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2-2

「わかんない、いつ迄だろうね」

「お金、困ってるの?」

「そういう訳じゃないよ」


 確かに、私なんかの体一つで、高額なお給料が手に入る。大して美しくもない、それを使うだけでだ。

 金銭感覚はもしかすれば普通じゃない気がする。だけど私はお金の為では無い。


「もう辞めちゃいなよ、愛来には向いてないって」

「は?」


 どうして、そんな事を言うの?


 ニコニコそんな事を言う彰宏は、一切悪びれていない。

 胸の中に鍵をして出てこないようにしている感情が、押し出されようとする。

 私の存在価値なんて此処にしかないのに、自信持って自分を綺麗だと、可愛いと少しでも思えるように必死なのに。


 こんな所にいないと、私なんて気付かれないのに。


「勝手な事……言わないでよ」

「じゃあ何故働いてるの?」

「私は……私の存在を……知ってもらう為に……」

「それなら方法は沢山あるじゃん」

「ここじゃないと……可愛くなれないもん!!」


 周りの視線を感じる程に声を上げるなんて、私がするとは思っていなかった。

 胸に疼くモヤモヤと、悲しさと怒りが、勢いよく着いた手からテーブルへ伝い、激しい音を立てた。


 しょうもない理由だってことは、私自身も分かってる。

 夜の世界で着飾らないと自信がつかないことも。

 と言っても、それさえも偽りの姿で、結局の所、何故そこでしか居られないのかも、きっと私自身が分かっていない。

 ただハッキリ言えるのは、私という人間を、留めさせていたいから。


「こんな世界じゃないと、私は……私でいられへん!!」

「それで良いやん、愛来は、その素が一番なんや」


 突然の言葉変わり。

 確かに、私達は関西の人間だ。

 店からの延長上だから、他人行儀だったからこそ丁寧に話していたけれど。

 ここへ来て曝け出す素の私が、ことこの上なく気持ち悪い。

 折角着飾った私が、ボロボロと崩れて行くようで、苛々する、悲しくなる。


「何なん? 私を、貶める為にアフターしたん?」

「違うから、もっと自分に、自身持ちや」

「意味がわからん」

「あれ? 彰宏?」


 背中から声がした。

 美しく響く女性らしい声。

 自分にも備えたかった、凛とした大人の声。


「何してるん? あれ? 貴女は」

「希美恵(きみえ)?」

「もしかして、愛来?」


 昔より更に綺麗になった同級生が、落ち着いた雰囲気で、珈琲片手に私たちを見つめた。

 昔から羨ましくて、なりたくて、仕方なかった見本の女性。

 大人になってもそれは変わっていなかった。


「随分、変わったやん。綺麗になったね」

「……希美恵はもっと……綺麗になったね」


 やっぱり私は追いつけなかった。

 沢山のお金をかけて、沢山の体を酷使して、沢山の買い物をして、沢山着飾って。

 沢山喋って会話力を付けても。

 私はやっぱり希美恵には追いつけなかった。


「愛来、夜の仕事してるねんて、だから綺麗になったって言うねん」

「彰宏!?」

「夜の仕事? 体売ってるん?」


 何故此処へ来ていきなりのカミングアウト?

 だから誰にも会えない場所で働いたのに。

 ほら見て、もう、引かれてるよ。

 ほら見て、私の存在が、汚らわしくなってくじゃん。


「何なん?」

「え?」

「それの何が悪いん?」

「そういう意味じゃ」

「どうせ私は綺麗じゃないし、其処でしか存在価値ないんやから、仕方ないやん!」


 数枚の千円札を、彰宏に投げる様に押し付け、何も言わずに駆け出した。




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