第二十八話「氷の国 グレイシャルヘブン 前編」
ともかくも風子達は空を埋め尽くすほどの巨大な氷の大木に向かった。
空に浮かんでいる雲さえも凍り付き、空は黒ずんでいる。まるで世界の終わりのような風景に風子達は違和感を感じずにはいられなかった。
もう一つ不可解なのがプレイヤーの数である。
これまでチラホラとしかいなかった他プレイヤーが、まるで始まりの町のように人混みで溢れ返っているのだ。
町の中では戦闘は行えない。だが一歩でも外に出ればそれはプレイヤー狩りの温床になる。
風子達が町の中で立ち往生をしていると、今回のイベントの主催者である、蕪木今日介率いるVRMMO部の部員達とすれ違った。
蕪木はニヤリと笑って風子達を見下すような目を向けた。
「あの大木に向かうつもりか?やめておけ。ここにいるプレイヤーはみんなあそこに向かう予定だ。とてもじゃないが戦闘不能者を出さずに戻ってくる事などできやしない」
読子はムッとしてゲームを熟知したように語る蕪木に反目した。
「なんでそんな事分かるんや」
「あそこにある魔氷晶というアイテムはレベル差を補って余りあるほどの力をもらえる。それを使ってやることと言えば一つだろう」
「他プレイヤーを狩る……」
「そういう事。残り時間のすくない今、レベルの高い奴らを一掃してしまえば必然的に勝ちが得られる。だからあそこに向かっているのさ」
「蕪木君は行かへんの?」
「行くさ。と言っても、わざわざ自分の手で取る必要はないだろう?それに奪い合って自滅するくらいなら、取ってきたやつをリンチする為の集団でも作っておいた方がいいのさ」
そう言って立ち去っていった。
読子は呆れたように腰を手に置いた。
「ゲーマーってみんなあんななんか?」
「楽しみ方は人ぞれぞれだよ」
風子は蕪木の事も、他のプレイヤーの事も気にせずに町の外に出た。
草原は徐々に枯れた草の大地に変わっていった。
生物の繁殖を拒み、生を食い尽くすように広がる氷の大地がそこにはあった。
寒さの元凶に向かって、風子は迷わずに歩いていった。
氷の大木の横には穴が開いており、そこから光が漏れているのが見えた。
その天然の家に誰かが住んでいるようだった。
黒ずんだ闇の中に淡く光るそれは風子達の心を少し安心させた。
「良かった。誰か住んでるみたいだよ」
「妖精でもおったらロマンチックやなぁ」
だべりながら歩いていると、徐々に重たい雲が空一面に広がっていた。
夜よりも暗い闇が風子達を襲ったのだ。
大木に明かりが付いていなければ、お互いがお互いの顔を見る事さえできなかっただろう。
そんな暗がりの中、一同は恐る恐る歩を進めた。
その時、何か閃光のように煌く明かりを風子は捉えた。
風子が身を翻してそれをかわすと、風を巻き起こして相手をけん制した。
目が暗闇になれたのか、次第に相手の姿が浮き彫りになった。
それは大きな薙刀のようなものを持った女だった。
どうやら炎天学園の生徒のようだ。
「第一剣道部副主将・一条谷舞、推参!」
律儀に自己紹介をしたかと思うと、舞は自分の刃を避けた風子を一瞥した。
「暗闇で私の刃を避けるなんて、さすがね」
「窓の明かりが反射してたからね」
二人はお互いに興味を持ち始めた。
風子は臨戦態勢を取って言った。
「ここは私に任せて。読子ちゃん達は大木に行って魔氷晶ってやつを取ってきてよ」
「わかった!負けたらあかんで!」
そういって読子達は大木に向かっていった。
一条谷は再び大きな刃を風子に向かってきらめかせた。
「薙刀とはやったことないなぁ」
「薙刀じゃございませんわ。これは大長巻、剣と薙刀の中間の剣ですわ。薙刀に近いけど剣のように扱える以上は剣なんでございますの」
そう言って一条谷は大長巻を小気味よく回転させながら風子に斬りかかった。




