9.森の古城⑩ 一か八か
「あれか……だがまだ未完成だろ? 使うのはリスクが高いぞ?」
「まあ……正直賭けだな。けど、あれを使う以外にあいつに勝てる方法が俺には思いつかない……」
相手も大分消耗してくれてはいるが、こっちも波動の消費が激しい状態だ。
“ヘヴンズヘル”に耐えるようなやつだ。
今の状態で“朱凪”を使ってもきっと耐えられてしまうだろう。
ならば……!
「“ビートキャノン”!」
「“メテオスマッシュ”! ………ぐっ!」
男の攻撃に“メテオスマッシュ”で迎え撃って相殺を試みるが、力負けしてしまい腕に激痛が走る。
「どうした! もう終わりか!?」
男は両手を前にかざしてさらに追撃体勢に入る。
「ハバネロ!」
「……しょうがないな。やるか」
ハバネロがそう言うと、ハバネロの全身から紅蓮のフォースが溢れだし俺に向かって放たれてくる。
「……くっ!」
ハバネロのフォースが全身に血管のように張り巡ってくると、俺自身のフォースから力が溢れてくると同時に全身に痛みが走る。
いつもは、この全身の痛みに耐えきれなくて失敗していたが、今、この場に限って、失敗するわけにはいかない。
「ぐっ……はあ……はあ……ふう」
「……一応は成功というところだな」
何とか痛みに耐え、俺は今まで練習で成功できていなかったスキル〈クロス・バースト〉の発動を成功させることができた。
〈クロス・バースト〉は、神獣クラスの契約獣或いはその契約者が使えるスキルで、全身に張り巡らされたフォースが軸になって、自身の波動の質そのものを濃く、そして強くすることのできるスキルである。
その際に、〈クロス・バースト〉に対応できる身体やマナを持っていないと、俺みたいに全身に激痛が走り、発動できない場合が多い。
〈ライズ〉が自身のマナの質量を増やして魔力やフォースへの変換量を上げるのに対して、〈クロス・バースト〉は波動の質を直接的に濃くすることで、より強いフォースを扱えるようになるスキルである。
簡単に言えば、量の〈ライズ〉、質の〈クロス・バースト〉と言ったところだろう。
さて、本来であれば、〈クロス・バースト〉は1人で発動させるスキルなのだが、まだ1人で扱えるレベルまで俺が達していないこともあり、今の段階ではハバネロにフォースを分け与えてもらい何とか〈クロス・バースト〉を発動させているわけだが……。
「その感じと南の残りの波動を考えたらそう長くはその状態でいられないからな」
「……ああ、わかってるよ……!」
くそ……痛みで身体が焼けるようだ。
元々1人ではまだ使えないスキルをハバネロの力を借りて強引に発動させているからか、その反動が全身に襲いかかってくる。
「はっ、何かパワーアップしたようだが全然使いこなせてみたいだな!」
男は〈クロスバースト〉を発動させると、一瞬だけ焦った表情を見せたが、俺の痛みに耐える顔を見てすぐに表情を戻す。
「“ビートバレット”!」
そして、両手の指先を俺に構えると同時に、指先から音の衝撃弾が放たれた。
「ふっ」
よし……全身に痛みは走るが、動けない程じゃない。
俺は音の弾丸をかわし、反撃に入る。
「“火手裏剣”!」
俺の手から放たれた“火手裏剣”は、いつも放つものより、より濃い紅色の火を纏い男に向かっていく。
「ぐっ……!」
さっき放っていたものよりも素早いスピードで放たれた“火手裏剣”は、かわしきれなかった男の左腕にかすっていき、ジュウッという音とともに切り傷と火傷を同時に負わせていく。
俺はさらに追撃を加えるために、右手に“火炎刃”を発動させ、男に斬りかかる。
「“大音壁”!」
だが、男もそれにすぐに反応し、音の壁で俺の攻撃を防ぐ。
「くっ……! はあ……はあ……」
反撃されないように俺はすぐに男と距離を取り、息を整える。
動ける程度と言っても、やはり動く度に痛みが全身に走るわけで辛い状態のことには変わりはない。
できれば短期決戦で決め込むか、それがダメなら最低でもあいつらが戻ってくるまで足止めしなければならないが……。
美穂のことだ。
言うのを忘れてたが、あいつならきっとギルドに救助を呼ぶなりしてくれるはずだ。
多分。
「はあ……はあ……どうした? 辛そうだぞ?」
「はあ……はあ……そっちこそ……はあ……息切れ……してるじゃねえか……はあ……」
「おかげでな……さて、そろそろ遊びは終わりだぜ……!」
男は再び両手をかざして攻撃体勢に入る。
「これで終わりだ。“ハイビートブラスト”!」
「なっ……!」
男の両手からは白いフォースが溢れ出し、俺に向かって一直線に目にはっきり見える衝撃波の光線のようなものが飛んできた。
「くそ……! “朱凪”!」
上級クラスの、それも〈ライズ〉状態のフォースを受けれる技は俺にはこれしかない。
俺は渾身の“朱凪”を放ち、男の放った“ハイビートブラスト”にぶつける。
すると、威力が互角だったのか、激しい爆音を響かせた後、2つの技は相殺され消え去った。
これはマジでやばいな……。
今の渾身の“朱凪”で波動がほとんど消費されちまった。
〈クロス・バースト〉を維持できるのもあと少しだけだろうし、体力的にも時間はもうそんな持たない。
俺はどうにか策がないか頭をフル回転させて考える。
「はあ……はあ……」
早くこいつをどうにかしないと……!
「くそ……いい加減そこをどきやがれ! “ビートウェーブ”!」
「“メテオ……スマッシュ”!」
俺は男の攻撃に正面から突っ込んで全力で殴りかかる。
ここだけは、通させるわけにはいかない……!
「マジでしつけえな……“ビートキャノン”!」
「っ……!」
“メテオスマッシュ”でまた男の攻撃を防ぐと男は追撃するように“ビートキャノン”を次々と撃ってくる。
俺はそれをギリギリでかわしていくが……。
「!? やば……」
「南!」
アドレナリンのおかげか、感覚が麻痺していたのかわからないが全身の痛みに身体が慣れかけていたところで、攻撃をかわした時に着地に失敗し俺は足を挫いてしまった。
俺にフォースを分け与えたことで戦わずに上空で待機していたハバネロが俺の元へと寄ってくる。
「……っがああ!!」
足を挫いたことで、全身に再び痛みが襲いかかってくる。
そして、痛みに耐えきれず、〈クロス・バースト〉が解け、正に絶体絶命の状態となってしまった。
「……随分と手こずらせてくれたが、もういい加減終わりみたいだな」
「ぐっ……」
「南!」
男はニヤリと笑みを浮かべ、俺に向けて手をかざしてくる。
ハバネロは、俺の服の襟を摘まんでここから離れさせようとしているが、いかんせん姿が小さい状態なので俺の服の襟が伸びるだけで身体はビクリとも動かない。
「じゃあな」
男はその言葉の後、俺に向かって止めを刺すように攻撃してきた。




