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キルトリ KILL-TORI  作者: モノクロック
EP.04 to京 WARGAMES
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50/63

4-5

 スクウェア局室内。

 コピー機の近くで、二人の男が向かい合っていた。

 たった今プリントアウトされた、問題用紙を取り囲んで。


「カリキュラムって物があるんじゃないんですか?」山路という名の局員は言った。

「知らん、これが最初に学ぶべき事だと俺が判断した」香流は言った。

 

 香流と同い年くらいの山路はくたびれたTシャツをまくり、がっしりとした腕を組み、邪魔モノそうに分けられた髪の間の額を叩いて、何度目かの首を振った。

 

「A∪B=AはA∩B=Bであるための……とか、センター試験でしか見た事ありませんよこんなの」

「お前でも解けんというのか?こういうのは互いの包含関係を意識してどちらの方向からでも正しい間違ってるを判断してやればいいだけの話だろうが」

「わか……んないっていうか、高1の子たちにいきなりこれは可哀想でしょう!」

「大学に入ってから躓くんじゃ遅いんだよ!!!」

「高校生の全員が全員理数系の道を歩む思ってんじゃないよ!!!」


 山路や香流の後ろになんだなんだと屯する局員達、馬鹿馬鹿しいと思って自分の持ち場でマジメにディスプレイと向き合う局員達。弥生は隅っこの筐体じみたコンピュータを取り囲む鉄製の柵に寄りかかり、冷ややかなクーラーの風を背中に受けていた。

 ふと、甲高い電子音が香流を振り向かせた。

 大スクリーンが、“UNKNOWN”……非通知の名の元に現在進行形で呼び出し音を鳴らしていた。


「マシロか?」


 香流は呟きながら最低限の挙動でデスクの方へ向かい、キーボード・パネルの2つの箇所を同時に押さえつける。


「香流、まだそっちでBUGの『空間構築』反応を観測してはいないか?」澄んだ声は、マシロのものだった。

「お前がさっき構築した『可動区域』の報告を待っていたところだ、一体何があった?」

「『ZONE』を2度も勝手に構築した事は謝るよ、実はついさっき大きなサイバー攻撃があってね、それは実害の起こらない内に食い止めたのだけれど……二人でRAT攻撃をしてくるBUGがもしいたら、という話をしたのを覚えているかい?」

「ああ、お前が懸念していたっていうアレ……まさか」

「そいつが攻撃対象を先程切り替えた。潜伏していた場所とログイン場所を今特定して、その攻撃対象を割り出した。奴がいまそこに向かっているかは分からないが……」

「潜伏場所と攻撃対象について教えてくれ」


 香流は再び幾つかのキー型プレートを押さえ、情報処理アプリのウィンドウを開く。


「潜伏場所はラクティス事業所の機器操作PC、何年も使われていないであろうそれが誰も居ないのに起動していた理由については不明」


 マシロの言葉に呼応するかのように、幾つかのウィンドウが開く。


「その場所は『工場の墓場』と呼ばれているような場所だな、半径200メートル以内に稼働している工場もコンピュータも無さそうだが……」

「肉を持ったBUGが活動できる範囲は限られている。起動しないコンピュータを泳ぎ、ひいては現実にログインできるBUGが理論上存在しえない以上、それを起動させた何者かは必然的にいる。『現実の人間による行動』も視野にいれるべきだ」

「現実の人間……BUGの破壊行動に加担する人間がいるとすれば……」

「それを考察する前に知る事がある、奴の『攻撃対象』についてだ」


 全ての局員が動く事を止め、顔をこわばらせる。香流も同じだ。弥生だけが眠そうに瞑った目を触る。

 と、マシロが転送してきた一つのデータが、ウインドウのカタチで展開された。


「僕達が住む町、アティオから京を結ぶ貨物便の車両『メタグロシィ』、そしてそれを介して行われたもう一つのサイバー攻撃の対象が、同じ線を利用した快速鉄道……多くの人間を載せた移動時間11:00-15:00の湾岸線だ」


 局員全てに戦慄が走っていた。

 開かれたウインドゥは、コンピューターグラフィックスによる再現図だった。一般的な車両を軽々追い越してしまいそうな4脚が可動する車両『メタグロシィ』が3両編成の鉄道の真ん中部分を股越している……

つの車両は接触しそうな勢いで……否、完全に接触していた。『メタグロシィ』は多くの人間が載せられた車両を線路との間で挟み込んだまま走行していたのだ。

 香流もそれを疑うような目で眺めていた。


「列車は今も暴走しながら進んでいる」


 マシロは冷酷にも言い放つ。

 これが本当であれば、ついに現実の人間を対象とした最悪の事件が音を立てて進行している……この現在進行形の惨状を、ツールが足りないながらも察知できなかった事実を香流は重く受け止めていた。しかし、戦いはこれからだ――彼は起こり得る悲劇を絶対にくいとめなければならない、という気持ちでウインドゥに映る物を睨みつけた。

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