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汚い手口

 ホストとは、広義に言えば、客をトークでもてなし、時には酒を作って振る舞う者を指す。ホストが売る価値は「幸せな一時」であり、客の心を擽ることである。

 そんな誇りを背負って開かれる「もてなし」の第一席はケンと隆平である。


『私、ケンが好みだわぁ』


 どでかい口を3つ揃えた女型のモンスターが、ケンに寄りかかるように体を横に倒した。


「お、あんたお目が高いね。ま、でも俺どSだぜ?」


『キャ!』


 ケンがニヤリと笑って立ち上がった。そのせいで、体を寄せかけていたモンスターが体制を崩す。そして、そのままそれは隆平の股間へとダイブした。


「まずは他の男を知りな。」


 そんなモンスターを見下ろしながらケンが口角をあげる。


『いやん、いじわるぅ!』


 そうは言うものも、モンスターは隆平の膝から顔をどかそうとはしなかった。


「おい、てめぇ!」


 怒り狂った隆平がケンを睨み付ける。素知らぬ顔で安全な席へと座り直すケンに、隆平の怒りは爆発寸前だ。


「あいにく、俺もどどSだっ!」


 そう言って、隆平がケン目掛けて、いまだ自身の膝に顔を埋めるモンスターを無理矢理投げやった。


「おわっ! 残念、俺はどどどSなんだよ!」


 すかさずケンがモンスターを隆平に返す。


「残念でしたね、俺はどどどどSでぇす!」


「はっ、どどどどどSの俺をなめんな!」


「こちらどどどどどどSっっっ!」


「はい、残念っ!どどどどどどどSっ!」


 もはやラリーとなったモンスターの譲り合いを留めたのは、ナリだった。隆平とケンそれぞれの首もとに銀の鋭利が当てられた。


「ホストとは、客をもてなすものだ、イチ様のお話を聞いていなかったの?」


「「……………………」」


 ダラダラと冷や汗をかく男二人にモンスターが真っ赤に染まった顔を向けていた。


『奪い合いなんて、やだぁ!』


「「……へへっ」」


『どっちにしようかしらぁ~』


 モンスターが唇に長い指を当てて、隆平とケンを見比べる。

 そんな模擬講義を見ながら、男型モンスターたちはなるほど、と頷いていた。



           ◇



 第二席はウォールとディオだ。

 客は、亜利砂。

 ウォールは最初こそ、自分たちの引きのよさと幸運に喜んでいた。だが、第二席だけ人間なのを批判していたケンと隆平も文句を言えなくなるくらい亜利砂は難しい客だった。

 というのも、大の男嫌いなのである。


「亜利砂ちゃんかわええなぁ?」


「お気持ち悪いですわ!」


「亜利砂ちゃんのその髪、絶対高いシャンプー使ってるんちゃう? ええ匂い。」


「お気持ち悪いですわ!」


「気の強い子、嫌いやないねん」


「気持ち悪いってんだろごらぁぁ!」


 次の瞬間亜利砂がウォールに平手打ちをかました。現役魔法少女の平手打ちだ。膨大な暴力を受けたウォールがソファ席から吹っ飛んでいった。


「あらま。私ったら、またやっちゃいましたわ。前、別の世界で名前すら初耳のご子息にもやってしまいましたの」


「そ、そうか……」


「私、男の方が苦手でして……あの……よろしかったら私の克服を手助けすると思って手を握ってくださらない? あなたは先ほどのとは違って野蛮じゃないし、強引じゃないから大丈夫だと思いますの」


「ああ。わかった」


 ディオがぎゅっと亜利砂の左手を握った。


「きぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「!?」


 亜利砂が奇声を発しながらディオの頬をぶん殴る。とっさに避けたディオだったが、本人の心臓は尋常じゃない程バクバクと脈を打っていた。


「あら。私、またやってしまいました?」


「だ、大丈夫だ」


 ややひきつりながらディオが言えば、安心したように亜利砂が笑った。


「あの……見た目だけでも、男性てわからないようにしてくれないかしら。私のお洋服をお貸ししますわ」


「い、いや、君のは入らないから……ははは」


「あら、ご心配ご無用よ?」


 亜利砂がパチンと指を鳴らす。秒もしないうちに、黒服に身を包んだ。たちが現れた。

 元元の世界ではお嬢様だった亜利砂だ。加えて、お嬢様として事業展開にも積極的に挑んでいた亜利砂は、新しい世界で会社を設立し、社長となっていたのだ。付き添いの黒服がいるわけである。


「10分でこの方用のワンピースをご用意なさい」


「はっ!」


「あの……あ、亜利砂さん、」


「この方が、私の男性不信の克服を手助けしてくれますの。失礼のないように、服はしっかり見繕うこと」


「はっ!」


「おゆき!」


「はっ!」


 すかさず退場する黒服たちに、ディオが真っ青になる。


「もしかして、また女装をしろと……言ってるのか? ち、違うよな?」


「やはり、無理はよくないと思いますの」


「そうだよな、わかってくれたか!」


「できる範囲から始めないと。女装した男ならまだ難易度は低いですわ」


「そっちの事情か!」


 ディオがガクッと項垂れる。だが、亜利砂が目を潤ませて礼を言えば、ディオは何も言えなくなってしまった。


「ウォール、しかたない。頑張ろう! 二人なら平気だ。」


「…………………………」


「ウォール?」


「…………………………」


「おい、起きろ。ウォール! てか起きてるだろ!」


 亜利砂に投げ飛ばされて床に伸びたままのウォールにディオが呼び掛ける。だが、ウォールから返事はなかった。むろん、気絶したふりである。


「ウォール、俺らの訓練はもっと厳しかっただろ! 平手打ちではすまんぞ?」


「…………うっ、現役……ま、ほ、しょ、じょ、つよ…………」


 ウォールが魘されたように呟くと、そのまま目をつぶった。


「ウォーーール!!」



 一方で、第一席の面子も第二席の様子を伺っていた。モンスターの口元がゆっくり弧を描く。


「……私も、ケンたんと隆たんの女装みたいわぁ!」


 ガタリと音を立てて、ケンと隆平が席を立った。


「どこにいくの?」


「レディに頼まれたらしかたない」


「あちらのレディに俺たちの服も恵んでもらおう」


「まぁ」


 ケンと隆平が、第二席に向かって歩いていった。救世主を見るかのように、ディオが二人をキラキラした目で見つめる。


「ケン……隆平……!」


「おまけだけにそんなことさせれないからな」


「俺らもやるよ」


「! 持つべきは友だな! 平気で上司を見捨てる部下ではなく!」


「「おっ嬢さぁぁぁぁぁん!」」


 次の瞬間、ケンと隆平が揃って亜利砂に飛び付く。


「アホンダラぁぁぁぁ!」


 亜利砂のキックが二人にお見舞いされた。


「うっ、……現役……ま、ほ、しょ、じょ」


「…………つよ…………」


 どこかで聞いたようなセリフを吐いて二人が力なく、床に身を委ねた。


「手口が汚いぞ!」


 ディオの批判が届くはずもなくーー。

 二人はそのまま目を閉じた。


「隆たん、ケンたん!」


 モンスターが慌てて二人の元に駆け寄っていく。そして二人を抱き締めると、わんわんと泣き出した。その様子を見て亜利砂が慌てて現場にかけよる。


「私のせいですわ……ごめんなさい」


「違うわ。私が無茶を言ったからよぉぉ!」









「えー。このように、ホストはときにお客様の成長に寄り添うことが求められます」


 半ば無理やりイチが、締め括る。だが、このままではホスト店を開店させることはできまい。

 本物のホストをこの世界に連れてこなければ、と思わずにはいられないイチだった。

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