SAKICHI街
百聞は一見に如かず、ということで、一行は沙吉の居住地に向かうことになった。
沙吉は都内の高級住宅地に20階建てのマンションを所有している。住民は沙吉の富豪仲間であり、17階以上は全て沙吉の家族の居住スペースとなっているようだ。そして問題の宝石は最上階に収納されているという。
以外だったのは、沙吉の蜂谷探偵事務所までの交通手段が徒歩だったことだ。外に出れば黒塗りの高級車があるものと思い込んでいたメンバーは少しだけ当惑した。
「以外ざますか? こう見えて、私は地主ざますから町の皆さんとの交流はするざますよ?」
沙吉がちらっと隆平を見ながら、アピールする。ウォールが「モテモテやん」とからかえば、すかさず隆平は青筋を立てていた。
沙吉の言ったことは嘘ではないようで、沙吉を見るや否や町の人々が頭を下げる。それに沙吉はにんまりと笑っていた。どうやら透明な動機だけで徒歩選択をしたようではなさそうだ。
「沙吉さん! お久しぶりっす!」
人々が頭を下げる中、二人の警察官が沙吉に声をかけた。
「あらぁ。ミョン、ランラン。」
「それの呼び名やめてください~。ん? そちらの方々は……」
「なんでですか! 僕らを呼んでくださいよぉ!」
一人の警察に被せてもう一人の警察が拗ねたように沙吉に泣きついた。
「? ざます?」
「ほら、今沙吉さんのマンションで赤い化け物が出るって噂じゃないっすかあ! だから、屈強な男たちを護衛にやとったんじゃ……ん? あれ、女の子たちもいる? ん?」
「ざますぅ!!??」
「こら! 沙吉さんは、怖いのダメなんだから! 馬鹿! ……ははっ……沙吉さん、今のは聞き流してください。酔った警官が言ってたことですから。い、いや、沙吉さん家の周りの巡回を適当にしているわけじゃないですよ!」
「先輩! 先輩の方がやらかしているっす! 今日は帰るべきっすよ!」
慌てたように警察官たちが沙吉に頭を下げると去っていった。町の何ともいえない関係性を目の当りにし、隆平は自分の境遇と重ねていた。己もまた倦厭され遠巻きにされていたのだ。沙吉と己が重なったとき、隆平は事件の謎を解くことにさらに心が燃えるのを感じていた。
その後も人々は沙吉を見るなり、頭を下げたり、軽く話しかけたりしてきた。ようやくマンションのあるエリアに着いたときには、蜂谷の事務所を出て随分と時間が立っていた。
沙吉のマンションは高級住宅が立ち並んだところの奥にあった。町に続く道やごみ捨て場を隔てるように立ち並ぶ門は、まさにそこだけ別のエリアであることを示していた。「SAKICHI」と書かれた門をくぐれば、すかさずレンガの床と沙吉の彫刻が現れる。そしてその向こうに一軒家が何件も立ち並んでいた。まさに、一つの町のような居住地だ。そして、左右に並ぶ家をまっすぐ辿っていけば沙吉の住むマンションというわけだ。
「ここの住民たちは夫の会社の従業員と家族たちざます。まさに、私たち会社の人間は皆家族ざます! マンションには私の宝石同窓会の会員たちが住んでいるざます。」
沙吉の説明に、ケンやウォールは顔をひきつらせていた。自由を望む彼らにしてみれば、「SAKICHI街」はまさに牢獄だ。
「……イチ様の町も作りましょう!」
「ナリちゃん、それは遠慮します。」
ナリの申し出をバサッと断ったイチの横で、ディオだけ隆平のことを心配していた。
「おい、隆平、大丈夫か?」
「ああ。……許せねぇ。」
「ん?」
「勝手に遠巻きにしてたくせに。別に倦厭するのはいいが裏切るのは許せねぇ。」
隆平が自らの境遇に重ねて、怒りの炎を燃やしていた。隆平からしてみれば、この事件は他人事ではなかった。
「そうざます! さすがフォーチュンダーリン! 私にとって彼らはファミリーっっ! ママを裏切るなんて許されないざます!!」
「いや、マザーてよりボスーだよな。」
「いや、ほんまそれ。家族やなくて囚われの人質やんな。」
こそこそと感想を述べるウォールやケンの言葉は、幸い沙吉に届くことはなかった。
◇
マンションのエントランス前にはプールがあった。広いプールにも関わらず、そこには二人の少年と監視の老人しかいない。子供たちははしゃぎながらプールを泳いでいた。
「レンちゃま! マヤちゃま!」
沙吉が声をかけるやいなや、二人の少年がプールサイドから顔を上げた。
「奥さまっ! お帰りなさいませ。」
「「マミィ!!」」
老人が頭を下げる傍ら、少年たちがマミィと呼んで沙吉の方へ飛んでいった。沙吉が腕を広げれば少年たちがおもいっきり抱きつく。沙吉の服はあっという間に水浸しになった。
「マ、マミィ! ご、ごめん!」
「僕らのせいで! ご、ごめん!」
慌てたように少年たちが沙吉から離れる。老人はタオルを持ってくるといってそそくさと中に入っていった。
「どうしよ……! そうだ! マミィ、服脱いで! 風邪引いちゃう!」
「こ、こんなとこでだめだよ! ほら、獣がいっぱい! と、とにかく、手袋だけでも!!」
慌てたように、少年たちが沙吉の手袋を外したときだった。
「キィアアアアアアアアアアアアアアアー!!!!!!!」
沙吉が突然手を抱えてのたうち回った。
「ど、どうされました?」
「キィアアアアアアアアアアアアアアア」
「大丈夫ですか!?」
「キィアアアアアアアアアアアアアアア」
沙耶の問いにも答える余裕がないのか、沙吉が叫ぶ。
「! とりあえず日の当たらないとこへ連れてけ!」
隆平が叫ぶと、ディオが慌てて沙吉の元へ駆けよった。
他の男たちは動かない。もちろんそれは「服濡れるの嫌だ」という理由だった。
反面教師とはケンアンドウォールのことを指します。
それから、どんどん文章能力とタイトルセンスが退化していっているように思います。あ、ここにも反面教師がいましたね。(汗)




