置物のご利益
フリーでデザインの仕事をしているQさんの事務所の近所に、金回りが良さそうな家があった。
老夫婦が住むその一軒家には、個人名とは別に会社名の表札も掲げられていた。
更にその自宅兼会社の隣では、近所の老人が集まるためのスナックの経営もしている。
また、同じ町内にいくつもの別宅も持っているらしい。
老夫婦は昔ながらの地主などではではなく、若い頃にこの土地に引っ越してきてから、一代で富を築いたと周囲に吹聴していたので、Qさんもなんとなくその家の存在は認識していた。
三階建てのその家の屋上には、両手を天に向かって広げた金色の女神像が建っていた。
そして家とスナックの塀の外側には、車道沿いに一列に金色の置物が並べられていた。
デフォルメされたブタ。酒瓶を持って目を見開いたタヌキ。リアルな質感のカエル。大きく口を開けたカバ。バカでかい招き猫など。
ひとつひとつの表情がどれも厭で、置物のデザインに統一感がないのも気持ち悪い。成金趣味の傲慢な感じがよく出ていた。
Qさんはその家の前を仕事の度に歩いて通るのだが、置物を見るといつも気分が悪くなった。
ある日、学校帰りの小学生の男の子たちが並んだ金色の置物を一体ずつ順番に、つま先で蹴りながら歩いているのを目撃した。
敢えて注意する気にもならなかったので、Qさんは少し離れた後ろからその光景を眺めていた。
すると、男の子の一人が急に蹲って悶えだした。
男の子の周りでは友達が心配そうに取り囲み大声で騒いでいた。中には叫び声を上げる子もいた。
その騒ぎに、近くにいた大人も集まって来た。
Qさんが騒ぎの横を通り過ぎるときに横目で見ると、靴と靴下を脱いだ男の子の足の裏に、釘が数本刺さっているのが見えた。
――靴の中から刺さったのか?
男の子が泣きながら周りの大人に言っていたのを整理すると、このような内容だった。
「ブタの置物を蹴った瞬間、足に激痛が走り、靴を脱いで足の裏を見たら釘が3本刺さっていた」
Qさんが気になったのはそれを聞いた大人の反応の方だった。
怪我を心配する人はいたが、その怪我を不思議がる人はいないように見えたからだ。
集まった大人同士が「刺さったのが足だったのは幸いだったわね」と言っていたのが聞こえ、Qさんは「やっぱりこの家の主は碌な金の稼ぎ方をしていないんだろうな」と察した。




