8.体育祭⑦ 明日の心構え
「今日はみなさんご苦労様でした。現在の赤組の順位は3位ですが、まだ明日で優勝できる可能性は充分あります! 明日は今日よりハードになると思いますがよろしくお願いします! それでは、お疲れ様でした!」
結果から言うと、今日時点で赤組の順位は3位で終わり、あまり良いとは言えない中間のところで落ち着いていた。
他の組団はと言うと、1位が白、2位が青、4位が緑、ビリが黄となっていて、俺が個人的に闘志を燃やしていた白と皐さんに絶対勝とうと言われた木ノ崎先輩率いる青に負けている状況である。
今日の締めの言葉を古藤さんが話し終わると、赤組の人はぞろぞろと帰っていく。
「よーし、俺たちも帰ろうぜ」
「そうだな。疲れたし」
そんな学と武井の言葉を皮切りに、鹿央を含めた俺たち4人も帰ろうとすると。
「日向君」
古藤さんが声を掛けてきた。
その隣には皐さんもいる。
「騎馬戦の時は助かったよ」
「いや、それを言うならこいつに言ってください」
俺は親指で鹿央を指した。
作戦的なのは俺が思いついたが、それを実行できたのはこいつのおかげである。
「はは、ありがとう」
「礼を言うことはない……です。一騎手として、主君を守るのは当然である…のです……」
違和感のある敬語を使う鹿央に古藤さんは首を傾げるが、あまり気にしないような素振りをする。
「ねえ……前々から思ってたんだけど、この子、ちょっと変わってない?」
皐さんは怪しいものを見るかのような目で鹿央を見ながら俺に囁く。
「ちょっとどころじゃなくかなり変わってますよあいつは。でもまあ、悪いやつではないんで」
「そっか……ねえ、ちょっとこっち来て」
「はい?」
俺以外の3人と何かを話している古藤さんをよそに、皐さんが俺の袖を引っ張って皆から少し離れたところに連れられると。
「明日は気をつけた方がいいかもしんないよ」
真面目な顔でそう言ってきた。
「何をですか?」
「騎馬戦の時、昇司君のハチマキ取られないように豪の妨害してたでしょ? 何か因縁つけられなかった?」
「……そういえば、「覚えてろよ! 顔は覚えたからな!」とかって言ってましたね」
「……もしかしたら明日の競技中に豪にちょっかいかけられるかも……」
「え?」
「しかも、君だけじゃなくて騎馬組んでた子全員。特にあの騎手やってた変わってる子は危ないかもね」
「いやいや、体育祭だし、そりゃ多少の怪我はするかもしんないですけど、危ないなんてことは……」
「体育祭だから危ないんだよ」
体育祭だから?
どういうことだろう?
「普段、校内で誰か怪我させたなら問題になるけど、これは体育祭。多少の怪我は起きるのは当たり前。ましてや、アビリティ競技なんてもってのほかだよ?」
……なるほど。
「仮に怪我をさせても仕方ないっていう大義名分があるってことですか?」
「そう。まあああいう風に見えて豪は変に冷静というかいやらしい部分があるから、大怪我させることはないと思うけど……」
少し不安そうな顔をする皐さん。
「大丈夫ですよ。仮にも俺たちはアビリティ科。成り立てだけど冒険者ですし」
「それはそうだけど、成り立て冒険者の1年生とは違って私もだけど、3年生のアビリティ科の冒険者たちは2年間の経験があるし、君たちが太刀打ちできるとは思わない」
真顔でそんなことを言う皐さん。
「日向君の朱雀の力? だっけ? 放課後練習で何回か見たことあるし、すごい力だと思う。勿論、他の子たちも。でも、豪はあんな不良ぶってるけど、冒険者ランクBの実力はあるバカで、何より一緒のチームの私があいつの強さは知ってる。明日の競技、もし豪に絡まれそうになったら逃げることをおすすめするよ?期待してるよなんて言った私が言うことじゃないけどさ」
俺たちの力を評価してくれた上で、そう言うってことは本気で心配なんだろう。
まあ、体育祭だ。
そんな死ぬ気でやることもないだろうし、木ノ崎先輩の冒険者ランクがB?
俺からしたら格上も格上である。
普通に考えたら、絡まれないようにするのがベストである。
「ま、皐さんがそんなに言うなら善処しときますよ」
「……何かその言い方、怪しいんだけど」
「おーい皐さん! そろそろ行かないと! 明日の打ち合わせそろそろ始まるよ!」
皐さんが俺のことを怪しんでいると、古藤さんが皐さんを手を振りながら呼んできた。
「……はあ、まあいいや。とにかく、怪我したくなかったら豪には近づかないように皆にも言っておいてね!」
そう言って、皐さんは古藤さんと合流するとそのまま校舎の中へと入っていった。
「南、あの美人な先輩と何話してたんだよ?」
「別に大した話してねえよ」
「ホントか? お前、最近あの先輩と仲良いしなんか怪しいんだよな……」
「本当に何でもないっての」
再び合流した学とそんなやり取りをしていると。
「なあ、早く帰ろうぜ? 団長が青の団長見かけたら見つからないようにしてって言ってたし、俺あの先輩ちょっと怖いからさっさと帰りたいんだけど」
武井が神妙な様子で俺たちに言ってきた。
「そうだな。明日もあるし、帰るか」
「ふむ、明日もよろしく頼むぞ。やるからには、トップに君臨せねば」
鹿央の言葉に、「そうだな」と俺は返した。




