1.迷子たち⑥ 歩き続けて
「―――なるほど、大体理解した」
歩きはじめてからしばらくの間、俺はハバネロに現在の状況に至るまでの経緯をざっと説明していた。
そして今、話し終わったところである。
「そういうことならば、私を早く呼べばよかったろうに」
「それも一瞬考えたけど、森とか山みたいな場所ならともかく、洞窟みたいな場所で呼んでもあまり意味ないと思って」
森や山なら、ハバネロに空から出口を探してもらうこともできたが、生憎なことにここは洞窟内なのでハバネロを呼んだところで状況はそこまで変わらない。
それに……。
「まあ、それもそうか」
あっさり納得するハバネロ。
「それにしてもさ」
すると、神崎が間を挟まず口を開く。
「ハバネロって、小さいよね。私が見た文献とかだと、朱雀って人の何倍も大きく描かれてたから何か意外だったな」
「ああ、ハバネロは元の大きさはもっとでかいぞ。今は力を抑えた姿って感じだな」
「そう。私の本来の姿は、もっと勇ましく力強いのだ」
お前……それはまあ、その通りかもしれないけどよ……。自分で言うなよ……。
「へえ、そうなんだ……。……でもあれだよね。自分で勇ましいって言っちゃう辺り、ハバネロってもしかしてナルシスト?」
「「ぶっ……」」
神崎の直球な言葉に俺と晃太は思わず吹き出した。
「はははっ、神崎さん、結構すっぱり言うんだなー」
晃太が笑いながらそう言うと、神崎は「あれ、何かおかしいこと言った?」みたいな顔で首を傾げながら俺と晃太を見る。
俺は、笑いを堪えるのに精一杯で声が出せなかった。
ハバネロと付き合いがそこそこ長い俺ですら、一応気を使って本人を目の前にしては言ったことないのに。
だが、当の本人であるハバネロはこれまた不思議そうな顔をしている。
「何だ? 南も晃太も。ナルシストというのは自分に自信がある者のことであろう? 自分に自信があるというのは良いことではないか。何故そんなに笑うのだ?」
「……まじかお前」
笑いを抑えきった俺は、ハバネロを思わず凝視した。
こいつ、めっちゃポジティブな考えしてるな。
いや、まあそういう思考の持ち主だってことは前からわかってたけど。
晃太は、ハバネロのポジティブさに最早堂々と笑っていた。
そして、神崎はというと、ハバネロの発言からずっと「えぇ……」みたいな顔をしてた。
「何か……少し変わってるね、ハバネロって」
「……まあ、こういうやつだけど、嫌なやつではないから」
神崎がハバネロに対して少し引きぎみになっていたので申し訳程度にフォローを入れる。
神崎はもしかしたら、ナルシスト系は苦手なのかもしれないな……。
顔が少し嫌そうな感じになってるし。
「何なのだ一体……」
そしてハバネロは変わらず何か変なこと言ったっけみたいな顔をしている。
「いやあ、面白いなー」
はっはっはっと笑いながら歩く晃太。
「そうだなー。これで道に迷ってなきゃもっと面白かっただろうなー」
晃太をチラ見しながら棒読みでそう言うと、晃太はうっと呻く。
「南……お前まだ根に持ってんのかよ……本当に悪かったって……」
俺の意思を汲み取ったかののように、ばつの悪そうな顔をする晃太。
「それも多少はあるけどな。晃太、お前もうちょっと気ぃ引き締めておけよ。俺たち一応ダンジョンで迷子中なんだからよ」
そう、すっかり場が和んでるように見えるが、俺たちは現在進行形で迷子であり、いつモンスターに襲われてもおかしくない環境の中にいるのだ。
さっきは俺も少し気が緩んでいたが、現状はさっきから何も変わっていない。
そろそろ気を引き締め直さないとな。
「そういえばさっき会った時から思ってたんだけど、日向君も結城君もダンジョンに潜る格好にしては軽装だよね?」
神崎はそう言って、俺たちの格好を改めてじっと見つめた。
俺は、赤いTシャツの上に黒のフード付きパーカーを羽織り、下はベージュのチノパン、そして背中にはダンジョン用のワンショルダーのアイテムバッグという格好で、晃太は、上下とも黒のロングスパッツにネック付きのアンダーシャツを中に着込み、その上に緑の半袖のジャージみたいなチャック付きの上着に、黒のハーフパンツという格好で腰にアイテムポーチを装着してるという格好だった。
「俺はこのくらいの格好が動きやすいからな」
「俺は南とはちょっと理由が違うんだけど、まあ、やっぱりこの格好が動きやすいからね。そういう神崎さんも軽装と言えば軽装だよね」
神崎の格好は、腰くらいまでの黄色いローブに白い七分くらいの襟つきシャツに青いショートパンツ、そして白いハイニーソックスに赤いブーツという格好だった。
「まあ、できるだけ動きやすい方がいいからね」
通常、ダンジョンに行く時は、行く先々にもよるが、その人が重要視するものによって装備が変わってくる。
動きやすさを重要視するなら軽装、怪我をする確率を極力下げたいなら鎧などの重装備、両方のバランスを取りたい場合は急所や怪我をしたら困るところだけにガードをつけるなど様々である。
ちなみに、余談であるが、俺たちみたいな冒険者の服は普通の服と違って冒険者仕様の服になっている。
見た目は普通の服と変わらないが、かなりの丈夫さに加え、各属性耐性もある程度付いていて、簡単に破れないようになっている。
その代わり、値段も結構張るけど。
で、話を戻すが、俺たちは3人とも動きやすさを優先したため、全員軽装なわけだ。
ま、さっき言ってたように晃太は少し理由が違うけど。