5ー3 戦の中で 1
「あんたは…!」
フードの中の顔がちょっぴり笑っている。
「恨んでいるのね。
ユリナやリンゴがユーラシアに従うはずがない。あいつらはあいつらで、『新興宗教 マテス・ラトメ』として動くはず。今回のユーラシアの横暴によって買えた信者はたくさんいるはずだしね。
あんたの位置付けは元から縛られたものだった。そしてわたしがさらに縛った。私がユーラシアに反対することであんたはユーラシア直属の兵士も同然。
善悪の判断が付いていたあんたとしては、正しくないと知りながら従わざるを得ない状況はとても苦しかったと思うわ。
そんなあんたの怒りをわたしが買ってやるわ。」
本当に申し訳なさそうに下を向いて喋る。
「違う。いいや、正解だ。半分は。」
「んな」
「胡桃を解放するためだ。
いま胡桃は、捕縛ポットに入れられている。
詩織を倒せば胡桃が助かるって。
あとは捕縛ポットから詩織が脱出するだけ。
詩織が壊せないものなんてないからな。」
「嘘よ。ユーラシアの目的からいって胡桃を手放したりなんてしないわ。」
「たとえそうでも、俺を研究所に案内させれる。その時これを使えば」
青梛は自分の胸ポケットのカードの裏をあさる。何かを掴んでそっと目の前に差し出す。
それは小さくて古っぽい御守りだった。いかにも手作りの御守りで、『おまもり』の字は子供の下手くそな字だった。
「それは昔の。
まだ持ってたの、裏地のフェルトとかダメになってるかもしれないし、中身の効果はだいぶ薄いわよ。」
内心嬉しがりながらあえて平気を装う。
それは詩織の照れ隠しでありながら、そんな暇はないという冷静さが自然に導いたものだ
「ああ、だからお前に直してもらう。」
詩織は我が耳を疑った。拍子抜けする馬鹿馬鹿さに自分の耳は壊れたのかと錯覚した。
そして静かに青梛をみる。目をそらさず冷静で落ち着いた様子だ。そのあと少し考え、それを口に出す。
「そんなのバレ…そういうことね。
分かったわ。受けて立つわよ、この勝負。」
詩織はアイコンタクトを送る。
青梛はくすっと笑う。
手を広げ、鉄の剣を生み出し握る。
青梛の真上に飛び上がり、蹴りと剣を下に構えて落ちていく。
その間に青梛は刀を抜いて構える。
詩織の蹴りが当たるという時、青梛は素早く後ろへ下り上の剣に対して刀を構え、剣を受け止める。詩織は次の手を出し、青梛は剣を振り切り、上から刀を振り下ろす。斬れ味は上々だ。たしかに詩織の隙ではあったが何重もの結界が刀の侵入を拒んだ。腰を抜かしている間に素早く青梛へ剣を突き刺す。青梛は刀で剣を追い受け流す。沿いながら詩織に近づくが、詩織の剣は青梛の胸ポケットの上部を引き裂く。とはいえ、少ししか裂けていなかった。
刀が弾かれたことでバランスを崩し、青梛の両手が広がり隙が生まれる。詩織が渾身の一発のため剣を後ろに下げ、真っ直ぐ突き刺そうとする。
が、何かによって腕が、いや全身が動かない。目を動かしかすかに見える手を凝視する。そこには長細いゆるキャラのようなものがいた。
「プトン族!」
全身に『ソレ』がひっつき離さない。
青梛は刀を振り下ろす。途中で止まった感覚に苦笑いする。
剣が刀に沿って受け流している。そして、隙をついて青梛の胸ポケットに向けて突き刺す。剣は胸ポケットの中のお守りは紐と紐の間をちょうど通り、反動でお守りが中に浮く。そのまま回ってポケットがあった場所に戻る。ある程度揺れなくなったら、剣の刃で紐が切れていく。詩織は剣を引き抜き、上に投げる。すると剣の近くに飛び、手より下になった頃に剣を持ち替える。下向きに剣が向き、青梛の真上から剣が降る形になる。ここまで来たら、一気に力を抜き、重力に身を任せ、ただ剣だけは下を向かせて突進する。雲で青梛の姿は見えない。落ちていき、青梛の姿が見えた時、青梛は刀を上に向けてあり、剣は落ちていく御守りに軽く突き刺さったのみで刀に妨害され、方向のズレた剣は青梛の身体の外側にズレ、前髪が擦れて切れたのみだった。その惨状を見た詩織は、刀に剣を押し付けながら、足をものすごい勢いで青梛に振り下ろす。足が青梛に掠れた瞬間、手応えが消え、何もないかのようにすり抜ける。だがその姿は健在で、ハタから見れば青梛を切り裂いていた。そこからは赤い液体も出ていた。だが、それも数秒間だけ。その後にはキラキラとした粒つぶに姿を変えた。詩織はそれを予知していたように、驚きはしなかった。
「約束は守りなさいよ。」
とつぶやいた。




