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2-1

 あの日から何度か、彰宏は店にやって来た。

 何度もやって来るのに、一度も行為をしなかった。

 二セットもの時間を取り、ただ会話をするだけ、ただ黙って側で座って居るだけだった。


「ねぇ、アフターとかやってるの?」

「やってるよ」


 もう何度目の来店かわからないある日、今日も下着姿で座る私に、自分の服を掛けながら、彰宏は聞いて来る。

 あぁ、これはこんな店じゃなくて、誰の目にもつかない所でしたい訳か。


 男なんて、結局、独占したい生き物だものね。


 何度目かの悲観を胸に抱き出した時、彰宏は昔と変わらない、私の心を掴み取って、全てを包み込んでくれる笑顔を浮かべた。



 翌日、少し仮眠を取ってから、アフター用の服に袖を通す。

 本当の私なら、絶対着る事の無いワンピース。体のラインを上手く隠せる様に羽織る上着が、季節の色を浮かべ、白いワンピースが清楚さを、女性らしさを醸し出す。

 全身鏡の前で自分自身をしっかりと写し、強烈な苦しさと気持ち悪さに、立ち眩みを覚える。


 大丈夫、あなたは可愛い、誰よりも可愛い、自信持って。


 心の中で呪文を繰り返し、家を出た。


 待ち合わせ場所は地下にある噴水の前。

 泉の広場と呼ばれるそこは、周囲を沢山の飲食店が囲んでいて、地下なのに、滾々と湧き出る水が、気持ちよく降り落ちている。


「お待たせ」


 飛び出る水の奥、座れば濡れてしまう噴水の前で、ラフな格好をした彰宏が手を振っていた。


「こんにちは」

「そんな畏まらなくて良いよ、同級生なんだし」

「そうだけど」

「此処は店じゃ無いよ、兎に角、お腹減ったしランチにしよう」


 彰宏は、本当にアフターと言うには友達感覚すぎるデートをした。

 アニメオタクだと言う彰宏の要望で、赤い看板が目立つアニメショップへ行った、幾つもの商店街を歩いて、大きな観覧車のある建物にも行った。


「此処で食べるクレープがいいんだよね」

「そう、なんだ」


 まるで彼女とのデートの様に、いや、友達と遊んでいる感覚なのかな。

 何事もない様に、至って普通に、時間を過ごして行く。


 そして、赤い観覧車の下で、コーヒーを飲んだ。

 

 必死に着飾る私の横で、当たり前の様に、普通の時を過ごす。



 彰宏は高校時代、クラスで、いや、学年でナンバーワンにモテていた。それは勿論、容姿端麗というものーーでは無いが、確かに普通よりはカッコ良かった。

 ただ、その会話力、そして人を思いやる心が人を引き寄せていた。

 誰に対しても優しい、そんな人間だった。


 だからこそ、私も好意を寄せていた。


 けれど、私の学校には可愛い子が兎に角多かった。だからこそ、彰宏の隣には常に女の子がいて、楽しそうに笑っていた。


 私はと言うと、丸縁メガネに髪はツインテール、校則通りの身嗜みに、無口。

 絵に書いたような影キャラだった。


 あと一歩が出ていたら、きっと私も変わってたんだろうなぁ。


 それは美味しそうに、クリームのたっぷり乗ったフラペチーノを啜る彰宏は、私の気持ちなんてこれっぽちも気付いていないだろう、心を捉えて止まない笑顔で私を見つめた。


「ねぇ」

「なあに?」

「いつまでこの仕事続けるの?」

「え?」


 私が食べたいと注文した大粒のチョコが混ざったクッキー。それを一口サイズに割って行き、断りもせず口にした。

 その位の流れで、そんな事を聞いてくる。

 他のお客と同じような事を、聞いて来た。


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