7話
馬車に乗ってルディアの町に帰ってきたアーサー達はシュベルト騎士団の本部に到着した。
馬車の檻に入れられた野盗は、他の騎士に連行されどこかに連れて行かれた。
「アーサー君、こっちに付いて来てくれるかな」
と建物の中に案内された。
応接間のような部屋で、簡単な事情聴取が行われ調書が作成された。
アーサーは騎士(ルイスという名らしい)と雑談をしていると、ルイスが少し困ったような顔をして話かけてきた。
「アーサー君はレジアス領に行くんだったよね」
「はい そうです」
「このままレジアス領に行くにはバーニング男爵領を通って行くんだけど、困ったことにあそこは治安が悪いんだ」
「野盗が多いんですか?」
「それもあるんだが……領主が旅人を嫌ってるようでな……」
「なんか言い難そうですね」
「ああ…自分の領地のことを外に知られないように、旅人を殺してるとかいう噂があるんだ」
「それは怖いですね」
「商人達も決して男爵領のことは口にしないしな」
「口止めされてるってことですか?」
「そうらしいんだが、俺達も他領のことだから余計な詮索はできんしな」
「じゃあ領地への出入りも難しいんですか?」
「それは他の領地と一緒だよ。だから領地に入ってからが危ないんだ」
「僕も気をつけないといけないですね」
「まあアーサー君ほど強い相手を倒せるとは思わないが、注意するにこしたことはないな」
「じゃあ領地に入ったら街道を歩かずに森をぬけよっかな」
「森のほうが危ないんじゃないのか?」
「僕は森で育ったので、森の獣達のほうが扱いやすいんですよ」
ガチャっ
部屋のドアが開き、立派な甲冑をつけた男が入ってきた。
「君が被害者の少年か?」
「団長、彼が被害者というか野盗を捕まえた本人というか……」
「アーサーって言います」
アーサーはペコリとお辞儀をした。
ルイスは団長に野盗捕縛の経緯とアーサーの旅の目的を説明した。
「旅の途中、この領地で不愉快な思いをさせたこと深くお詫びする」
団長と呼ばれた男は深々と頭を下げた。
「いえいえ、団長さんが頭を下げるようなことじゃないですよ」
「そうもいかんのだ。あのような野盗を野放しにしておったなどと我が騎士団の恥でしかないんだよ」
「じゃあ僕もお役にたてたってことで嬉しいです」
「そう言ってもらえると、こちらも助かるな」
「じゃあ僕はそろそろ出かけてもいいですか?」
「引き止めて悪かったな。でも、こんな時間から出発するのか?」
「ええ、夜は適当に森の中で寝ますから」
「それじゃあ気をつけてな。ランバート卿にお会いしたらルイスが宜しく言っていたと伝えてくれ」
「わかりました。それでは失礼します」
騎士団の建物から去っていくアーサーを見ながら、
「あの立ち居振る舞いは平民ではないな」
と団長はひとりごちた。
ルディアの町を後にしたアーサーは、一晩森で過ごして翌日にはバーニング領の関所に来ていた。
組合の登録証で何事もなく関所を通り街道を歩いていると、野盗のような格好をした男達が後をつけているのに気がついた。
アーサーは面倒事を避けるため、直ぐに森に入った。
野盗達が森でアーサーに追いつけるはずもなく、直ぐに気配は消えていった。
「シロ、なんだか嫌な感じだね」
<森から出ぬほうが良いな>
「あの人たち野盗じゃないみたいだしね」
<うむ、訓練されておったからな>
アーサーは森を進みはじめた。
時折、森の間から見える人里は畑も荒れ果て、人々も活気がない状態だった。
中には村全部が焼き払われ廃墟となっているところもあった。
アーサーは街道沿いの森の中から、街道をみてみると野盗にしてはみすぼらしい格好をした集団に荷馬車が囲まれていた。
それぞれ手に農作業用の鎌や山の下刈に使う鉈や蛮刀を持った10人の男達が荷馬車を囲み威嚇していた。
「おいっ 荷物をおいてけっ」
「荷物さえ置いてけば危害はくわえねえだっ」
荷馬車の御者台に乗った二人の男は無言だった。
森から駆け出してきたアーサーは男達に駆け寄って話しかけた。
「おじさん達 野盗の真似なんてしちゃダメだよ」
「うるせえっ オラたちゃこうでもしねえと殺されちまうんだ」
「どういうこと?」
「この領地じゃ税が払えねえと見せしめに殺されるんだっ」
男達は必死の形相で答えた。
「その話は俺達も詳しく聞きたいな」
と馬車に乗った男が言った。
「ど・どういうことだ」
「俺達は王都からこの地を調査に来てるんだ。全部話してもらおうか」
「ほ・本当に王都からなんだな。領主様の手先じゃないんだな」
「ああ、本当に王都からだ。安心して話せ」
野盗達は顔を見合わせ武器をおろし話はじめた。
税が高く生活がままならないこと。
ここ数年不作で収穫が減っても税が軽減されないこと。
税が払えなければ見せしめに誰か殺されること。
逃げ出せば一族もろとも皆殺しにされること。
「オラ達は野盗でもして金を作るしかねえだ」
「女は犯され殺されるんだぞ」
「不平を口にしただけで半殺しだ」
口々に領主の悪政を吐き出した。
荷馬車の男達は無言で話を聞いていた。
アーサーは荷馬車の男達に聞いた。
「おじさん達、王都から調査に来たってことは、近いうちになにかするんでしょ?」
「詳しくは言えんが、放っておくことはない」
「じゃあ、みんなで森に逃げ込みなよ。森に隠れてればいいよ」
「森は危ねえだぞ?」
「おじさん達の中に森に詳しい人はいるんでしょ?」
「ああ、狩人や木こりもいるからな」
「その人達と森の水場で過ごすんだよ。水場なら安全だよ」
「どういうことだ?」
「森の掟で、水場での狩りはできないことになってるんだよ。獣も襲ってこないよ」
「そうなのか?」
「そのかわり、おじさん達も水場で獣を狩っちゃダメだけどね」
「村に帰って相談するべ」
男達は詫びを言いながら去っていった。
アーサーは荷馬車の男達を見て話しかけた。
「おじさん達、あの人達を助けてあげてよ」
「そのつもりだ」
「隣の領地の騎士団の人達も心配してたよ」
「そうか……君はこの土地の人間じゃないな」
「うん、僕はロレンツォの町まで旅してるんだ」
「それは大変だな」
「そうでもないよ。僕は森を抜けてるから野盗にも襲われないしね」
「あははははは それで森に逃げることを勧めたのか?」
「森は優しいからね。掟を守る人は受け入れてくれんだ」
「俺達も今度野盗に会ったら勧めてみるよ」
「それじゃあ、おじさん達も気をつけてね。王都の騎士団さん」
「おっ よくわかったな」
「だって、おじさん達強そうだもん」
「あはははは 君も気をつけて行くんだぞ」
走り出した荷馬車に手を振り、アーサーは森に戻って行った。




