ヒロインの選択 (後編)
上空で見上げていた男たちも、本能的にやばいと感じていた。
「おい……この高さから飛び降りても……死にはしないよな。」
「だとしても! 絶対骨折する!!」
「やだよ!! やだやだ!!」
絶対に助けがくるまで動かないと意地を見せる男たち。だが、そんな中、美緒だけ返事が違った。
「……隆平さ、飛び降りる覚悟ある?」
「ああ? ねえよ。ただ聞いただけだ。」
「ふぅん。その程度なんだね。なっちゃんへの気持ちは。」
「だってあいつが元凶だぜ?」
「……そうだね。だけど、僕はやっぱり、彼女が好き。彼女がこんなことをしたのも、僕らに原因があるよ。」
「……なんでてめぇが選ばれなかったんだろうな。」
「知らない! 僕は行くよ!!」
美緒が体を前後に揺らすー。
しかし、男たちは大事なことに気づいた。6人をぐるぐる巻きにしたロープはつながっていることを。
隆平の頭にもあるひとつの結論が導きだされる。
ーえ?これ、横の俺らもやばくね?ー
という。
「ちょ、まてまてまて、おまえだけとはいかんかもしれんぞ。ちょ、やめろって!」
美緒の左横は隆平、右横は翔である。
「ちょ、あなた、正気ですかっ?? お止めなさい。」
「いや! なっちゃんが危ないでしょ! あんな凶暴化したヒーロー、いやヴィーランズ?が近くにいるなんて!」
「だったら、上空が安全でしょう!? 私は上空で暮らします! 地上に引き下ろさないでください!」
「天使かてめぇは。いや、実際は悪魔だがな。」
「いやです! やめてください!! ゆれる!!」
すっかり冷静さを喪失した男たちのボイスは地上に聞こえるわけでー。
ーああ、私のこと考えてくれるのって、美緒だったんだなー。
夏春の頬に雫が伝わる。
改めて考えてみると、凪は強引なところがあって、夏春はそれに引きずり込まれたにすぎなかったのだ。
自分のことを顧みず助けようとしてくれる人が近くにいるなんて、なんて幸せなことだろうか。
ー美緒がすき。
すっかり以前のヒロインに戻った彼女は、ヒロインらしく男たちの元に駆け寄り、上空に向かって叫んだ。
「美緒! やめて!!」
「なっちゃんっ! 今助け「やめて!」
「元といえば、私のせいだよね。ごめんなさい。絶対助けるから! 今は動かないで! 下手したら後遺症とか残るかもだから! 落ちようとしないで!」
「なっちゃん……ごめんねっ……!」
「私こそごめん!」
美緒とヒロインのやり取りを聞いて周りはほっとする。
「ふふ。完敗です。夏春さんは美緒にお似合いですよ。」
「でも、凪が……。」
「私は美緒がいい!」
「!!」
上空に、隆平の声が消えていった。
「上空で自分のルート進めんなよ……。」
すっかりいざこざが解消した乙ゲーキャラたちの会話は、隊長と副隊長の耳にも届いていた。
「そろそろよさそうやな。」
「っっ、あ、あ。」
副隊長が自身の顔へと手を持っていく。
そしてー
ゴツン!!
自身をグーで殴った。
"アアアア、イゴコチワル、イ、、タスケ"
副隊長の身体から黒い影が立ち上る。
「隊長! すまんな! 傷口えぐって!」
「ああ!」
「隊長! ほんまは、めちゃ尊敬してんねん!」
「ああ!」
「隊長のお人好しなとこ、美点や思うわ!」
「ああ!」
「やはり、うちらの隊長はあんただけや!」
「ああ!」
"ウウ、ナンヤコイツラキモチワルッッー"
ヴィーランズが完全にウォールから離れる。
その瞬間ー。完全に分離したヴィーランズに向かってウォールがナイフを振りかざした。
「ほな、さよなら~。」
特殊な素材で作られたナイフがヴィーランズの体を切り裂く。
ギャァァァァォォォォァァォ
おぞましい断末魔の後、ヴィーランズは粉と化して消えていったー。
「ふぅ、一件落着やな。」
「だな。」
二つの影がそれを見て微笑む。
「なるほどな。」
「ふふ。でしゃばらないでよかったですね。」
「後はあいつら元にもどすだけだな。」
「うん。」
安心したように彼らは一行を見つめていた。
そして、同様にー。
「よし、ほな、帰りますか。」
「そうだな。なんか忘れてないか?」
「ないない! はよ帰りましょ。他のヒーローらに話さないかんことがあるねん。」
「なんだそれは。」
「めちゃ、おもろい話しっすわ。」
「ほう?」
ウォールたちが踵を返して歩きだしたときだった。
「ちょっとまってください!」
高く透き通るような声が響いて、歩き出したヒーローたちを引き留めた。
「あの、図々しいお願い事ですが、彼らを助けていただけませんか?」
夏春の言葉にウォールは彼ら?と不思議そうに首をかしげ、ディオはしまった!という顔をして後ろを振り返った。彼らはすっかり忘れていたのだ。
「ああ、も、もちろん助けるぞ?」
「何を、て、ああ!! そういやぶらさがってましたねえ!」
「しかし……どうやって下ろそうか……。」
「縄をさくっと切るってのはどうや?」
「おまえ、そもそもどうやってあの状況を作り出した?」
「ああ、あれは、ヒーローの力を使って……」
「おまえなあ!!」
不穏な会話に焦るのは夏春だけではない。
「ちょ、あいつらどうなんだよ。」
すっかり存在感を消していた凪がディオたちに尋ねた。
「ヒーローの力といってな、科学技術の力を応用して超能力的な力をヒーローは1日1回、最高で2回使えるんだ。」
「1日1回やで。」
「しかし、それを、このバカが使いきってしまってな……。」
「すまんすまん。」
「なら、てめぇは?」
凪がディオを見つめる。
「俺はなあ、ヒールと防衛なんだよな。」
「突っ込み型の隊長にお似合いっすよねw」
「つまり……その……ヒーローの戦闘型に特化した能力に限定されるんだ。こいつは、スピードど空間浮遊能力なんだが……。」
「隊長は防御で突っ込んでヒールで癒しながら傷つくりますよねw」
「まじかよ、ならさ、俺を助けたときみたいにてめぇらが下に「バチン!!」
凪をぶっ叩いたのはウォールではなく夏春だった。
「サイテー。」
彼女の冷めた声に凪が反応する。
「俺らの出会いもこんなんだったよな。懐かしい。本当におまえはおもしろ……おい、なんの真似だ?」
凪が怪訝そうに夏春を凝視した。あろうことか、彼女は凪に深々と頭を下げていたのだ。
「顔を上げ「ごめんなさい。別れてください。」
「はっ?」
「私、凪くんの強引なとこに惹かれてた。でもね、気づいたんだ。凪くんのそれは強引なんかじゃない、傲慢だって。」
「別れねえぞ。」
「なら、別れてくれるまでなんでもするわ。大財閥の恋人に相応しくない行動だって進んでやってやるわ。」
「なんでだよ。」
「さっきも言った通り、凪くん傲慢! その人に助けてもらったときもそうだった。自分勝手だと思うけど、あなたと付き合うにはこんくらい私も傲慢じゃないと釣り合わなかったのね。」
絶句する凪を背に、夏春は男たちが吊るされている下へ駆けていく。そして、叫んだ。
「美緒ーっ!! わたし、サイテーで傲慢な女だけどー! 美緒に釣り合うようがんばる! だから、付き合ってください!!」
その声は上空に届いた。
「っ! もちろん!!」
そして、隆平の台詞が再び上空に消えていく。
「いや、だから、上空で青春すんなって。」
◇
結局、その後、財閥の力を利用し、ヘリコプター7台が救助に駆けつけた。凪の家は皆にとってトラウマとなったようで、緑賀谷財閥所有のホテルのロビーにヒーローたちとキャラたちが集まっていた。
話題は豹変した副隊長の種明かしである。
「つまり、俺の体に一旦ヴィーランズを取り憑かせて、ヒロインのヴィーランズ化を阻止しようとしたわけや。」
「そんなこと可能なのか?」
隆平が訪ねる。
「無理やな。普通は。ヴィーランズに取り憑かれたら普通の精神じゃなくなる。残虐になり欲望に忠実になる。」
「なら、なんでてめぇは?」
「だから、普通や無理ていったやろ。俺たちは、ヒーローやで? 特殊な訓練を受けてるんや。ヴィーランズを取り憑かせるには、一旦ほんまに負の感情に支配されなあかんねん。ヴィーランズは感情そのものから生まれとるから偽りは通用せえへん。だから、一旦負の感情を引き出しつつ、体内時計に我に帰る時間を設定しとかなあかんねん。それからはヴィーランズの意識と人間のプラスの意識を平行させる。共存させんねん。ヴィーランズが居心地悪くなってくるよう、さらにはプラスのエネルギー放出させんねんよ。負の感情の対局はプラスやからな。まあ、ヒーローにとってはヴィーランズを自身に取り憑かせるのは、手段としては一般的やで。」
「まあ、それを完璧にやるには、その日のコンディションも大事だが、おまえはよかったんだな。」
「まあ、その前にいっぱい笑ったからな。」
「?」
隆平がさらに口を挟む。
「そうゆうことかよ……。なんか地上の会話は所々しか聞こえなかったんだけどよぉ、そいつがてめぇを誉めるのは聞こえてきたんだよ。」
「え? そう言う関係? て思ったよね~。」
双子もうんうんと頷いた。
「いや、ヴィーランズを追い出すにはプラスの意識が要なんや。言葉はエネルギー。そりゃ、気合い入れなあかんやろ。」
「なんだ、そういうことですか。ただえさえ地上に足が着いていないと気持ち悪いのに、さらに吐きそうになりましたよ。」
「あれー? 翔、天使になるんじゃなかったの?」
美緒がツッコむと、それにいち早く反応したのはー
「それは忘れてくださ「おい、美緒!てめぇ、なつ奪いやがったな!!」
「凪くん!! やめて!」
「おまえは黙ってろ。」
「凪、ごめん。僕ね、凪になっちゃん譲ったのは、なっちゃんが幸せだと思ったからなんだよね。でも、結局傷つけて、追い詰めてたよね。
次なっちゃん泣かせたら許さねえよ。」
凪が美緒に拳を振り上げる。
それを止めたのは、翔だった。
「私は……なつは美緒にお似合いだと思います。」
「なっ、てめっ……!」
「うんうん。ベストカップルだよね。」
「確かにー!!」
「なっ、てめぇら!」
「凪ちゃんさー、なっちゃんが自分に刃向かうのが面白くて好きになったんだよねー。」
「だけどさー、まあ、ちょっとはなっちゃんのおかけで丸くなってたけど、すぐにまた元の暴君になってたよね?」
双子も反論する。葵も口を開いた。
「たぶん、凪は……なつをちゃんと愛せてなかった。凪と俺らはいっしょ。表面だけを評価される虚無な存在。けど、なつだけは違った。なつを手に入れた優越感を、同じ境遇の俺らに見せびらかしたかったんだ、凪は。」
「……っ、そんなわけ。」
双子の攻撃は続く。
「しかも、僕らもだけど、なっちゃんが入れ替わってるの気づけなかったっしょ?」
「正直~恋人なら気づけって話しだよね~」
「っ……。」
完全に言葉に詰まった凪を尻目に、美緒が夏春に向き直ると、土下座した。
「なっちゃん! その件は本当にごめん!!」
「美緒……。いいよ、もう。」
暗い雰囲気の中、口を開いたのはディオだった。
「その……ヴィーランズは……人の感情から生まれるんだ。だから、ヴィーランズはごく普通の人間の感情の一部でもある。見分けるのは正気難しい。」
「うん……。」
美緒が涙目になりながら頷く。二人の仲がいい感じになりかけたとき、空気をわざと読まない男がいた。
「隊長や仲間が入れ替わってたら、俺は気づくわ。」
再び、美緒と男たちが項垂れる。
「なっ、嬉しいが! ヒーロー基準にものを言うなばか!」
副隊長がケラケラと笑う。
「まあ、普通の人間も言えないような「信じろ!」とか「負けるな!」て台詞をヴィーランズが言えるわけないやろw」
その言葉に確かに!と皆が頷く。少しだけほっとしたように、夏春と美緒が見つめあっていた。そんな彼らを見守っていたウォールたちが腰を上げる。
「そろそろ俺らはいくか。」
「せやな。」
「ねぇ、あんた。」
二人が立ち去ろうとしたときだった。美緒がディオに声をかけたのだ。
「殴って悪かったよ。正直、僕はヒーローには向いてないて思うけど、なっちゃんだけのヒーローにはなろうて思えたよ、あんた見てたらさ。その……ありがとう。」
「ああ! 彼女を大事にな。」
「ほな、俺らは行くわ。」
去り行く二人を乙女ゲーキャラたちが見送る。
「また、認めてねぇぞ。なつ……。」
凪は完全に不貞腐れていた。
そして、浮かない顔をする隆平の姿があった。
◇
ホテルから出て、ディオがふと尋ねる。
「おまえは帰り道わかってるんだよな。」
「もちろんや。というか、人やけど。」
「?」
「ほら、伝手があるゆうたやろ?」
「ああ。」
「それがおっかねぇ嬢ちゃんと正気のない兄ちゃんなんやけどー」
「へぇ、誰がおっかないですか、誰が。」
「誰が正気ないだ、誰が。」
すこし幼い透き通った声と、本当に正気のなさそうな声がウォールたちに投げ掛けられた。
イチと、眠そうにゲーム機をいじるケンだった。
「うっわ! 急に現れんな!」
「カンサラーが剥がれてますよ、エセ。」
「え? おまえ、エセなのか?」
「ちょ、言い掛かりっ!!」
「さあ、帰りますよ。世界が歪む前に。」
「てかさ、きみらどこおったん? 俺ら大変やったんやで?」
「こっちも大変だったわ。あんたらがヴィーランズをこの世界に持ち込んだおかげで、この世界が変わりだすとこだったんだよ。」
「どういうことだ?」
「数年後にはヒーローが必要になってたかもしれねぇぜ?」
言葉の意味を理解した途端、二人のヒーローが顔を真っ青に染めていった。
「おまえらさ、ヴィーランズの発生源とか調べてるやろ? なんとなくわかったんじゃね?」
「!」
「あなた方の世界の始まりは、この世界に起きようとした変化と同じだったかもしれませんよ。」
「そんな……」
「副隊長さんは、あの人らは平和な世界にいるから価値観が違うと思ってたでしょう?」
「………」
「しかし、このまま行くと彼らも仲間になっていたかもしれません。もしかしたら、いずれつながっていたかもしれませんね。」
「俺らの世界は……別の世界の影響を受けて変わったのか? そんな……。」
「まあ、仮説の一つです。といっても世界を悪い方向に変えるなんてそんなこと許されないんですがね。ヴィーランズの元となるような因子はこちらで処分させていただきました。」
衝撃の事実に黙りこくってしまった二人を尻目に、ケンが空中に手をかざす。
「開け。」
その数秒後ー。
空間には特に変化が訪れないまま、ケンの左手が空中に止まっていた。
「あれ? 開け!」
「? 開けっ!」
「あれ、ヒーロー世界への扉が開かないだけど。」
「というと?」
イチがケンに訪ねる。
「こいつらの世界への入り口が何らかの原因でロックされているようだ。」
「ほな、俺らは?」
「帰れませんね。」
イチの言葉に、ウォールとディオが声にならない悲鳴を上げた。
「なんやて? か、帰れんとかありえへん!」
「なんとかならないのか?」
焦ったようにイチたちに詰め寄る男たちに、イチが困ったように眉を寄せた。
「本当は関係のないあなた方には言わないつもりだったんですが、ヴィーランズに異世界への転移能力を与えた黒幕は別に存在します。私たち以外に世界を繋げる者がいるとするなら、それは敵です。前の世界での違和感、そして今回の事件。何者かが、意図的に世界を変えようとしています。」
「そこでだ。俺らの仲間にならねぇ? 俺らの仕事を手伝いながら、帰る方法探すのはどうだ?」
ウォールが溜め息をはいた。
「どうて言われてもな……。それしかないやないか。」
「帰れないならしかたない。よろしく頼む。」
ディオもウォールに同意する。
管理人メンバーの新たな誕生だった。
◇
「ほう、ここが世界の中心部か。偉い地味やな。」
「いや、シンプルはいいことだ!」
イチたちのオフィスにつけば、たちまちウォールが不満げにそう呟いた。無礼なウォールの言葉に、慌てたようにディオがフォローにならないフォローを口にしていた。それに肩を竦めながらイチが言う。
「しかたないんです。お金がないので。ところであの馬鹿……失礼リバースカバはどこに?」
「なんや、嬢ちゃんやはりそっちが本性かいな。」
「仕事の量に文句を垂れてた男です。あなた方のように誰かを連れてくるんでしょうけど、心当たりは?」
「えー! いらんわあ。採用するん?」
「役に立つかいなか。それ次第。」
「うわっ。冷淡なこって。」
イチがそう言えば、ウォールが思ってもいなさそうな批判を口にする。ちょうどそのときだった。
ガチャリ。
扉が開かれた。
「噂をすれば来たようですよ?」
「おーい!希望者連れてきたぞー。」
そう言ってケンが後ろを指差した。そこには金髪の男が気まずげに扉の横に背を預けていた。
「よぉ。」
ディオは驚き、ウォールとイチはゲッと顔をしかめる。
「いや、世界に残りたくないて言うからさ。人手不足だしいいだろ? 仕事減るし。」
「まあ……これから役に立つかテストです。」
仕事減るし、という言葉にはイチも頷かずにはいられなかった。こうして、隆平も仮のメンバーに追加された。
(おまけ)
「なんでこっちの道を選んだんや? 俺らは選択肢がそれしかなかったからやで。わざわざくるとか悪趣味やな。」
「いや……あるバカを見てたらよぉ、俺もなんかあっちで普通に生きるのがつまらないと思ってきてよぉ。」
「まさか、あの馬鹿に影響される馬鹿が他にもおったんか。」
「いいのか?仲間たちは……」
ディオが心配そうに尋ねれば、隆平はあっさり頷いた。
「ああ。そもそもそんなに仲良くねぇよ。しかも、なんか……合わねえんだよ。」
そんな男らの会話にイチが口を挟んだ。
「ちなみになんですが、上谷さんのいた世界は乙女ゲームという世界です。」
「まじかよ。いや、ぽいとは思ってたけどよぉ。」
「見ろ。」
ケンが隆平にスマートフォンを見せる。
画面を覗き込んだ隆平の顔がひきつっていた。
「あ。まんま、おれらの世界だわ。」
「本来、メタ認知はできないんですが、あなたはもうあちらの住人じゃないのでね。」
「凪と夏が結ばれた後くらいからはなんとなくわかってたし、自由に思考もできてたんだよ。ただ、その前は、たまに思考にストップがかかることがあったな。そういうことか。」
「ああ! あなた、そのお二方と違って元の世界には戻れませんよ。設定を取り消すためにあなたの存在そのものを消したので。」
さらっとイチが言えば、隆平の顔がひきつる。隆平に戻る選択はそもそもなかったが「存在を消した」という言葉が気になったのだ。
「も、もし、無理にいったら……?」
「消滅します。体が。」
隆平が固まる。
「Game overだわ。あちゃー。」
ゲーム機を片手に持った男のため息と、やばいとこに来てしまった、と頭を抱える男のため息が重なった。




