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俺の『嘘看破』スキルが今日一番激しく反応したのは、見知らぬ美少女の「あなたに興味はない」という一言だった  作者: 富益 啓


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第8話

翌日の午後、リナに「古書商の店を見てきた方がいい」と言われて、三人で出かけた。


 「エインズワース古書堂」。石造りで、外壁が古い。窓から積み上がった本の背表紙が見える。百年以上続いていると聞けば、納得できる外観だ。でも——なぜ今、この店が「銀の書庫」と繋がっているのか。その問いを持ったまま、扉を開いた。


 「百年以上続いてるって言ってたけど、最近変だって言ってましたよね」


 「ああ。去年まで定期的に仕入れを続けていたのに、急に止めた。それと、主人が変わった」


 「主人が変わった?」


 「代替わりだ。先代が引退して、息子が継いだらしい。でも——」


 リナが店の方を見た。


 「——息子は先代の時代から店を手伝っていたはずなのに、去年から別人みたいに変わったって、ご近所さんが言ってた」


 「別人みたいに、というのは」


 「気難しくなった。客の対応が変わった。仕入れを止めた。それだけじゃなく、店の奥に人の出入りが増えたって」


 アルマが俺を見た。


 「……行くか」


 「行きましょう」




 店に入ると、古い本と埃と木の匂いがした。


 棚が天井まで並んでいる。通路が狭い。照明は窓からの自然光だけで、奥の方は薄暗い。


 「いらっしゃい」


 奥から男が出てきた。四十がらみ、細身、眼鏡。表情が読みにくい顔だ。


 「建国期の文書を探しているんですが、在庫はありますか」


 「……建国期」


 男が少し間を置いた。


 「ないね。そのあたりは扱っていない」


 赤く光った。


 「そうですか。以前は扱っていたと聞いたんですが」


 「以前の話だ。今は違う」


 光らなかった。


 今は確かに扱っていないのは本当らしい。でも「扱っていない」と「ない」は違う。


 「在庫はないが、取り寄せは可能ですか」


 「……できない」


 嘘の色が、滲んだ。


 できるが、しない理由がある。そういう光り方だ。


 俺はしばらく棚を見るふりをしながら、男の動きを観察した。


 男が落ち着かない様子で、二度ほど奥の扉に視線をやった。


 「一つお聞きしてもいいですか」


 「何だ」


 「最近、お店の雰囲気が変わったと聞きました。以前と違うことはありますか」


 男の顔色が変わった。


 「……何が言いたい」


 「特に。ただ、便利屋として困っていることがあれば力になれるかもしれないと思って」


 男は俺を見た。それからアルマを見た。それからリナを見た。


 「……帰ってくれ」


 光らなかった。


 追い払いたいのでは、ない。本心から、帰ってほしがっている。——俺たちの、ためにだ。


 「わかりました。また来ます」


 男が何か言おうとして、やめた。




 店を出てから、三人で路地を歩いた。


 「どうだった?」とリナが聞いた。


 「嘘は少なかったです。『在庫はない』は本当で、『取り寄せできない』は嘘。でも——」


 「でも?」


 「最後に『帰ってくれ』と言ったのが、光らなかった。俺たちのことを心配してる感じがした」


 リナが考えた。


 「……何かを知っていて、それを言えない状況にある?」


 「たぶん」


 アルマが口を開いた。


 「……店の奥に人がいた。二人。店主の動きが奥を気にしていた。監視されている可能性がある」


 「気づいてたんですか」


 「……魔族の感覚で、気配を感じた」


 リナが唸った。


 「古書商が監視されてる。建国期の文書を扱っていたから?」


 「それが理由なら、書庫の改ざんと繋がる」


 「……誰かが、情報を押さえている」とアルマが言った。「文書だけでなく、文書を扱う人間まで」


 「組織的だ、ということか」と俺が言った。


 三人で少し黙った。


 「どうする?」とリナが聞いた。


 「今日は引きます。あの人を危険にさらしたくない」


 「……賢明だ」とアルマが言った。




 夕方、白鳥亭に戻った。


 リナが「飯でも食っていくか」と言って、三人で食堂のテーブルに着いた。


 カルロさんが「お客さん増えましたねえ」と嬉しそうに言った。


 リナがカルロさんと談笑しながら、俺の隣のアルマをちらちら見ていた。


 「……何だ」


 アルマが気づいた。


 「いや、なんか、お前意外と普通だな」


 「……どういう意味だ」


 「魔族って、もっとこう、怖い感じかと思ってた。昨日会ったときはすごい圧力あったし」


 「……敵意がなければ、圧力をかける必要もない」


 「じゃあ昨日は俺のことを敵と思ってたわけか」


 「……スリをする相手には、そうなる」


 リナが笑った。


 「それもそうか。ごめんな、昨日は」


 アルマが少し間を置いた。


 「……問題ない」


 本当に、問題ないらしかった。声で、わかった。昨日より今日の方が、アルマの中でリナへの評価が変わっている気がした。


 「カイトとはいつから一緒なんだ」とリナがアルマに聞いた。


 「……一ヶ月ほど前だ」


 「一ヶ月か。なんか、もっと長い感じがするな」


 「……そうか」


 アルマが俺を見た。


 俺はスープを飲んでいた。何も言わなかった。


 「……あなたは長い感じがするか」とアルマが俺に聞いた。


 「そうですね」


 「……そうか」


 光らなかった。


 俺の「そうですね」も、たぶん、同じ色をしていない。見えなくても、それくらいはわかる。


 リナが俺たち二人を交互に見て、小さく笑った。何が面白いのかは言わなかった。




 夜。


 リナが帰ってから、アルマが部屋に来た。


 「……カイト」


 「はい」


 「……あの人間、信用できると思うか」


 「リナさんのことですか」


 「……ああ」


 俺は少し考えた。


 「今日言ったことは、ほとんど光らなかったです。怖いと言ったのも、情報を持ってると言ったのも。嘘をつく必要がない人なのかもしれない」


 アルマが眉を上げた。


 「……スリが職業の人間が、嘘をつかない必要がない?」


 「盗むのと嘘をつくのは、別のスキルだと思います」


 アルマがそれを考えた。


 「……魔族の論理とは違うな」


 「そうかもしれないですね」


 アルマがベッドに座った。


 「……リナが言っていたことが気になる」


 「なんですか」


 「……一ヶ月でも、長い感じがする、と。魔族の時間感覚では、一ヶ月は短い。だが——」


 少し間があった。


 「——私にも、長い感じがする。なぜかはわからない」


 光らなかった。


 俺は毛布を引きながら、「そうですね」とだけ言った。


 自分も同じことを思っていた。光らない言葉だった。

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