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英雄之仮面 幻実の本  作者: 中川 はじめ
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9/10

I will give you a last surprise

私はいつも“彼”がいたあの部屋のドアをノックした。しかし、彼の返事はなく、それどころか妙に静かだった。失礼しますと一言だけいって、そのドアを開けるが、室内には誰もいなかった。

あったのは、いつも彼の話を聞くたびに間にある机と、その上にあるいつもの本だけだった。

突如として現れたフェイクキャラクターらは、“ねこちゃんず”という部隊によって鎮められていく。残っているのは、フェイクキャラクターを指揮するヴィンセントと、彼を囲うそれだ。

シャーディックは無線で増援を呼び、畳み掛けにはいる。

「……行くぞ!」

彼が現場にいる兵士たちに言うと、一斉に突撃した。

キャプテンねこちゃん、シノビねこちゃん、パンダねこちゃんらもそれに続く。

それに気付いたヴィンセントは、突風魔法で自身の喉元に剣先を突き付けるねこちゃんを吹き飛ばしてタワーの頂へ逃げた。

「…ウィルくん、大丈夫かい?」

ねこちゃんは剣を鞘にしまい、ウィルに駆け寄って彼に問う。

「うん。君のお陰で助かったよ!」

「よかった…!」

二人はヴィンセントが逃げたタワーの頂を見る。

空は曇り、改めて周りを見ると荒廃したビル街の建物からは黒い煙が上がっていた。

「取り戻そう…!」

ウィルがねこちゃんに言った。

言われた彼はコクりと頷く。

本を開き、自身とねこちゃんに飛翔魔法をつけると、一気にヴィンセントの元へ向かう。彼は接近させまいと、牽制魔法と思われる光弾をいくつも飛ばすが、なんとかそれらをかわしていく。

寸でのところで当たるものは剣で弾きながら上がっていき、ついにヴィンセントの目前に到着した。

「キサマら……!」

彼らを強く睨みながらそう言う。

「終わりだ…! 降参しろ!」

先陣を切ったのはねこちゃんだ。慣れた様子でヴィンセントに急接近し、そのままの勢いで蹴りをした。ガードをされたことにより、大してダメージは入っていなかったように見えたが、その勢いに足元をふらつかせた。

その隙を見逃さなかったウィルは、ヴィンセントの目の前で降りて拳を突き出す。対人格闘を会得していた彼は、その拳を腕ごと流してから腹部に蹴りをいれる。その苦しみから一瞬だけ身体中の自由を奪われ、そのまま床に叩き付けられた。

「ウィルくん!」

ねこちゃんも降り立つと、鞘から剣を引き抜いてヴィンセントの相手をした。とっさに相手もレイピアを召喚させて応戦する。斬り合いが続き、互いの武器が交差して睨み合った。

「何故キサマらはこいつらの味方をする!? キサマだって架空の存在だろ! 現実世界に存在しないんだぞ!?」

「それが何だって言うのさ…? ボクらはたくさんの人を楽しませるために作られ、産まれて来たんだ…! 例え現実世界にボクらが居なくても、それを妬んで沢山の人を悲しませるなんて間違ってる!」

「………くそ…! ふざけるな!!」

「同じ作者…グロアから産まれたのに…奇妙ってやつは……!」

一旦離れ、様子を見るように睨み合う。

後退り、背後にいたウィルを気にかける。

「ウィルくん、無理しないで…君はずっと戦ってきたんだ……。」

相手から視線を離さないよう、その動きに注意しながら声をかけた。

「大丈夫…僕は…まだやれるよ……!」

彼はそう言ってなんとか立ち上がり、本を召喚させた。

そこから剣を取り出すと、本が姿を消した。

ヴィンセントは再び牽制魔法を発動させた。それを合図に三人は剣を交え始める。さすがのヴィンセントでも敵わないと思われたが、それでも互角に渡り合っている。どんなフェイクキャラクターよりもたちが悪い。

交差する度に金属同士のぶつかる音が鳴り、腕にその衝撃が伝わる。

このままではらちが明かないと思ったヴィンセントは、まずはウィルから斬ることにした。が、その瞬間の隙を彼本人に突かれてしまい、逆に斬られてしまった。

「うがっ……くっ………!!」

痛みのせいで次の行動を忘れ、ねこちゃんに蹴り飛ばされてしまう。

「くそっ……! 何故だ…!」

ヴィンセントの表情が苦痛に歪む。

「もう降参しろ…この戦いに意味はないんだ…。」

ウィルが剣の先を彼に向け、そう言った。ホールドアップだ。

「黙れ!!」

彼はそれでも立ち上がった。

「俺はこの世界に……実際に存在する…! 俺は…俺は……!!」

「まだ言うか!」

ねこちゃんが電撃魔法の構えをとった。

「はぁ…はぁ…見ろ……!」

彼が懐から取り出したのは、金色に輝く物体……そう、物語のテープだ。

「なに…!?」

物語のテープを自身の胸部にめり込ませると、身体から金色の光が溢れ始めた。あまりの眩しさに目を覆う。

それが収まると、全長約60mほどの人型の竜が目の前にいた。

頭部は犬の骸骨のような殻に守られ、その中には確かに同形の頭がある。腕は通常の人間(といってもそもそも人ではない)よりも長く、5本の指がある。さらに、背中には翼があり、そのまま空を飛び回ることも出来るだろう。大きさは左右それぞれ約120mはある。

「…犬、猿、雉ってわけか…! そういえばあの物語のテープって桃太郎の世界からだったっけな…!」

ウィルは再び本を召喚させ、自身とねこちゃんに飛翔魔法を発動させる。

ヴィンセントによる攻撃を合図に飛び立ち、崩れていくタワーから離脱した。

これほどまでに巨大だと、恐らく剣の攻撃は効かないだろう。とにかく飛び回って動きを観察する。

巨大故か、行動が遅い。その隙を突けばいくらでも攻撃することも可能だろう。二人はそれぞれで攻撃魔法を発動させる。

爆発魔法、カマイタチ、稲妻、氷結、岩石飛ばし、炎上………。

しかしどれだけやっても、全く効いているという感じがしない。手応えが無いのだ。

ヴィンセントは、金棒を取り出して派手に振り回した。なんとか回避することはできたが、これ以上近付くことは出来ない。

「まずい…どうしよう…!?」

ウィルがねこちゃんにきいた。

「………大丈夫、ボクらの仲間が来てくれる…!」

次第に轟音が近付いてきた。空に響くこの音は、聞く人によっては不快になるものだ。その正体は、シャーディックが所属する軍の戦闘機や、戦闘ヘリだ。

それぞれからミサイルランチャーやミニガンによる掃射が行われた。さすがに魔法とは爆発の威力も数も違うため、ヴィンセントが仰け反った。

「いっけぇグリフォン!!」

ねこちゃんがヴィンセントを指差しながら言うと、キャプテンねこちゃんが乗っていた巨大な空飛ぶ船が現れ、砲撃が行われた。

「行ける!」

ウィルはふと何かを思い出すように本を開き、三重の魔方陣を作り出す。

「時間を稼いでくれ!!」

「…わかった!」

魔方陣に光の粒子が集まっていく。ねこちゃんはすぐにあれでトドメを刺すつもりなのだと理解した。

彼は時間稼ぎのために飛翔魔法で辺りを飛び回りながら電撃魔法をぶっぱなす。バチィっとド派手な音を出しながら、光の速度で体を突き刺す光の矢は、砲撃によってできた傷によって威力を増し、その上、体の部位を麻痺させていく。

断末魔のように大きな声で叫び上げる様は、まるで死期を悟った動物の抵抗のようだ。

次の瞬間、ウィルが光の粒子を魔法陣に集めてトドメを刺そうとしていることに気付いたヴィンセントは、彼に金棒を振りかざした。

「まずい……!」

轟音を立て、空気を斬りながら振られる金棒は、彼がいた空間を裂いた。

しかし、そこには赤い薔薇が散っただけだ。

『……!?』

ヴィンセントが驚いた様子でそれを見ると、すぐ側に彼女がいたことに気付いた。

「えへへ……! 私も、頑張ればこれぐらい!」

アーサー姫だ。

『………!!』


「ヴィンセント!!」

背後から声がした。名前を呼ばれた彼が振り向くと、巨大な三重の魔方陣が広がっていた。直径約10mほどあるその先に、ウィルにいた。いつの間に背後の上空にいたのだ。

「これで……!」

彼を握り潰そうと、その巨大な手を伸ばし始める。

「“エンドマーク”だ!!」

無数の光の線が放たれ、それらは彼の手をズタズタに裂いて行く。

形成しきれなくなったそれは崩壊し、影となって消えていく。片腕が無くなるのにさほど時間はかからなかった。

すぐにそれらが彼自身を襲い始め、全身が黒い影となっていく。

『オレハ……ソンザイシタカッタ…ソレダケナノニ………!』

消えていく体、微かな声で彼は言った。

「…存在していることを証明することなんてできない…。唯一それが出来るのは、“誰かの記憶に残ること”なんだ…。」

ウィルは消え行く彼に教えるように、優しい声で言う。

「君は僕らに出会った時点で…存在していたんだよ。」

『………! ………ソウか…オれハ…こコニ、居たんだな……。』

涙を流し、そして光の中へ消えていった。

巨大な魔力により、ヴィンセントの姿が来てた途端に光の爆発が起き、辺りに衝撃波が渡った。

「……ぐっ…!!」

誰よりも近くにいたウィルは、それに巻き込まれてしまって吹っ飛ばされた。

あまりの高さからの落下に気を失いかけたが、誰かが自分を助けてくれた。

その瞬間、何故か目の前の景色が紫色になり、気持ち悪くなった。これは恐らく落下とは関係がないだろう。



消え行く意識の中、聞こえたのはアーサー姫が何度も自分の名前を呼ぶ声だけだった。



幻実の本 #9 I will give you a last surprise

「本棚にしまった箱の中身を持っていて欲しい。」

ページの途中に挟まれていたしおりにそう書いてあるのを見つけた。私はメモに記された通り、指定された本棚を調べてみると、確かにそこに高級そうな箱がしまってあった。少々重みのある箱は南京錠で施錠され、そしてそのとなりにダイヤルがあった。

待てよ、私はダイヤルのナンバーなんて知らない。

私は、仕方ないから箱を再び本棚にしまった。

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