたらこの話の辻褄が合うような気がするんですけど……ってどうしたんですか?」
俺が自分の推測を話し終わると、皐さんと木ノ崎先輩がポカンとした顔で俺を見ていた。
「……日向、お前頭良いんだな……」
「……すごい。見た目とは裏腹に結構……」
「……皐さん、それは一体どういう意味で……?」
「いや! 何でもないよ! 何でも! あれだね! その、日向君の推測なら辻褄も合うし……ね?」
「はあ……まあいいや。で、問題はこのマナクリスタルですよ」
「マナクリスタルがどうかしたのか?」
「透明なマナクリスタルなんてこの中じゃ誰も聞いたことないって言うし、どういうものなのかもわかりません。もしあの男がこのマナクリスタルについても何か知ってたとしたらどうすると思います?」
「……そりゃ、狙ってくる可能性はあるな」
「ですよね……。だから、これをどうしようかっていうことなんですけど……」
「……うーん、まあギルドに預けるのが一番無難じゃないかな?」
「ですよね……」
これを元の場所戻すというのも危険だし手元に持っていてもあの男に狙われる可能性がある。
なら、ギルドに預けて調べてもらうのが一番安全だろう。
「じゃあ、そろそろ帰りますか……夕方も近い時間ですし」
「そうだね。皆疲れてるだろうし」
「……半分は皐が原因だけどな」
「あ?」
「南、では私は戻るぞ」
「ああ、サンキューな」
皐さんが木ノ崎先輩の言葉に逆ギレしかける中、ハバネロは俺のマナクリスタルを通して帰っていった。
「……紗奈、ずっと黙ってたけど大丈夫か?」
「大丈夫……問題……ない……その……恥ずかしかったけど……悪くはなかった……」
「え? 何だって? 最後の方何て言ったんだ?」
「な、何でもない!」
「あ、美穂、悪いけど“リカバリー”頼む。今立つのもままならない状態で」
「ええっ!? それなら早く言ってよ! “リカバリー”!」
「お、サンキュー」
そして、各々がガヤガヤと会話する中、“リカバリー”を美穂にかけてもらった俺は、立ち上がってバッグの中からバスの時刻表を取り出して、スマホで時間を見る。
「……あ、次のバス10分後じゃん」
俺の言葉で全員がピタリと止まる。
「その次は……2時間後!?」
そして、その言葉とともに全員の顔が引きつり、誰が合図することもなく一斉にバス停に向けての全力で走り始めた。




