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追え!隆平!

「なぜ最近業者を呼んだりした?」


隆平が真っ青になって沙吉に詰め寄る。それに沙吉は気まずそうに隆平から顔を背けた。


「そんな怒らないでほしいざます。盗まれたのはガラスケースに入ったものばかりだったから、最強のガラスケースに取り替えようと思ったざます。」


「いい? ガラスケースには細工がしてあった。まるで宝石が盗まれたように見えるようにね。けど、いくらマダムの目を騙したところでそのままじゃ宝石は手に入らない。補強作業と偽って回収するまではね! くそ、やられた!」


蜂谷も悔しげに顔を歪める。だが、もう遅い。業者の方が人足早かったのだ。


「人間心理として、何か盗まれたら警備を不安に思うのは当然だ。マダムが業者を修理に呼ぶのは想定されていたはずだ。そして、人間は思い込みに支配されたら終わりだ。もう盗まれたものと思えば古いガラスケースを回収されることも疑わない。実際はそのケースに宝石があるのにね。」


「だが、まだ業者が同じ手口使うかもしれねぇだろ。そんとき取っ捕まえたらいいんじゃね?」


隆平の提案に蜂谷が考え込むように顎に手を置いた。だが、その顔は険しげに歪められている。周り、いや、沙耶も蜂谷に連れて不安そうに眉を歪めていた。


「マダム、業者に電話してみてよ。」


「わかったざます!!」


沙吉が真っ青になって、スマホを取り出す。そして荒ただしく業者にかけはじめた。






プルルー





【おかけになった電話番号は現在使われておりません。】





「つながらないざます!」


「くそっ! まさか僕たちが来るのを知っていたのか? だが、盗聴器はなかったよな……。」


「わ、わたくし、つい、有名な名探偵ハチが捜査中ナウて呟いちゃったざます。一応、いいね2万……ざますよ?」


「もう! 自慢家なんだから!!」


蜂谷がすかさずツッコんだ。それなら犯人が撤退するのも頷ける。天下の名探偵に素人のカラクリが通用するわけがないのだから。


「でも。僕がいずれ業者を突き止めるのは予想できたはず。逃げ切れると思っていた……?いや、でも僕が警察の全面協力を受けているのは有名ー!」


はっとしたように沙吉に蜂谷が詰めよった。


「ねぇ! もしかして最近でかいごみ捨てした?」


「ええ。そういや障害灯がつかなくなったから取り替えたざます。」


「ごみ捨て場だ!」


蜂谷は言うやいなや急に走り出す。おそらく、ゴミ捨て場に向かうのだろう。蜂谷の後をすかさず隆平たちも追った。


走りながら隆平が蜂谷に問う。


「説明しろ! なぜごみ捨て場なんだ!」


「赤い化け物だ!」


「あ? それって警察どもが言ってたー」


「マンションは20階建て! すなわち60mを越える! 航空障害灯は、航空機の航行の安全を確保するために、航空法第51条に基づき地表又は水面から60m以上の高さの物件に設置することが義務付けられている!」


「はあ? つながりが見えねえぞ!?」


「障害灯は赤だ! そしてルビー! ルビーはその特性上どんな色の明かりを当てても赤にしかならない!」


「つまり?」


「警察官は夜に巡査していたと言った。夜だ!! いいか、人間の目は暗闇では緑の明かりが遠くからも認識しやすい! すなわち、巡回は緑の明かりを使用していた可能性が高い! そして! 緑の光を当てて赤くなったなら、それはルビーだ! ルビーは、緑色光を吸収したら、赤く光るからね!」


「つまり、壊れた障害灯の中に隠したってわけか?ルビーの特性を知らずに? そしてゴミ収集業者にも擬態していると! そういうわけか!」


「ここのゴミ回収は4日に一度らしい。だが特殊な回収は1ヶ月に2度。次はちょうど明日! マダムが業者を呼んだときには捨ててあったはずだ。それを利用して、僕らにフェイクの業者の方を追及させるよう仕向けたんだ! そこまで頭の回るやつらだ。予定より早く動くかもしれない!」


「つまり「ごめん、ちょっともう話かけないで、息切れるからあああ!」


隆平が蜂谷の方を見ればぜいぜい言っていた。どうやら熱意で話していたみたいだ。走るスピードも少し落ちている。推理で負けているなら実力で取り返すしかない、と隆平は走るスピードを上げた。隆平が蜂谷を追い越すと、後ろから歓声が上がる。熱狂的なファン1名に、冷やかし3名、真似1名に応援2名だ。


「もおおお! いいとこ取りぃぃぃ!! イケメン爆ぜろぉぉおえぇぇ!!」


蜂谷の叫び声を背に隆平はさらにスピードをあげていった。


入り口の彫刻の横を走り抜け、隆平が門に向かう。


だが、既にゴミ収集車らしきものが門の向こうに見えていた。


「くそ! 逃がすかああああ!!!」


隆平が足に力を込める。だが、隆平が門の外のゴミ捨て場に着いたと同時に、虚しくもゴミ収集車が発車してしまった。


「くっそぉぉぉ!!!……あ?」


悔しがる隆平の体が浮くー。


「え。え? 何俺気絶したの? 走りつかれて? 何、体は限界だったわけ? まじ? 白昼夢?」


「うるせぇ! 追えええ!」


「オイイイイイイイイイイイ!!!!」


次の瞬間ー。隆平の体が既に遠くを走っていた収集車めがけて飛んでいった。


そう。ケンがぶん投げたのだ。固まる沙耶や蜂谷とは違い、イチはたいして驚かずにため息をはいた。


「でましたよ、あなたのヒューマン投げ。」


「いや、ヒューマン投げてなんやねん! ハンマー投げみたいに言うなや!」


騒ぎだした連中に沙耶が顔をひきつらせる。そして、比較的まともそうだと判断したのか、ディオに沙耶が話しかけた。


「濃いですね、あなたのお仲間さん。」


「濃い? ああ。確かにな。ナリを除いたら皆髪色はそうだな。君たちは薄いな。あ! 知ってるか、あまり濃いとか色で人を示すのはよくないみたいだ。俺も君も気をつけねばな!!」


「うん! やはり濃い!!!」


沙耶は一人頷いていた。



放り投げられた隆平は、荷物が積まれた荷台に見事に衝突した。


「いってぇぇ!!!」


頭をぶつけては致命的だと、背中から「着席」した隆平はそれはそれは見事に背中を強打した。医学の知識のある隆平だ。自身の症状を冷静に分析していた。


背中には背骨の中に脊髄がある。いずれも重要な神経の集合部分で、呼吸や両手足の動きに関係がある部分だ。そこを損傷すれば、呼吸障害や四肢麻痺、強いては痺れなどを感じるはずだ。だが隆平は大丈夫そうだった。いや、大丈夫そうだで片付けてはいけないのだが、大丈夫だと言い聞かせるしか他に手段はないのだ。


「ちっ。大丈夫だ。大丈夫。大丈夫だ、俺! 大丈夫だから切れるなよ、俺!!」


顔や首中に静脈を浮き上がらせながら隆平がマインドコントロールを行っていたときだ。


キキィーッ!!


いきなり車が急ブレーキをかけたのだ。それもそのはず。隆平が飛び乗った衝撃で車は揺れる。車内の人間が違和感を感じるのも無理はない。


車のドアが開く音がした。


「おい、見てこい!」


「わかりました!」


バタン!!


「(どっちだ??)」


隆平は神経を集中させた。うっすら中から聞こえてきた声は二つ。基本的には道で車を止めるときは運転手が様子を見に来るとは考えにくい。だとしたら助手席の人間が降りてきたことになる。


「ちっ。状況が人を変えるってな。」


隆平がかっこつけてふっと笑った。蜂谷と推理バトルをしているうちに感覚が研ぎ澄まされていったに違いない。


隆平は確信を持って、助手席側とは逆ーすなわち右下へと飛び降りた。これで鉢合わせは回避されたはずだ。後は身をしゃがめて反時計回りに助手席の方へ移動し、乗り込めばいい。そしてドアをロックすれば運転手と1対1に持ち込める。隆平は冷静なのに対し、相手は混乱するはずだ。


実に隆平に優位な状況だ。


「俺も探偵だな。」


隆平は飛び降りて膝を地面に着いた状態でふっと笑った。


隆平が顔を上げる。


そして、緑のニット帽を被った男と目があったー。


「うおっ!?」


「ひぃ!??」


隆平と男が悲鳴を上げる。


「「……………」」


「おい! 何かあったのか?」


「「……………」」


車内から慌てたような声が返された。いち早く我を取り戻したのは、仲間の声に反応した緑帽子の男だ。


「なによ、あんた!!」


すかさず隆平も気を取り直した。


「ちっ。しかたねぇな。」


隆平はため息をはくと、男に向かって突進していった。びっくりする男を、隆平はおもいきり殴り飛ばした。


「キャァァァァッ!!」


尻餅をつく男を再び蹴り飛ばし、隆平が運転席に乗り込む。


「は? 誰だよあんた!!」


助手席の男が、隆平を見て驚いたように声を上げた。


「この車をジャックした。」


ーあれ、俺って正義側じゃなかったっけ?


ひどい違和感を感じながら、隆平が車を発車させた。


          ◇


ーたいていは、車をいつでも動かせるよう運転手は残って、助手席側が様子を見に来るはずさ。たいていはね。「たいてい」ということは「絶対」ではない。直前、会話は一方が敬語だった。つまり車内の人間には上下関係がある。ここでクエスチョンだ。上の立場の人間が車を運転するだろうか?


蜂谷の嫌みな解説が隆平の脳内で再生される。


「答えろよ! あんた誰だ!!」


助手席の男が隆平に問うが、隆平はそれどころではない。なぜならー。


ー「状況が人を変える」やっけ? ちょっともう一回説明してや。どない意味やろなぁ。


ー「俺も探偵だな」とも言ってましたよね。もしかしてカージャックまで計画通りでした?


隆平の頭の中で囁く悪魔が二人も出てきたからだ。


「おい、あんた! なあ! 止めろって!!」


「うるせぇ!!!」


「なっ! おまえ何してるか分ってんのか!」


「俺は! 探偵ではねぇ! 医者の息子だぁぁあ! くそがぁぁぁぁ!」


「自己紹介する犯人んんん!? なんなんだあんた!」


「うるっせぇ! てめぇらには言われたくねぇわ!」


「ら? てめぇら? え、誰かあと一人いるの? え、こわ! 降ろしてくれ!!」


「バーカ! 中二が! エセが! さっさと帰れ!」


「この人幻想見えてるよぉぉ! こっわ!!」


噛み合わない会話が車内で繰り広げられていた。ようやく、隆平の頭の中から生意気な顔とニヤニヤ顔の不快男が消えていった。


横でさわぐ男を隆平がチラッと見る。自分と同じ金髪だ。だが自分とは違って幼い顔は、まだあどけなさが残っている。おまけに制服だ。どうやら男は年下みたいだった。


「んだ? ガキ。いつからいた。」


「最初からだよっ!!」


「ふーん。」


「おまえ、許さないからな。警察に届けてやる!」


「おまえ、言えんの? 犯罪者なのに?」


「なっ!!」


隆平の言葉に男が言葉を詰まらせた。心当たりがあるらしい。少年は気まずそうに隆平から視線を外すと、窓の外を見つめた。ガラスに映る少年の口は悔しげに噛みしめられている。竜平が、特に気になったのは手首の痣だ。パッと見診察しただけでも、それは人為的にできたものだった。皮膚に赤く残るそれは、実に痛々しい。


「なぁ。俺もカージャックしちゃったんだよな。」


「しちゃったってなんだよっっ!」


「なぁ。俺もいいとこの坊っちゃんだ。」


「はあ?…………っ!!」


「グレた子息同士、話をしようぜ。」


隆平がそう言ってハンドルを持つ手に力をこめた。

もし背中を強打したりした際は、医師に見てもらったがいいみたいです。


お体、お大事に。

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