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第2章-3 新車記者発表 2: zzの魂動

紳士は続ける。


 「この車が、MTエンヂニアリングが世に問う最初のクルマです・・・そして、次の車も用意しています。ここからは、大明神にお願いしましょう」

 紳士の言葉を受けて、愛嬌を目の周りにたたえた彼、業界で知らない者はいない、大人がマイクを握る。


 「次に、私からは、開発中の次の車について少しだけ。こちらも、先の新世代86と同様、ある程度日常使いを許容する、奥様方から反発を受けにくい・・・」


 会場がわずかに笑いで揺れる。


 「・・・いや、今のは訂正します。経済的に受け入れやすいクルマであることを考えています。すなわち、常用できるパッケージ、燃費ですね」


 ここで、モータージャーナリストの一人が挙手した。彼は紳士とも大人ともインタビューしたことが複数回あり、かれらとは友人とまで言えなかったとしても腹蔵無く話せる間柄である。思わず、というように、指名を待ちかねたようにジャーナリストは問う。


 「大明神ご出馬ということは・・・どうしても期待してしまうのですが、もしかして・・・」


 「・・・はい、ロータリーです。ロータリーエンジン」


 会場がざわついた。


 「それは素晴らしい。本当にすごい。しかし、ロータリーは環境規制にミートできず、電気自動車主体になるずっと前に販売されなくなりました。今更・・・どのように?」


 「良いご質問ありがとうございます。こちらが、今試験を終えようとしている、そのスペックです」


 スクリーンに諸元が表示された諸元は、


◆2ローターロータリーエンジン PHEV

◆前輪:エンジン直結、後輪:モーター

◆モーター出力:約 82PS

◆フル出力:約 300〜320PS


 「PHEVですので燃費を言いにくいですが、充電できていなくても、だいたい15km/L近く走れます。フル充電なら、電池だけで30km程度走れますので、日常生活では、燃費の数字以上にガソリンを減らさない生活ができるでしょう・・・皆さん」


 大明神は、会場の人々をゆっくり見渡した。彼の言葉を受け止める雰囲気がどの程度できているか、測るかのように。


 「ロータリーは、率直に言って、孤立した技術です。1社を除き、どの会社も続けようとしなかった。

 効率が悪い、排ガス規制にミートできない、時代に合わない──

 そう言われるたびに、私は胸の奥でこう思っていました。


 『それでも、欲しいと言ってくれる顧客がいる』、 と」


 穏やかな、しかし凛とした意思が言葉にこもる。

 心からの言葉は、人に響くのだ・・・ジャーナリストは、今自分の裡にこみあげている感情は、 「感動」に近いものだと思った。


 「ロータリーは、ただのエンジンではありません。

 人間の感性に直接触れる“回転の芸術”です。

 軽く、滑らかで、どこまでも回る。

 あのフィーリングを知ってしまった人間は、もう戻れない」


 「でも、時代は変わりました。

 環境規制、電動化、効率──

 “好きだから”だけでは生き残れない。


 だから私たちは、ロータリーの未来を、この社会でロータリーが生き残れる形を提案します」


Introduction: RX‑zz

-スクリーンに浮かび上がる言葉。


 「このクルマは、過去への執着ではありません。

 ロータリーを未来に連れていくための、最初の一歩です。


 普段は静かに、効率よく走る。


 必要なときだけ、ロータリーが目を覚ます。

 踏み込んだ瞬間、あの“魂が震える回転”が帰ってくる。


 私たちは、ロータリーを“主役”から“相棒”にしました。

 電動化の時代に合わせて、ロータリーは軽く、小さく、賢くなった。


 でも──

 回したときの気持ちよさだけは、絶対に変えていません」


 「外のテストコースでは、試作車が待っています。その走りの一端をご紹介しましょう。

 ドライバーは、私の年下の友人で、長くロータリーに乗り続け、私の顔を見るたびにロータリーの新車を強請っていた男です」


『zzの魂動』

 拍手の中、スクリーンでは RX‑zz が始動した。

 その音は、穏やかで、わずかであったが──

 確かにロータリーの鼓動だった。


 会場のざわめきが、静かな期待へと変わっていく。


 大明神は、スクリーンを見上げながら、

 まるで旧友の帰還を見守るような眼差しで言葉を続けた。


 「……この音を、皆さんに聞いていただきたかった。

 ロータリーは、もう一度走り出します。

 静かに、賢く、そして誰よりも気持ちよく」


 紳士が横でうなずく。


 「大明神。

 あなたが“相棒”と言った意味が、今の音だけで伝わってきますね。

 これは、ただの復活ではない。

 ロータリーの魂が、次の時代に“動き出した”ことを伝える音だ」


 大明神は、少し照れたように笑った。


 「ええ。

 私たちはこのプロジェクトを、社内ではこう呼んでいました。

 “魂動の次の章” と」


 スクリーンに、ゆっくりと文字が浮かび上がる。


**RX‑zz

― zzの魂動 ―**


 会場が息を呑む。


 ジャーナリストが、思わずマイクを握った。


 「……“魂動”という言葉を、ロータリーに重ねたのですね」


 大明神は静かにうなずく。


 「魂動とは、魂が動く瞬間のことです。

 エンジンの鼓動ではなく、人の心が震える瞬間のこと。


 ロータリーは、まさにその象徴でした。

 軽く、滑らかで、どこまでも回る。

 数字では測れない“心の動き”を生むエンジン。


 だからこそ、電動化の時代にも残したかった」


 紳士が言葉を継ぐ。


 「そして、残すだけでは意味がない。

 未来の走りに繋げる形で残すことが大事なんです」


 大明神は深くうなずいた。


 「はい。

 ロータリーは、過去の遺産ではありません。

 未来の走りを作るための“素材”になれるのです。


 BEVの静けさと、ロータリーの高回転フィール。

 この二つを一つの形にまとめたとき──

 そこに、新しい“魂動”が生まれる。


 RX‑zz は、その答えです」


 スクリーンでは、RX‑zz が静かに走り出す映像が流れ始めた。

 BEVの滑らかな加速。

 そして、アクセルを踏み込んだ瞬間、ロータリー特有の咆哮が重なる。


 会場がどよめく。


 ジャーナリストが、思わず声を漏らした。


 「……これは、確かに“魂が動く”音だ」


 大明神は、観客席をゆっくりと見渡した。


 「皆さん。

 ロータリーは孤高の技術です。

 でも、孤独ではありません。


 欲しいと言ってくれる人がいる限り、ロータリーは走り続ける。


 RX‑zz は、ロータリーの魂を、次の時代へ運ぶクルマです。

 どうか、その走りを見てやってください」


 紳士が最後に一歩前へ出る。


 「……さあ、皆さん。

 外のテストコースで、RX‑zz が待っています。

 新しい“魂動”の目撃者になってください」


 会場は再び大きな拍手に包まれた。

閑話:夢がかないすぎた男


 1,300cc直6FRにつづいて、ロータリーも・・・だと?

 男は凍り付いた。50年以上生きてきて、最大の危機、と言っても過言ではないだろう。

 彼は、約束した。約束してしまったのである、紳士と大明神、二人の大立者と。これらの車が発売されたら、定価で最初のロットから購入させていただきたいと。女房を質に入れてでも買います、と。

 一台でも発売されたら僥倖の極み、と思っていた夢の車が、驚きの2台同時発表!


 彼は、いろいろな感情の津波に翻弄されて、驚くやら困惑するやら資金繰りに悩むやら、混乱の極みにあった。嫁さんになんて言おう・・・一台なら何とか説得できると思っていたが、二台は無理。絶対無理!殺されかねん!

 ・・・神のいたずらか、悪魔のいやがらせか、背後から、今まさに思っていた人物の声がかかる。

 「あなた、どうしたの?にやにや笑って・・・すごくいいことでもあったの?」

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