10話
夜明け前、城裏にある鍛錬場でアーサーは日課の鍛錬をしていた。
「おっ小僧 今朝も頑張ってるな」
とにこやかに昨日合格したばっかりの男が声をかけてきた。
「おはようございます。合格おめでとうございます」
「ありがとよ。でも何で小僧がお城に泊まることになったんだい?」
「僕の父がランバート卿の弟子だったんです。
そのことを話したら父のことを、よく覚えておいでで城に留まれって言われたんですよ」
「そうか~ でも良かったな。小僧も武術習うのか?」
「いいえ、僕は世間知らずなので、世の中のことを教えくれるそうです」
「そっか、お勉強ねぇ~ 俺なら逃げ出しちまうぜ」
といかにも嫌そうな顔をした。
「そういえば、姫様の護衛は今日発表らしいな。
昨日の試合で『爆風のレックス』が優勝したから、レックス殿だろうけどな」
「どうなんでしょうね」
と苦笑まじりに曖昧に返事をした。
「集合っ!!」
大きな声がかかり、それぞれ談笑したり身体をほぐしていた騎士団や衛士隊の人が整列した。
どうしたものかとキョロキョロしている二人をランバートが手招きをして隣に立たせた。
「おはよう」
「「「おはようございますっ!!」」」
朝の挨拶が終わったあと騎士団長が
「今日は先代様から昨日の結果についてお話がある」
とランバートに視線を送った。
「まず昨日の入隊試験の結果だが、合格者はひとりだけだった。
名前はダンクル。なかなかの成績であった。衛士隊で鍛えてやってくれ」
ランバートはダンクルに視線を送り挨拶を促した。
「ダンクルと申します。未熟者ですが宜しくお・お願いしましゅ」
と噛みながら深々と頭をさげた。
「まかしとけっ」
などと声がかかり拍手で迎えられ、衛士隊の最後尾に並んだ。
「次にフローの護衛についてだが、昨日の試合内容から全員力量不足であると判断した。
そこで、昨日からワシの客人として逗留しているアーサー君に当分の間フローの練習相手を務めてもらうことになった。
皆も仲良くしてやってくれ」
ランバートはアーサーに視線を送り挨拶を促した。
「アーサーです。よろしくお願いします」
と挨拶した。
「先代様っそんな少年が姫様の相手などと納得できませんっ」
「我等が力量不足というのも納得できませんっ」
「狩人風情に姫様の相手なぞ許せませんっ」
「レオンよ、ワシの客人と知って『狩人風情』などという言葉を吐いたんだろうな」
ランバートは鬼のような形相で睨み付けていた。凍りついた雰囲気の中でアーサーは
「まあまあ ランバート様、僕が三人と試合でもすれば納得していただけるんじゃないですか?」
問いかけた。
「アーサー君がそういうなら……」
「お爺様、私も見てみたいわ」
キラキラと目を輝かせフローリアはランバートを見た。
「わかった。誰がアーサー君と試合をするんじゃ?」
「「「わたしが」」」
昨日試合に参加した3人が答えた。
「3人一緒で良いですよ」
とアーサーはあっさり答えた。3人は馬鹿にされたと思い真っ赤な顔で
「あとで言い訳はきかんぞっ」
と言いながら木剣を準備した。
「さあはじめましょうか?」
と素手で声をかけた。
「我々相手に素手とはっ 嘗めるにもほどがあるっ!」
と『疾風のレオン』が飛び出した。
目で追えないほどのスピードで攻めるレオンの攻撃をなんなくかわし、すれ違いざまに首筋に手刀を落とした。レオンはアッサリ意識を手放した。
次に『爆風のレックス』がアーサーの背ほどもある大剣を振るいアーサーに襲い掛かった。
驚異的な腕力で縦横無尽に振り回される大剣をかいくぐり、懐に潜り込んだアーサーは踏み込んだ勢いそのままで拳を腹に叩き込んだ。
グエエェェェと呻きながらレックスはのた打ち回った。
最後に残った『千手のリック』は驚きながらも、剣を正眼に構えアーサーの様子を窺った。
アーサーの身体がブレたと感じた瞬間、手首に衝撃がはしり剣は叩き落されていた。
あまりにも短時間に決着がつき、騎士団や衛士隊の面々はアングリと口を開け呆然としていた。
「アーサー君 すっご~~~~い」
「想像以上じゃ」
「凄まじい腕ですな」
とフローリア、ランバート、騎士団長は感嘆の言葉を漏らした。
アーサーは気を失っているレオンに活をいれ、レックスの傍に寄って行ったシロが癒しの魔術で治癒していた。
「なにがあったんだ?」
とレオンは不思議そうな顔で周囲に尋ねた。
「アーサー君の技量に不満があるものはいるか?」
「「「とんでもございません」」」
「アーサー君 解説をお願いでしるかしら?」
「レオンさんはスピードに頼って動きが直線的なので、ギリギリでかわして手刀を首筋に落としました。
次のレックスさんは腕力で剣を振り回してたので隙が多く、懐に飛び込んで拳を、最後のリックさんは様子見で攻撃の意志がなかったので速攻で攻めました」
「3人の弱点を見事についたわけじゃな」
「アーサー殿、自惚れておった3人には良い薬となりました。感謝します」
「皆 自分の力を過信しないよう精進するのじゃ」
「鍛錬を開始するっ はじめっ!」
全員鍛錬場に散らばり、それぞれ鍛錬を始めた。