4-7 Stage:BRIEFING FIELD[上層]
状況を可視化したものが、悠月の視界全体に広がっていた。
灰色の曇り空。目に映るもの全てがモノクロのようだ。
モノレールが海の上ではなく、街の中、それも道路の真ん中を陣取るように作られた高架の上を走っていた。最初は一両だけかと思っていたが、その内青い骨組の光が前の車両と同じ形をなぞるかのように、空中を走り出し、やがて2両目が完成し、同じ要領で3両目の形が現れた。
『現実の電車を自分の空間に投影しているのか?』
頭の裏側で将司の声が響く。悠月は何も言わなかった。
やがて、白い輪郭を持った黒い糸のような物がその車両の上で集合し始めた。
多くの糸。何かの形を作ろうとしている。
彼等は五つのグループに分かれ。一つは不気味な箱のような形をした物体に。残りのグループは足の様な形へと姿を変え、車両を取り囲んだ。箱の様な物体は雲のように車両に影を(もうすべて影だが)与えていたが、脚の形をした物体と連結し、その中央に紅い光と脚まで至るラインを灯した。
『奴等は本体の子どもに過ぎない、だが子どもが集まって最早独立したBUGに近いものとなる。マシロは一度目のサイバー攻撃の時、その状態に至るまでに駆逐した。奴はもう十分に独立したBUGとして機能しつつあるはずだが、BUG検索に引っ掛かるまでの空間を、「メタグロシィ」のコンピュータ内に構築したのはついさっきの事だ』
『すると、これは今までの空間とは違う、「BUGによって戦闘できる場所として改築された4脚車両の中枢機器の中にある電子空間」だってことか』
頭の裏側で香流と将司の声が響く。
気付いた時には有事(それも、いつもより特殊な)が起こっていて、それが香流先生や悠月達に干渉できるようになるまでに時間が掛っていたのだ。悠月が簡単に整理した所で気が付けば、巨大な四脚のBUGが車両と並走していた。車輪のついていないBUGは先が針のような四脚を交互に踏み出しゆっくりと、しかし下の車両と同じスピードで動いていた。
映された物は停止した。画面は切り替わり、将司の身体と香流の顔が映し出されたウインドウ、そして四角のグリッドで囲まれた小さな部屋の様な空間が現れた。
『マシロの話ではこうやって対象に集まる子どもたちの他に、周りのビルの天井に常駐する子どもたちもいたらしい』
「サソリ型の様な戦力分散型ってこと?」将司は訊く。
『いや、子どもたちは攻撃対象を見つけると一気に集合し、一つのカタチに姿を変えるらしい……つまり車両を取り囲み走行する集合体と、外敵を積極的に駆逐する事に専念する集合体がある……という事だな』
「なるほど、そいつは二手に分かれた方が勝手がいいって事だな」
将司の考えている事は悠月にもすぐに分かった。悠月が外敵を駆逐する方の集合体を相手にし、将司が遠くから電車を取り囲む共同体を破壊する。あまり時間の猶予が許されていない事も確かだが、それは将司が悠月に対して初めとは比べようもない程の信頼を置いている、という事も表していた。
悠月はそれに対して軽く肯いた。




