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金色の御子伝説  作者: 世捨人
旅立ち編
9/50

8話

アーサー達は街道沿いの森で狩りをしたり、川で魚を捕ったりしながら一路レジアス公爵領に向けて進んでいた。




夕食の後、木の枝にすわり今まで人間の世界で見てきたことを思い出していた。


お金という誘惑に負けて掟を破ってしまう弱い心。


失敗した者を叱咤しながらも助け合う優しい心。


恐怖に怯え法を犯す者。


領主の考え方の違いで多くの人々が笑顔になり、笑顔を失うこともあると間近に見てアーサーは『民が笑顔で暮らせる国を作る』という父の理想に誇りを持った。


しかし、ただの旅の狩人であるアーサーには何もできることがなく、人間社会の身分とか権力とかが如何に理不尽で今の自分には理解できないものであるかを思い知った。



アーサーは精霊王達を呼び出した。


「人間の社会って、みんなから教えてもらった事より複雑なんだね」


「アーサー様、我々精霊は傍観者として見ているだけで、詳しく知っているわけではございませんから」


「ウンディーネ、そうかもしれないね。僕はもっと知らなきゃいけないんだね」


<俺達『獣』のように戦いの強さだけで王を決めれば簡単なのにな>


「アーサーは王子なんだから、身分を明かせば悪い奴なんて倒せるんじゃないの?」


「シルフ、その身分というのが難しいんだよね」


「我々が御子様に力を貸せば、こんな領地の一つや二つ簡単に焼き尽くしてやるぞ!!」


「サラマンダー、そんなことしたら領民が困るだろ?」


「アーちゃんが王様になればいいんじゃない?」


「ノーちゃん、僕は王にはなれないよ。

神の子が人間を支配するわけにはいかないからね。

これからのことはランバートさんに会ってから決めようと思ってるんだ。

できれば国のこととか貴族のことなんかも教えてもらわなきゃ僕には知識が無さ過ぎるからね。」


「アーサー様のお考えなら、それがよろしいかと存じます」


「それからみんなに頼みがあるんだけど……」


「なんでございましょうか」


「パイク村のエレナさんのこと覚えてる?」


「おおっ アーサーが未亡人の色香に「違う!!」」


「彼女の旦那さんや息子さんが亡くなった状況が、僕の両親の事件と似てるような気がするんだ」


「確かにそんな気がしますね」


「それで、似たような事件が他にもあるんじゃないかって……」


「それを私達に調べろと?」


「うん。シルフが噂を集めて、同じような事件があれば契約していた精霊に状況を聞いて欲しいんだ」


「わかったわ」


「一番気になるのは、精霊が付いていながら『何故犯行に気づかなかったか?』ということなんだ。

悪意には敏感なはずだろ? 

ましてや母上は『神の加護』を受けていたのに神ですら気づかなかったんだ。

これは人間だけでできることじゃないと思うんだ。

なにか得体の知れない相手が居ると思う」


「アタイは大陸中の精霊に指示して、早急に調べてみるよ。風の情報収集能力の見せ所だね」


「僕とシロは、このまま公爵領に向かうから、みんな頼んだよ!」


「「「「はいっ」」」」




もう半日も歩けばレジアス領への関所というところで、アーサーは森を出て街道におりた。


少し先のほうに商隊らしい荷馬車が数台止まって、荷馬車の陰に数人が隠れているのが見えた。


「シロ、野盗かな?」


<いや、禍々しい魔力を感じる。おそらく狂獣だな>


「そりゃ大変じゃないかっ 急ぐよ」


アーサーとシロは荷馬車に向かって駆け出した。


アーサーが荷馬車に元に着いた時、少し離れた場所で護衛の傭兵達が狂熊マッドベアを相手に戦っていた。


魔術で火球をぶつけても、剣で斬っても全く効果がなく傭兵達はジリ貧の様子だった。


周囲には狂熊マッドベアに倒されたであろう傭兵が転がっていた。




「おじさん達っ 怪我人を連れてさがって! シロは治癒を手伝ってっ」


と一声かけてアーサーは狂熊マッドベアに突っ込んでいった。


嵐のように振るわれる爪や牙をかわし拳を突き入れるが、全く効果はなかった。


「坊主っ お前も逃げろっ」


声に振り返り傭兵達が離れたのを確認してアーサーはもう一度狂熊マッドベアに突っ込んだ。


鋭い爪を掻い潜り力強く踏み込んで、薄く光を放つ掌を狂熊マッドベアの腹に打ち込んだ。


   ズドオオオォォォォン


大音響とともに狂熊マッドベアの動きが止まった。


アーサーはゆっくりと狂熊マッドベアから離れ、狂熊マッドベアは口から煙を吐き倒れていった。


「ふう~」


大きな溜息を吐きながらアーサーは傭兵に近づいていった。


「おじさん達、だいじょうぶ?」


「ああ、なんとかな」


「怪我人は?」


と怪我人に目をやると、先ほど火球を放っていた男とシロが治癒魔術を使っていた。


「なんとか全員生きてるぞ」


「よかったね~」


「坊主のお陰だ。 ありがとよ」


「いえ、当たり前のことをしただけですよ」


「そう言われると、俺達が情けなくなっちまうぜ あはははは」


「でも危なかったですね」


「おお、いきなり街道の横から出てきて襲ってきやがったからな」


「みんな無事でよかった」


「どうやって倒したんだ? 俺達がいくらやってもダメだったのに」


「最初殴ってみて、魔力障壁か肉体強化か確かめて、あとは魔力を身体に打ち込んで身体の中で爆発の魔術を発動させただけです」


「魔力だけを打ち込んで、あとで爆発? そんなの俺達じゃむりだ」


「あはははは 僕の師匠が無茶苦茶だったから……」


「それに、あの体術もすげえや」


「そうですか? 魔狼のほうが早いけどなぁ~」


「こりゃ俺達と次元が違うわ あははは」



荷馬車に隠れていた人達も集まり、口々にお礼を言い謝礼を渡そうとしたがアーサーは断り、倒れた狂熊マッドベアに近寄って何かを拾った。


「僕はこれで充分ですよ」


と魔力石をみせた。


アーサーは怪我人の回復状態を見て、シロを連れて立ち去った。

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