【和也】 苦い過去
非常にゆゆしき事態だ。これじゃ俺が何のためにアイツと別れたのか分からなくなっちまう。とにかく、何か手を打たないと……。
俺は深夜仕事が退けると、近所のとある神社を訪れた。やたら階段ばかり長い、小さくて寂れた神社だ。今夜は熱帯夜で、やけに草の匂いが鼻につく。店の先輩曰く、縁結びに絶大な御利益があって、地元のナンパ師の間で密かに語り継がれているそうな。そんな話丸丸信用するわけじゃないが、今の俺に出来るのは神頼みくらいだ。夜中の神社でちょっとばかし薄気味悪い思いをしながら、古びた賽銭箱に小銭を投げ込み柏手を二つ打つ。
「美貴に早く男が出来ますように」と祈った。
「――心にもない事、祈ったって叶わないよ」
背後から声がして振り返ると、夜中にも拘わらず、神主の格好をした中学生くらいのガキが立っていた。
「ガキが分かったふうな事を言うな」俺は吐き捨てるように言い階段の方へ歩き出した。
「そんなクソみてぇな願い、誰が叶えるかっつってんだよ、和也!」ガキは俺の背後からキレ気味に叫んだ。
――え? 何故俺の名前を?
「……誰だ」振り返ると奴が近づいてきた。
「そんなのどうだっていい。ホラ、これ持ってけよ」そう言って、奴は懐から白ウサギのマスコットを取り出して差し出した。「和也、自分の気持ちに正直になれたら、一番大事な相手にこれを渡すんだ。いいな?」
「はぁ、なんだコレ」半信半疑でそいつからウサギを受け取り、まじまじと見た。裏返すと赤いちゃんちゃんこの背中に『恋愛成就祈願 氷ノ山神社』と金文字が織り込んである。
「これ、お守りなのかよッ」と突っ込むと、いつのまにか怪しいガキはいなくなっていた。
俺は薄気味悪い気分のまま、ムダにラブリーなお守りを上着のポケットにねじ込んで、長い階段を駆け降りた。




