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昼に入ってすぐの授業、悠月は黒板の前で熱心に話す教師の言葉を、悲しい事に悠月はあまり聞いてはいなかった。
悠月は2つのノートを開いていた。一つのノートには黒板に書いてあるものと教師からごく稀にでてくる、悠月のいい加減な聞く耳にもひっかかる言葉を書き残したノート、そしてもう一つのノートはテキストの隙間から半分だけ顔を出していた。
つたない吸収力で格闘術の事について書かれたものを書き出した文面。それを重力操作『可能』空間でどう適用させるのか……悠月は先程の戦闘で、それを無意識にでも適用させつつあるきらいがある、と自己評価していた。しかしそれを文章にしてアウトプットしろ、と言われれば悠月は迷ってしまうのだ。
それにしても、と悠月は考える。自分がこれだけ迷うことなく、『何か』が係った戦場に駆り出されているという事を意識することなく、戦っている。こんな事があっただろうか?どれもこれもが中途半端で。中学の頃、悠月は陸上部に入っていた。短距離組だった。しかし、普段走る時に競技中に考えていたことと同じ事に気を付けるかと言われれば、そうではない。つまり、全て過ぎ去った事だった、それだけの事だった。思い出の一部だったと認識しているのだ。今の自分は今の自分。その時の自分は……
何か、影響されているだろうか?
本当に、思い出に過ぎなかったのか?
今必死に研究していることも……
BUGが殲滅されて、危機が去れば……
でもそうすれば、
父親の事を、少しでも知る事かもしれない。
悠月はその悠月のセカイでの『大義』を、一時忘れていた。そして今、思い出した。
無駄ではない。続いている。
それでも今は……
ちら、と葵が座る机の方を目にかける。
即座に、ボキ、と何かが折れる音がした。
鉛筆の生首――折られた先っぽの部分だけが葵の手中にあった。
次は貴様だ、と言わんばかりに彼女はその生首が握られた、ご丁寧に親指の立てられた左手を、静かに180°回転させた。
明らかに、悠月の視線に気付いての犯行だ。
――エスパーか、アイツは。
悠月が敵に届く訳ないのにしっかりと毒づいてやった後で、筆箱の中がぱっと光るのを見た。葵も全く同じ事が自分の机で起こっている事に気付いたらしく、鉛筆の生首を机の端に放り投げつつ、与えられた情報を確認する。
光るのは、召集を告げる電子ペーパー。
『【緊急招集】佐伯悠月、神町将司の両名。所定の持ち場に集合し指定の操作を行いSTAGE:BRIFING FIELDに接続する事。授業を妨げてすまないが、今すぐに。 香流晃一』
再びちらと葵の方を見ると、視線を落としたまま手を握りしめていた。彼女の残念そうな顔を、悠月はイメージする事が出来なかった。
授業の途中で召集が発生するのは初めてだ……先生は皆、香流晃一の名を言えば退出を許可してくれるとのことだった。悠月は少し戸惑ったが、心の昂りが無いかと言えば嘘だった。『今実際に何が起こっているか』なんて、悠月はまだ知らなかったのに、突然の召集に疑問を抱く事はしなかった。




