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【一章完結】CROSS OVER 管理人 ~異世界のお悩みは異世界に解決してもらいましょう!~  作者: マロ
クロスノート その3 乙女ゲーム vs ヒーロー
19/43

ヒロインの選択 (前編)

少々グロテスクな描写があります。ご注意ください。


その頃、ディオは必死に夏春もといヴィーランズの気配を追っていた。そしてたどり着いたのは、この世界でディオが最もよく知る場所だった。


「なっ!学園に逃げ込んだのか!?」


約2日と半日いたその学園にディオは違和感を覚えた。何かがおかしい。ディオが警戒しながら学園に足を踏み入れると、男子の集団がまるで通せんぼをするかのように、ディオの前に立ちはだかった。


「夏春さまのご命令……」


「通すな……通すな」


「夏春さま……」 


「夏春さま夏春さま…。」


目が赤く充血し、まるでゾンビのようにうわ言を繰り返す男たちに、ディオの額から冷や汗が流れた。


どうやら、夏春は学園中の男を幻術にかけたらしい。これだけの人数にヴィーランズの能力を使えるあたり、相当力を蓄えていたようだ。


「ふふふ! 学園の生徒をヴィーランズ化させるのはこの前失敗しちゃったけど、男を操るのは容易いのよっ!」


男たちの最後列から夏春がケラケラと笑っていた。


「じゃ、サヨナラ、ヒーローさん。」


「まてっ! ちょ、よるな!」


ディオは、一方で夏春を追いかけようとして、また一方で男たちに向かってこられていたのだ。矛盾するセリフを吐くことになったのもいたしかたない。


集団でディオにつかみかかる男子生徒たちに、ディオがどうしようかと珍しく焦っていたときだった。男子の群れに向かって、女子生徒たちが突っ込んできたのだ。


「夏春さんはもういいのよ!うんざり!」


「あんたらには女が一人しか見えてねぇのか!? 」


「恋人がいるのに口を開けば夏春夏春。」


「あんたら男はミジンコ以下の脳しかないんだなっ!!?」


前から男子の態度をよく思っていなかった女子たちが爆発したようだった。嫉妬に狂った女の子たちの中にはついに泣き出す者たちもいた。


学園のアイドルだった攻略キャラたちに彼女らは憧れていた。好きだった。


なのにー


「おまえら男がばかなんだ!」


「あんたは私の彼氏なのに、あの子にデレデレして!」


女子たちが喚けば、そんな女子たちに負けずと男たちが反撃する。


「ふざけるな! おまえらだって俺たちは眼中ないだろ!」


「当たり前!」


「当たり前て言ったやついたぞ!おい!」


「本当男てばか!」


「女だって!」


モブたちはモブたちで葛藤を抱えているのである。


ディオはディオで、乱闘騒ぎになる男女の群れに押されながら夏春の行方を探すが、その気配はすでに塵となって消えてしまっていた。


「(くそっ、やつはまだ消滅してない……だが、くっ、動けない!)」


ディオが生徒の群れに押されていたそのときだ。

ディオの無線に連絡が入った。


"もしもし、ちんすーこー、マイクテスト"


「ふざけんなっ」


"あー、聞こえますかいな?"


「ああ。」


"あの、でかい岩のとこ、来てください。"


「わ、わかった! いま、人の群れにいるから……なるべくすぐ、向かう。」


"なんでぃ? 群れ? ちょ、面白そうやな!"


基本、ヒーローに普及された無線は、相手がかけてきたら自動的につながることになっている。しかし、切るのは手動なのである。


群れをかき分けながら副隊長のうざい追及を聞き続けるという苦行を乗り越えたディオが向かった先は、ウォールと隆平と会議をしたあの岩のところだ。じめじめとした校舎裏は相変わらず陰険なところだ。ディオが先ほどの苦行も相まって、どんよりした気分でウォールを目で探せば、人を呼び出した本人は、例の岩に腰掛けてヒラヒラと手を振っていた。


ディオはウォールの元に向かいつつ、ざっと辺りを観察する。大きな岩がある以外は特に代わり映えしないそこに、前はなかった"もの"がディオの目に写った。


それはディオのちょうど視界の上だ。上空に、何かが吊るされているのだ。正確には7つの物体が。


嫌な予感に頭を挙げるのを拒否しながらも、現実逃避はいかがなものかと、意を決してディオが顔を上げる。


そして、そこには目を疑いたくなるような光景が広がっていたのだった。隆平を含めた男たちがロープでぐるぐる巻きにされて校舎の3階あたりから吊るされているという光景がー。


疲労で幻覚を見てしまったのだろうかと、ディオがぎゅと目を閉じて再びその目を開く。


そこには変わらずぐるぐる巻きの凪たちがぶら下げられていた。


無の表情になったディオがウォールに向き直る。


「副隊長。」


「なんや? 隊長。」


「副隊長。」


「副てなんか傷つくわあ。」


「隊員。」


「もっと傷つくわ!」


「……隊長。」


「それはあんたや! 雑なボケすな!」


「………。」


「はいはいなんや?」


「これはなんだ?」


「データによると、左から、緑賀谷、「違う!」


男たちの名前を呼び上げるウォールをすかさずディオが制す。


「どうして、やつらがぐるぐる巻きのぶらんぶらんになってるんだ!?」


何度みてもディオの目に写ったのは、ロープでぐるぐる巻きにされて宙からぶら下げられた凪たちだった。


「それはなあ、これのせいや。」


ウォールが何かを床にぽいっと転がした。不思議そうにそれを覗き込んだディオが、声にはならない悲鳴を上げた。


「……これは………っ!! 人間じゃないか!」


「ははは、びびるよな。おれもびびったわ。」


「なんなんだ……! ……大丈夫か? おい!」


「それ、ヒロインやで。」


「はあ?」


「隊長も気づいてたやろ? あのヴィーランズが源やて。」


「ああ、薄々。ヴィーランズが取り憑いていたのではなく、やつ自体がヴィーランズそのままではないかと思ってはいたが。」


「まだ化け物する前や思ってたけど、あれはもう実体化してたんやな。ヴィーランズが醜い姿やなくて、人間そっくりに化けるとは新情報やで。」


「つまり、ヴィーランズは、その女に成り代わっていたってわけだろう?」


「ああ。せやで。」


「それはわかったんだが。なぜ、凪らはぐるぐる巻きに吊るされているんだ?」


「それはなぁ、やつらがー「んん……なんだ?」「うぉっ! なんだここ!」「キャー!! 浮いてるぅ!?」なんで、いま目覚めるネン!」


「おい! てめぇら! なんのつもりだ! おろしやがれ!」


「僕らを下ろしてよぉ!」


「やだあ!」


そんな彼らを見て、ウォールだけが、一人感想をもらしていた。


「カオスやなあ。」


男たちの中には、「誰かー!」と叫ぶものがいたが、他全校生徒はただいま大乱闘である。空しくも、その声は空に消えていった。


「落ち着け、助けるから!」


ディオが必死に声をあげるが、恐怖に支配された男たちの耳にその声が届くことはない。悲鳴や叫びがさらに増す中、地上からの呼び掛けは完全に書き消されていた。


しかし、そんな中、唯一男たちに届く声があった。



「んっ……」


可愛らしい少女の声だ。それは彼らが愛してやまない声である。


「ん……ここは…………?」


少女が起き上がる。


「「夏春さん/なつ/なっちゃん!」」


声を揃える男たちに反応して、少女が上を見上げる。そしてニコッと美しく微笑んだ。


「「///////」」


上空からだと夏春の顔はよく見えないはずなのに、なぜか顔を赤らめる男たち。恐怖より愛しさが勝ったのか、少女に対する賛美が男たちの口から発せられていた。


そんな彼らに逆に引きながら、ディオがウォールに説明を求める。


「で、いったい、どういうわけだ?」


「あー……。実はなあ、ヒロイン使ってヴィーランズ呼び出そうと思てな。」


「つまり?」


「……あいつら、ヒロインと偽ヒロインの区別がついてないねん……」


「だからなんだ。」


「だから、名付けて『誰を選ぶの? ドキドキ作成!! 直接対決!』を行おーかと。」


「は?」


「だから、『誰を選ぶのド「それはなんだ?」


「だから、憎い相手を一人だけ落下させれますよーてゲームや。」


「なんだそれは!?」


「ヴィーランズがヒロインに成り代わってたなら本物出てきたら本物消しにくるはずやろ? でも、それだけならヴィーランズが出てこん可能性もあるやん。ところがどっこい! ヒロインが7人中6人をきるとしたら? ヴィーランズがこの機会逃すはずないやん? 堕ちたヒロインと融合するはずや。つまり堕ちたヒロインはえさというわけや!」


ウォールの言い分はこうだ。ヴィーランズを誘きだすのに、人間の深層心理から欲望を引き出すのは非常に効果的だ。取り憑く相手は選り好みするやつらだが、所詮雑食なやつらである。また、基本、ヴィーランズは人間の負の感情である。闇を抱えた人間に寄生しなければ力を蓄えられないヴィーランズは、必ずや負の感情に引かれる。すなわち、自分が苦しむのは嫌だが、人が苦しむのは大好き、それがヴィーランズだ。恐怖に怯える男たちと、それを楽しむ闇堕ちした元仲間となれば、それはもうヴィーランズのえさそのものだ。しかも、ヴィーランズはヒロインに成り代わっていた。本物が闇落ちすれば、それこそ本格的にヒロインの体を乗っ取ろうと姿を表すはずだ。


そして、何より、楽しいやないかい?


とウォールが付け加えた。


そんな部下を見つめながら、ディオが頭を下げる。


「すまない! 俺が凪の家でやつを仕留めきれなかったせいだ。共に辞職しよう。」


「ん? なんで俺も巻き添えなん?」


「俺はおまえのサイコパス的な判断におまえをクビにしたいと思ったし、俺のミスにも辞職したいと思った。」


「一人でやってえ!?」


「そうだな、トップが共に抜けると混乱が起こるな。」


「せやせや!」


「だから、おまえは副隊長のままでいい。責任を取って隊長をー」


「いや、そこは俺を隊長にして、隊長が副隊長に降格するか、平から副隊長探したがいいと思います!」


「図々しいな、おまえ……」


「ええ、まあ、人間ですもの!!」


「くすくすくす」


「しまった! コントやってるひまやなかった!」


「いいのよ……。」


少女が立ち上がり、ゆっくりと男たちに近づいてゆく。それに一部の男たちは喜んでいるようだ。ゆっくりと一人一人の真下を彷徨きながら、少女は最初に凪の前に立った。


「凪くん……久しぶり。」


「なつ! なんだ? 他人行儀はいやだぜ。」


「凪くん……私凪くん好きだった。」 


「俺も愛してる! ん? だった……てなんだおい。」


「凪くん、覚えてる?」


「……なんだ?」


「おまえは1人しかいない、おまえみたいなやつはきっとどこにもいない、って言ったよね!?」


「ああ! もちろん、「うそつき!」


「は?」


「私……私…………なりかわられて…」


「なんだ……おまえ……本当になつか?」


「私が! 姫川夏春なの!!」


「っ?!」


「いいよ、凪くんはちゃんと落としてあげる。」


そう言って、少女は今度はゆっくりと美緒のところへと向かっていった。


「美緒くん……」


「なあに!?」


「私……美緒くんもすき。」


「! 嬉しいけど、一番がよかったよぉ。」


「もちろん、翔くんも、隆平くんも、たっちゃんも、みぃちゃんも、葵くんも、みんな大好き!


大好きだった。……だから、凪くんと結ばれても皆といられて幸せだったのに!


あいつが現れて私になりかわった!!


最初はまた戻れたらそれでいいて思ってたのに!! あいつに……あいつの正体に気づかずに楽しそうに笑うあなたたちをみて、惨めになった!」


そして、夏春はとうとう泣き出してしまった。


訳が分からず困惑する男たちー。


そんな中、美緒が口を開いた。


「あいつ……って?」


「もしかして……ディオのことか?」


凪ももしかしてという顔をしながらはるか下にいるディオを見やる。


「げぇ! 俺そんな趣味ねぇよ!」


凪がつかさずツッコんだ。さ


「さすがにねえな。(ジョークでも言ってやるか。)……いや、いけないこともないか?」


「本当っっに、りゅうやんて……気持ち悪いぃ!!」


「わかるよ、近江、隆平てそこんとこおかしいもん。」


双子が隆平の言葉に顔をしかめると、隆平は「いや、冗談なんだけど……」と顔をひきつらせていた。葵にいたっては、関わりたくもないようだ。顔を青くして遠くを眺めている。


「双子に同感ですよ。だけど、本当です、ディオさんとはなんもありませんから!」


「さすがに、おまえでも名誉毀損で訴えるぜ?」


各々弁解する男らに、夏春は俯いたままふるふると震えていた。


「そ………な……わ……い…」


一斉に夏春に視線が注がれる。


「そんなわけないでしょ! ジャンル変わっちゃうじゃない!!!」


夏春の叫びに、一同ポカーンと口を開けていた。


「本当っっに……ありえない。どういう思考回路してんのよ。


どうして……私、こんな人たち……。」


「お、おい?」


「凪くんも、みんなも、あいつに全く違和感なかったんだね。あいつを、私と信じてたんだ。」


夏春が顔を上げる。その目には涙が浮かんでいた。


「みんな大嫌い!!!!」


それにショックを受ける男たちを、夏春が冷めた目で見つめていた。


「けど、嬉しいわ。あなたたちに復讐できるなんて。はははは。まずは誰から落とそうかしら。」


「やめろ!! やめるんだ!!」


闇堕ちしかけた夏春を止めようとディオがすかさず声を上げる。だが、それが夏春に響くことはもちろんない。


「うるっさい! なんなのあんた!」


「自分に負けるn「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!」


そのときだった。


"ギャハハハもっともっと憎みなさいよ!"


「ヴィーランズか!! どこにいる!」


"もっともっともっと! もっとー! ここにあんたの味方はいないわ! みんな敵よ!! 皆あんたを笑ってる! だから、簡単に奪えたのよ!!! そう……全ては愛セナイコイツラノセイ!!!憎い憎い! 愛セナイ愛セナイ! あんたはもう用済み! 今度は私が……私ヲ愛セナイヤツハイラナイ!"


支離滅裂なヴィーランズの言葉がまるで呪文のように夏春を包み込んだ。夏春の目が赤く染まっていく。


「やっぱり、最初は凪っっっ!!」


ヒロインが凪をぶら下げたロープに向かってナイフをぶん投げた。


"ギャハハハワレノチカラヲアタエヨウ。粛正ハ正義ダ!"


ナイフは黒い靄を纏いながら、まっすぐに凪のロープをめがけて飛んでいく。黒い力を受けたそれは、軌道を逸れることなく、凪のナイフへ向かっていった。


凪は真っ青になり、他の男らは目をつむる。


そんな中、ディオは迷わず凪の下へかけよっていった。







その頃、副隊長は…………



「アーハッハッハ、まじウケる。隊長勘違いされて、勝手にボロクソ……アーッハッハ。まじウケる。他のヒーローに話してやらなっ。アーッハッハッハ!」



爆笑していた。

それも数分も前からー。


しかし、伊達に副隊長という役職についているわけではない。落下する人間に向かって駆け寄る自分の隊の長を視界の隅に捉えるやいなやすぐに、ウォールは現実に意識を戻した。


「あの人、怪我してるのに、ばかなん!?」


ー隊長が潰される前になんとかせなん。ー


ー俺は隊で一番速いんやで。ー


慌てて助走をつけようとしたウォールに何かがつきまとう。


「あれ、なんか動けへんな?」


「だめ! 行かせない!」


「ちっ、こいつか。お嬢ちゃん。すまへんな。」


腰にしがみついた夏春をウォールが突き放す。


だが、その数秒はウォールの動きを止めるには十分だった。


ーチッ!大分時間を取られた。ー


隊長に向かって真っ直ぐ墜ちていく凪。片方で受け止めようとする隊長ー。


ーくそ、こうなったら、隊長を信じるしかあらへん。ー


歯を食い縛りながら、ウォールは自身の上司の無事を祈るのだった。

 


一方、ディオは怪我のことを完全に忘れていた。

しかし、落ちてくる凪を受け止めようとして自身の片方が挙がらないことを悟る。それでもディオはその場を動かなかった。


「っっ!」


そんなに高いところから落ちるわけではないから死にはしないだろう。衝撃もそんなにないはずだ。なんならディオ自身はこの二倍くらいの高さから落とされたことがある。訓練としてだ。だから大丈夫だろうと考えたのだ。自分がクッションくらいの役割を果たそうと。


ドン!!!


二人の男がぶつかるー。


「うわあああ!!!! 金はやるから俺を助けろおぉぉぉ!!」


「っっっ!」


「なんで、俺様がこんな目にぃぃぃ!!」


「おい、だ、だい、じょ、ぶか? もう、地上だぞ。」


「だっさ!」


夏春のツッコミに被るさるように、凪が下をやっとみる。


「うおっ! てめぇ!」


「っ、ど、どいてくれ」


「わりぃ……。ふむ。しかし、なかなか度胸あるな。おまえ、俺のボディーガードになるか?」


「……は?」


「助かった。おまえ鍛えてるんだな。防弾チョッキの役割もできんじゃねぇか?」


「……いや、銃弾はナイフで叩き落とすぞ?」


「人外かよ!? ボディーガードにしたら最強じゃねえか!」


ーブチッー


何かが切れる音がした。


「おい、てめぇ……さっさとうちの隊長からどけやあああ!」


副隊長だった。


「なんでいっつもいっつも、てめぇらはさも助けられて当然て顔をしてやがる!? 俺らは道具か!? なあ!! おまえらには助ける価値が本当にあるのか!? 隊長や隊員が必死に助けようとしても、遅れたらぐちぐち、苦戦したらまたぐちぐち……何様だてめぇら!!!!」


「副隊員! 正気に戻れ!!!」


「うっせぇ、あんたにはわかんねぇよ。性善説の具現化みたいなやつにはな。あんたはいつも人のことばかり! 本っっっ当に理解できないぜ!!」


"ギャハハハハヒーローモショセンハ人間!!憎メ憎メ憎メ!"


「ば、ばか……!!ヒーローがヴィーランズを喜ばせてどうするっ……いたっ!」


ディオに近づいていくウォールの目からは完全に光が消えていた。


「あんた。この腕さっき赤ちゃんかばって怪我して、今度はその荷物受け止めて傷開いたでしょ。」


ウォールは、ディオの傷口に手を添えるとそのままその傷口に手をつっこんだ。


「っっっ!!」


声にならない悲鳴を上げるディオ、明らかに引いている凪。地獄絵図だった。




          


そんな彼らを遠くから見つめる二つの影があった。



「おい、やべぇんじゃねえの?ヒーローまでヴィーランズ化してんなよ……行くか?」


ケンがイチに訪ねる。


「妙ですね……あの人があんなんになったスイッチはなんです?」


「そりゃあ、大事な仲間を道具みたいに扱われたからじゃね?」


「あの人、隊長さんが必死にあの御曹司を助けようとしてたとき爆笑してましたよ?」


「……………………」


二つの影は再び、騒ぎの一行を見つめることにした。




一方。


「おらおら、憎めよ! 自己中な精神ベイビーを! そこの人を捨て駒としか考えてないようなクズを!! 馬鹿みたいにお人好しな自分を!!」


副隊長が隊長の傷口を抉りながら、それはもう荒れていた。


回りはドン引きである。


ヒロインでさえ、ドン引いていた。


人はいくら怒りに我を忘れようと、もっとひどい惨状を見ると我に帰るものである。常に何かと比較する生き物こそ、人間であるのだ。


ヒロインは、あまりに残酷な光景に冷静になりつつあった。


自分は確かに男らに怒りを覚えた。しかし、目の前の彼はもっと怒りを顕にしている。大事な隊長を傷つけてまで。それは非常に自分と似ていた。大事な人だからこそ、憎しみを抱いてしまった瞬間に、それは自分ではコントロールのできない怪物と化してしまうのである。


しかも、大事な人は身を呈して凪を守った。そして、その張本人から馬鹿にされたのである。それを彼らはきっと、何度も味わってきた。それは理不尽の一言では片付けられないだろう。


かわいそうー。


そう思ったとき、少女の心には前のように人を哀れむ気持ちが芽生え始めていた。


皮肉なことに、人を自分よりかわいそうと思う気持ちが、彼女に優しさを取り戻させつつあった。


そして、少女の変化を化け物も察していた。


"アイツハダメダメ。ツマラヌ。ヤハリ、トリツクハヤツダー!!"



隠れていたヤツが副隊長目掛けて飛んでいく。



"トッタ!!"



「っ!! この馬鹿やろう!!!」


黒い靄がウォールの中に溶け込んでいった。

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