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「わかんない、いつ迄だろうね」
「お金、困ってるの?」
「そういう訳じゃないよ」
確かに、私なんかの体一つで、高額なお給料が手に入る。大して美しくもない、それを使うだけでだ。
金銭感覚はもしかすれば普通じゃない気がする。だけど私はお金の為では無い。
「もう辞めちゃいなよ、愛来には向いてないって」
「は?」
どうして、そんな事を言うの?
ニコニコそんな事を言う彰宏は、一切悪びれていない。
胸の中に鍵をして出てこないようにしている感情が、押し出されようとする。
私の存在価値なんて此処にしかないのに、自信持って自分を綺麗だと、可愛いと少しでも思えるように必死なのに。
こんな所にいないと、私なんて気付かれないのに。
「勝手な事……言わないでよ」
「じゃあ何故働いてるの?」
「私は……私の存在を……知ってもらう為に……」
「それなら方法は沢山あるじゃん」
「ここじゃないと……可愛くなれないもん!!」
周りの視線を感じる程に声を上げるなんて、私がするとは思っていなかった。
胸に疼くモヤモヤと、悲しさと怒りが、勢いよく着いた手からテーブルへ伝い、激しい音を立てた。
しょうもない理由だってことは、私自身も分かってる。
夜の世界で着飾らないと自信がつかないことも。
と言っても、それさえも偽りの姿で、結局の所、何故そこでしか居られないのかも、きっと私自身が分かっていない。
ただハッキリ言えるのは、私という人間を、留めさせていたいから。
「こんな世界じゃないと、私は……私でいられへん!!」
「それで良いやん、愛来は、その素が一番なんや」
突然の言葉変わり。
確かに、私達は関西の人間だ。
店からの延長上だから、他人行儀だったからこそ丁寧に話していたけれど。
ここへ来て曝け出す素の私が、ことこの上なく気持ち悪い。
折角着飾った私が、ボロボロと崩れて行くようで、苛々する、悲しくなる。
「何なん? 私を、貶める為にアフターしたん?」
「違うから、もっと自分に、自身持ちや」
「意味がわからん」
「あれ? 彰宏?」
背中から声がした。
美しく響く女性らしい声。
自分にも備えたかった、凛とした大人の声。
「何してるん? あれ? 貴女は」
「希美恵?」
「もしかして、愛来?」
昔より更に綺麗になった同級生が、落ち着いた雰囲気で、珈琲片手に私たちを見つめた。
昔から羨ましくて、なりたくて、仕方なかった見本の女性。
大人になってもそれは変わっていなかった。
「随分、変わったやん。綺麗になったね」
「……希美恵はもっと……綺麗になったね」
やっぱり私は追いつけなかった。
沢山のお金をかけて、沢山の体を酷使して、沢山の買い物をして、沢山着飾って。
沢山喋って会話力を付けても。
私はやっぱり希美恵には追いつけなかった。
「愛来、夜の仕事してるねんて、だから綺麗になったって言うねん」
「彰宏!?」
「夜の仕事? 体売ってるん?」
何故此処へ来ていきなりのカミングアウト?
だから誰にも会えない場所で働いたのに。
ほら見て、もう、引かれてるよ。
ほら見て、私の存在が、汚らわしくなってくじゃん。
「何なん?」
「え?」
「それの何が悪いん?」
「そういう意味じゃ」
「どうせ私は綺麗じゃないし、其処でしか存在価値ないんやから、仕方ないやん!」
数枚の千円札を、彰宏に投げる様に押し付け、何も言わずに駆け出した。




