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英雄之仮面 幻実の本  作者: 中川 はじめ
10/10

My dream is ……

私は“彼”の部屋にあった謎の箱を持っているが、その箱は厳重に施錠されており、私はその解除方法を探った。

しかし、どこを探してもそれは無かったのだ。

ひょっとして持っているだけでいいのでは?

そう考えた私は、これ以上の捜索はやめにし、部屋に戻ることにした。すると、私の部屋にある机の上に、いつもの本が置かれていたのだ。

あれから4週間が経った。

街の復興はなんとか成されている。ウィルはセウフィトの大統領から“防衛功績勲章”を与えられ、彼の務めている図書館に約1000万の寄付がされた。

戦いが終わった後、残党のフェイクキャラクターたちはすぐに姿を消していった。そしてそれは、ねこちゃんたちとて例外ではない。各々が各々の世界に戻って行ったのだ。

だが、世界を持たないアーサー姫は別だった。彼女はあの後、昏睡しているウィルの代わりに物語の修正をしていた。一人で桃太郎の世界の修正を再開させ、それが完了して戻る頃にはズタボロになっていたのだとか。


□ 2週間前

「……ウィル…?」

病室には彼女と、昏睡している彼がいる。

もちろん眠っているために返事はしない。

「…もう、寝坊さんなんだからさ……。」

彼の頬をつねってそう言うと、何故か涙が流れてきた。

「ねぇ…早く起きてよ……。 ずっと離れてたのに…。こんなんじゃ…嫌だよ……。」

あの時のように、頭を撫でる。

彼女は毎日病室に通っては彼の顔を見に来ている。しかし、一度も彼が起きているところを見たことがないのだ。

「………ウィル……。」

「………。」

「……。」

「……ぼくは……子供じゃ…ないよ……。」

「………!!」

微かに聞こえた声は、彼の口から発せられていた。

彼はゆっくりと目を開け、アーサーの顔を見つめた。



あとどれくらい眠るか分からない。医者はそう言った。しかし、何故かすぐに回復して目を覚ましたのだ。

そもそもあの衝撃波の中、誰よりも近くにいた彼が生きていることも、目立った外傷もないことが不思議だ。誰かに助けられた、としか思えない。しかしその時のねこちゃんずは街のフェイクキャラクターの掃討で忙しく、シャーディックはそもそも飛べるわけがない。

……ディファーグだろうか…? しかし、後日訪ねたところ、当時は自分の図書館の防衛で忙しかったという。

真相を知るものはいない。もし居るとすれば、それは助けた本人だろう。

ウィルは結局その謎に胸をモヤモヤさせながら図書館の作業をしていた。

「………あれ…?」

大事に取っておいた、唯一現存する“ねこちゃんず ねこちゃんの日常”の絵本の表紙にいたねこちゃんがまっさらになっていた。

急いで中身を確認してみたが、やはり彼がいたところだけ白く切り抜かれていた。モノクルに触れて中身を確認してみたが、物語のテープが散り散りになってしまった訳では無いようだ。

だとしたら何故…?

「ウィル、どうかしたの?」

アーサー姫だ。

今日で現実世界にいれる日は最後だ。

彼女はこの現実世界に来てしまった。体を持たない絵本のキャラクターは、時間が経てば消滅してしまう。だが彼女は、ヴィンセントが不正利用した物語のテープの魔力による影響によって、それまでの期間が伸びていたようだ。

テープの魔力は日に日に弱まっていき、今では極限まで薄くなっているのだ。

「ううん、なんでもないよ。」

本をそっと置き、彼女の頭を撫でると、彼女は満足そうに微笑んだ。

「さっ! 早く仕事を終わらそう!」

「ああ、そうだね!」

慣れたように仕事を進める彼女の姿に、まるで親が子の成長に感動するようなものを感じた。


夜、ついに別れの時が来てしまった。

彼女は一度、現実世界の満天の星空を眺めたかったらしく、最期の日である今日、その夢が叶った。

「……アーサー…その……。」

一緒に空を見ていたウィルが彼女に声をかけた。

少し別れが名残惜しそうなその声に、アーサー姫は胸がギュッとなる感じがした。

「…どうしたの…?」

「……君と出会えて良かったと思ってる…。」

「……うん…。私も…。」

「ほんとに…?」

ウィルが彼女の顔を見て問う。

「……ほんとだよ…?」

彼女は目を合わせ、ニコッと笑って答えた。

「私ね、今まで何もなかったからずっとつまらなかったし、ヴィンセント王子に追いかけられて辛かった。けど、あなたが助けてくれた。すごく、すっごく、嬉しかった!」

涙を堪えながら言っているせいで、無意識に声が震えていた。

「……僕も、君には何度も助けられたよ。ありがとう、アーサー……!」

「えへへ……。 また会おうね…!」

「…うん…きっと…!」

彼女の足下が透明になり、そこから黄色の光の粒が現れる。

「…ウィル…?」

「……うん…?」

彼女は自分の冠をウィルの頭に乗せ、そしてぎゅっと抱き締めた。

「大好き……!」

「………!」

彼女の温もりが、どんどん消えていく。ウィルは泣き出した彼女の頭を優しく撫でる。

「……僕も、好きだよ…。」

彼には見られないが、彼女は安心したように、優しい笑顔になって消えていった。

「だから…今日はさようなら……。」

ウィルも堪えられなくなって泣き出してしまった。

消滅………そう、もう会えないのだ。



人には夢がある。

夢を持つと、切なくなったり、辛くなったり、投げ出したくなったりするものだ。

今の社会を生きる人たちは、夢を持つことを放棄している。

きっかけは、「やりたいこと」や「なりたいもの」を妄想することだ。

それが想像力をかきたたせ、そして夢へと繋がる。

想像力は無限に広がる。




過去が現在に影響を与えるように、

未来も現在に影響を与える。


ニーチェ

(ドイツの哲学者、古典文献学者 / 1844~1900)






□ X日後…

病院の廊下を、金髪の男が歩く。

目的の部屋を見付けると、そこの扉をノックしてから開ける。

「…だれ…?」

その部屋のベッドで上体を起こしていたか細い女性が彼を見た。

「…初めまして…。」

「…あなたは…?」

彼はその彼女に近付いた。

心電図の電子音が一定間隔をあけて短く鳴る。

「大丈夫。ボクは君のおともだちさ。」

「ともだち…?」

「そう。君が、小さい時から一緒に遊んでいたんだよ。」

「……はじめてなのに…?」

「こうして会うのが初めてなだけだよ。」

「そうなんだ…? 」

彼女は弱っている様子だが、彼の顔を見てにこっと笑った。

「でもごめんなさい。私ね、目が見えないの…。だから、お顔が分からないの…。」

「…うん…。分かってるよ……。」

彼は彼女の頭を優しく撫で、ゆっくり寝かせる。

「お名前、きいてもいい?」

女性が言った。

「ボクは……。」

彼が名前を言った頃、さっきまで生きていることを知らせていた心電図の電子音は不幸を知らせるそれに変化した。

病室に刻まれていた名前は、グロア・シーナウである。

「……さようなら…。…もう、会えなくなってしまったね…。」

男は彼女の手を握ろうと手を伸ばしたが_


_ 看護婦たちが急いで病室を訪れると、そこにはボロボロになったねこのぬいぐるみだけがポツンと置かれていた。



幻実の本 #10 My dream is ……

本の内容を読み終え、そっと本を閉じたときだった。箱が光り出して自分から開いたのだ。私は恐る恐るその中身を確認してみる。

中にあったのは…

赤と青の二色の石と、黒と緑の石、紺色の石や、紫の石、そして茶色の石だった。

一体これがなんなのかは分からないが、とにかく私は、思わず見入るほどの美しさに感動してしまった。

しばらく見惚れていると、ふと本に挟まれたしおりに気付く。

「新しい物語はもうすぐだ。」

それには、そうとだけ書かれていた。


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