9.森の古城⑧ ライズフォース
アビリティには3種類の能力が存在するが、この3種類全ての能力に共通するあるスキルが存在する。
スキルの名は〈ライズ〉。
このスキルは、自分の体内に存在するマナの質量を増やし、魔力や波動などに変換する量を上げることで通常時よりも強力なアビリティが発動できるようになるというものである。
その特徴は、体内には収まりきらずに常に全身から溢れ出ている魔力や波動が、オーラのように使用者を包み込むことであるらしいのだが……。
「……〈ライズ〉」
正に、今の男の状態がそれである。
「まさか、ガキ相手に本気出すことになるなんてな……だが、こっちの方が手っ取り早いか」
〈ライズ〉を使えるのは、冒険者の中でもマナの扱いに秀でていて、尚且つアビリティの扱いに長けている熟練者や実力者ぐらいなものである。
つまり、この男は〈ライズ〉を使えるレベルの実力者であり、俺たちが束になっても勝てる可能性が低い相手ということだ。
「そのガキ相手に〈ライズ〉使うのは大人げないんじゃないか?」
打ちつけられた背中の痛みに堪えながら俺は立ち上がる。
「……さっきから思ってたんだけどよ、お前、年上相手にタメ口使ってんじゃねえぞ!」
「ぐっ……!」
男の怒号とともに俺の体に轟音と衝撃が襲いかかってくる。
さっきから何となく予測は着いていたが、今その予測が確信に変わった。
男の使うアビリティの特徴からして、あれは音を操る系のフォースだ。
「南……!」
「大丈夫……だ。それより美穂と紗奈は……」
「な、何とか大丈夫……」
「こ……この程度でやられるわけが……ないわ」
晃太が起き上がるとほぼ同時に美穂と紗奈もフラフラしながらも何とか立ち上がる。
晃太は変身で肉体強化されてるからそこまでダメージはなさそうではあるが、息を少し切らしている。
どうする……?
数的有利が帳消しになるくらい、今の俺たちとあいつには実力差がある。
普通に考えれば、もう大人しく鍵を渡してしまった方が良いような気もするが、かと言って大人しく俺たちを帰してくれる保障はない。
「……中々しぶとい連中だな。だがそれも時間の問題か」
男はそう呟いて、ロビーに飾られている肖像画に一瞬だけ目を向ける。
……そういえば、これだけ戦闘で荒らされてるのに肖像画の周囲だけは綺麗なままだな。たまたまなのか、それとも……。
「悪いけど、俺たちはしぶとさには自信があるからな!」
「……たち?」
「おい、一緒にするでない!」
美穂と紗奈のそんな声を受けながらも、俺は両手から“火手裏剣”を計2発男に放つ。
ツッコめる余裕があるってことはまだ2人とも本当に大丈夫なのだろう。
多分。
「ちっ……! 面倒な技を」
男は“火手裏剣”を素早い動きでかわす。
「白き光よ、聖なる輝きを持って敵を討て……“ライトニングジャベリン”!」
そして、後方から紗奈が追撃で何本もの光の槍を放つ。
「“大音壁”!」
「……音の防御壁か!」
だが、男が自分の前方に手をかざすと、轟音とともに“ライトニングジャベリン”が男の目の前で一瞬歪んだかと思うとそのままかき消されてしまった。
これは俺の予測だが、音は空気が振動し、それが波打つことによって生み出される。
また、光も波の性質を持っていることから、男の発動した音の壁と紗奈の“ライトニングジャベリン”の波長がぶつかり合い、紗奈の方の攻撃がかき消されたのだろう。
「“サンダーブロー”!」
すると、今度は晃太が男と一気に距離を詰め、“サンダーブロー”を撃ち込む。
「ぐっ……!」
男はそれを左腕で受けとめ、少し後ずさるが……。
「いってえ!」
何故か殴った側である晃太が“サンダーブロー”を放った右腕を痛そうに抑えていた。
「ふっ、今のは少し焦ったが、お前の攻撃を受けると同時に攻撃させてもらったぜ」
「くそ……!」
「“ビートキャノン”!」
右腕を抑えて少し後ずさる晃太に男は音の衝撃の塊らしきものをぶっぱなす。
「“ハイプロテクト”!」
しかし、美穂がすぐにプロテクトの上位互換である“ハイプロテクト”を晃太の前方に発動させる。
晃太の前に現れた銀色のシールドは、男の“ビートキャノン”を完全に防ぎ晃太の身を守る。
「無詠唱でこれだけの完成度の魔法だと!?」
「サンキュー美穂!」
男が美穂に驚き、晃太が美穂に礼を言っている間、俺は男の後方が肖像画になるように移動して攻撃を仕掛ける。
「はあっ!」
「くそ、またその小賢しい手裏剣か!」
俺が“火手裏剣”と“風手裏剣”を連続で放つと、男は今度は避けることはせずに手裏剣に対して先程使っていた“大音壁”でガードしていく。
俺は右手にフォースを溜めて再び攻撃体勢に入った。
「“大火手裏剣”!」
そして、“火手裏剣”の何倍もの大きさの“大火手裏剣”を右手に、それを男に向かって思いきり投げつけた。
空気抵抗の少ない手裏剣みたいな斬撃系統の攻撃に対して、正面から音の衝撃波を放っても振動によるダメージを受けにくい。
威力の高い技の場合なら尚更である。
つまり、男が次に行動するとしたら。
「っ……!」
咄嗟に避けるよな!
「しまっ……!」
男に避けられた“大火手裏剣”はそのまま空を切っていき、後ろの壁、丁度肖像画の下の位置の壁に突き刺さり、そのまま壁を燃やしていく。
「晃太! 水だ!」
「“ウォーターショット”!」
晃太が燃え上がる壁に水の球体を撃つと壁の火はすぐに消火され、燃え後から隠し通路のようなものが現れた。
「ちっ……」
男がやっちまったと言わんばかりに舌打ちする。
その様子を見て。
「……ビンゴってとこか」
俺の考えが合っていたことを確信させた。
きっとあの先に、黒い鍵と白い鍵を使えるところがあるはずだ。




