番外編② 第13回TKMCカップ2 激闘(笑)の果てに
クアッドローターのMFGのドローン群に混ざって、一機だけ、デルタ翼のドローンが飛翔している。
TKMC製の、ギズモ号試作機である。
部品は例によってTKMC倉庫に転がっていたものからピックアップ、強化プラスチックの機体は3Dプリンタによる自社製、意外と低コストである。
垂直離着陸していくMFGドローンの中にあって、その発進シークエンスは独特だった。発進シークエンスというか、サーマン・ジャーマンが投擲したのである。素晴らしいフォームで、彼は野球の経験者だったのではなかろうか。バックスピンがかかったドライバーショットのごとき軌道で蒼穹に向けて飛翔するギズモ号は、美しかった・・・っておい、何m投げたんだ!? 観客がざわめく。
その間に、3人のドライバーが、それぞれの車に乗り込んでいた。今回の出走順は、「社長さん」こと高橋啓介、サーマン、覆面レーサーの順である。
くじ引きで決めるつもりだった啓介であったが、俺の車は遅いから最後尾からでいいという覆面レーサー、啓介にはポール・トゥ・フィニッシュを続ける権利を与えたいのでセカンドグリッドを選択する、としたサーマン、それぞれの主張が通ったのである。
3人は、それぞれ、モノクルタイプのHUDユニットを装着した。車載CPUからの情報を投影するHUDに加え、3人及び運営との間で、リアルタイムで通信できるインターコム機能が付与されている逸品である。これは、86-S6の上位バージョン用にTKMCが開発しているアクセサリの試作品で、外見は某超人気漫画に登場する戦闘能力を計測するヘッドセットにそっくりであった。
しかしTKMC、内燃機関車の絶番部品を作っている会社のはずなのだが、直6エンジン、有翼ドローン(SVTOL)にインターコム、と対応能力が幅広過ぎである。
レースが始まった。通常の時計回りではなく、反時計回りでの周回である。1週約12kmのコースを5周する。
時計回りでないのは、巨体を傾ける余地が大きい左コーナーを得意とするサーマンに与えたハンデである。啓介とサーマンの車両は、エンジンの仕様はほぼ同一であるが、HEVの性能や熟成度の差から相応の戦闘力差があることを考慮して、啓介が決定した。ハンデはもう一つ設定されており、約40㎏はありそうな両者の体重差に鑑み、涼介車の助手席には、約50㎏のウェイトがおかれている。
レースは、ひどく違和感があるものであった。
社長さん号、Mach 4.5、この二台のレースはわかるのだ。甲高い高回転の直列6気筒サウンドを響かせ、底力を振り絞り、ドリフトしながらコーナーをクリアしていく。啓介の運転は鋭いが、サーマンも負けていない。常に高回転を維持し、特に左コーナーでは大きく体重を傾けて、時として啓介車をすらしのぐコーナー脱出速度を見せる。
この二台の運転は、死闘とすら言える、緊張にあふれたものであった・・・軽トラだが。
その後に続く車が、意味不明である。
遅い。
遅くないのだが、遅く見える。遅く見えるのに、前走車との差が開かない。
その理由は、マッハ号に課せられたハンデと、それを補うために覆面レーサーが選択したスリップストリームを最大限活用するコース取りにあった。
2,500回転縛り。
マッハ号は変態的だとかありえないとかとやかくの声はあるが、小型・低重心で空力特性も良く、かつ排気量は啓介とサーマンの軽トラの倍である。普通に考えて、まともなレースで軽トラに勝ち目はない。それを土俵に乗せるためのシンプルなハンデとして、2,500回転で燃料供給が止まるリミッターが設定されているのだった。
マッハ号のV12型エンジンも、超高回転型である。回せるのがわずか2,500回転では、持てる能力の1/4も出せないのであった。エンジン音は極めて静か、ブレーキなど掛ける必要すらない。
レブリミットまで回して死闘を繰り返す2台の軽トラ、その後を2台の軽トラが作り出すスリップストリームに入り込んで、いっそのんびりと評したくなる運転で続くマッハ号、という、何がなんだか良くわからないレース展開なのだった。
しかし、傍目には『良くわからないレース展開』であったが、啓介とサーマンにとっては、神経を削るレースであった。いかに高回転を維持できるかが、660cc直6エンジン車の戦闘力に直結する。特に、HEVユニットの性能差から、サーマンは特に薄氷を踏むような高テンションの運転を強いられた。傍目にもわかるほどの、緊張感!軽トラだが。
軽トラだが、真剣勝負。
その後ろから、ぼぇ~~とついていくマッハ号。スポーツカーなのに、緊張感皆無。
一瞬でも早く、1㎝でもインを狙って、緻密な運転を続ける軽トラ2台。
その後ろから、のたのたとついていくマッハ号。主役のはずなのに、緊張感皆無。
軽トラ二台の神経とタイヤを厳しく削りあうレースは、それでも、致命的な破綻はないまま、レースはファイナルラップに突入した。
啓介は、ベストラインを維持し、隙を見せない。
サーマン・ジャーマンという男への、それが彼の敬意。
全力で、トップを守り切る!
・・・その時、啓介の注意が、バックミラーに映るサーマン車に集中していたことは否めない。
サーマンは、スリップストリームを活用し、消耗を抑制している。Got a good draft here、サーマンの口から小さな呟きが漏れる。啓介車がハンデを負ってなお、マシンの競争力はやや劣っている。運転技術も、啓介のほうが上であることを彼は理解していた。オーケイ、KT、あんたは最高だ。だが、あんたの連勝は、今日ここで止める!勝つのはこの私だ!
・・・その時、サーマンは、リアビューミラーに映るMach 5の存在を意識から除外していた。2,500rpm縛りでは、ろくなパワーが出るはずがない、と知っていたからだ。
勝負は最終コーナーの一つ前、左コーナー、そこでしかける!
緻密に計算したラインで、サーマンはスリップストリームから飛び出し、アクセルを全開にした。巨体を大きく左に傾け、アウト側から啓介車に追いつき、次の最終コーナーではサーマン車がイン側になる、その時が勝負!その一瞬のために、タイヤを温存してきた。
しかし、啓介車も、サーマンの予想以上に伸びる。彼もまた、タイヤマネジメントには注意していたのだ。スリップストリームを活用していたサーマン車に対しては若干の不利はあるが、MFGタイヤと一番付き合いが長いのは俺だ!
サイド・バイ・サイドで最終コーナーを立ち上がる、2台の直6サウンド。
その横、インをついたサーマンのさらにイン側をするりとすりぬけて、白い低い車体が追い抜いて行った。インにそんなスペースはなかったはずなのに、なぜ!?
勝者、マッハ号!
わずか15㎝の差であった。
ギズモ号の飛翔には、からくりがあります。




