60話 マナはボスと出会えない
ボス部屋がゆっくりと開く中で、世界一の美貌を持つ美少女マナ・フラロウスは考えていた。なにを考えていたかというと、先程の鍵音の言葉だ。
(どうして人間牧場を作らないか、か。たしかに言われてみれば、自分の世界が崩壊していなければ、そちらの方が早い。産めよ増やせよと、捕まえた人間たちに教えれば良いのですから)
無知なる人間に奇跡でも見せて崇めさせて、人口を増やすように教えてれば良いのだ。そして、ある程度増えたら収穫すれば良い。知性を持つ人間たちは信仰を広めて、勝手に増えていくだろう。これほど簡単な牧場もない。
ううん? なにか引っかかる。引っかかるが、それがなにかがわからない。重要なことにも思えるが━━。
「ぼんやりとしてどうしたの、マナ? 扉が開くよ? まだ食べ足りない? ジンギスカンとか北海道は有名だよ」
「申し訳ありません、少し考え事をしていました。それはそれとして、後で羊狩りに行きましょう。お腹いっぱいまで食べたいです」
「マナちゃんがお腹いっぱいになるまで狩ったら、北海道の羊は全滅するかも」
今は考え込む時ではない。これから戦闘だ。油断はしてはいけない。予想通りならば、この地には王の片腕となる魔物がいるはず。
気を取り直して、扉が開くのを見守る。扉は重々しい音をたてて開いていき、内部が見えてくると同時に瘴気が噴き出してきた。
「うっ、なにこれ? も、ものすごい瘴気です! こんな凄い瘴気は感じたことないです」
「パワーアップしたのに、それでも震えて立つのがやっとだよ。ここのボスはなにがいるわけ? マジ強そう」
「高確率で、未知の魔物と考えます」
鍵音、ルカ、チシャは瘴気の濃度に顔を顰めて耐えるのも大変なのか身体を僅かに震わしていた。SSSランクと言っても、この世界の基準。本来のマナの世界の魔物を前にすれば、弱者だ。マナにとっては薄い瘴気でも、かなりキツイらしい。
「マスターたちは私の後ろにいてください。ここは私が相手をします」
ならば3人では厳しい相手だ。ここは私が前に出ることにする。魂も回収したいし、悪魔型魔物の種類も気になる。
そうして、3人の前に立ち、待ち構えている魔物たちを見て━━目を細める。
「悪魔王と魔将たち?」
そこは漆黒の水晶で作られた美しい部屋であった。部屋全体は明るく、黒水晶の美しさを輝かせている。まるでファンタジーの城の謁見室のようで、部屋の奥には玉座があり、角を生やした蝙蝠みたいな巨人が偉そうに座っている。その装備はこの世界にあってはいけないレベルの魔力を内包しており、牙を覗かせて、こちらをふてぶてしい態度で見つめている。
その周りには4人の悪魔たちが立っており、それぞれ火や風といった4種類の属性の塊のように強力な属性魔力を宿しているのがわかる。
玉座まではレッドカーペットが敷かれており、壁には自軍を示す紋章が描かれた旗が掲げられていた。
どう見ても、魔王と勇者の決戦である。ラストバトルのような光景だ。
マナ以外なら、そう思うことは間違いない。マナ以外ならば。
「よくぞ来た、ソウルイーター。貴様の波動はこの奥にいても分かっておったぞ」
魂を鷲掴みにするような魔力の込められた言葉に、鍵音たちが耐えきれず膝をつく。魔力の籠った言葉だけでも鍵音たちにはきついらしい。
空気を読んで、いつもなら私も膝をついたりするのですが、今はそんなことをする余裕はない。なぜならば余裕がないから。
「偉そうですね、悪魔王。悪魔王で合ってますよね?」
「くくく、その通り。我は悪魔王。そして配下の四天王たちよ」
悪魔王は含み笑いをして、四天王とやらも楽しげに嗤う。なぜ嗤うのかさっぱり分かりませんけど。
「悪魔王!? マナ、この化け物たちは悪魔王なの? 魔物を統括する親玉?」
「そんな……北海道にこんな化け物がいるなんて! ここは退却して軍を率いて来るべきだよ」
鍵音たちは私たちの会話を聞いて青ざめる。それだけ自身の力との格差を感じたのだろう。
でも、それは勘違いなんです。
「たかだか隊長クラスが偉そうにしてますね。本当の王たるリリスの右腕はどこですか? 幹部がいると思って楽しみにしていたのに、がっかりなんですけど?」
私の言葉に、部屋全体がシーンとなりました。鍵音たちは何を言ってるのか分からないという困惑した顔をしているので、もう少し説明してあげる。
「こいつらは本当の王リリスの部下の中でも雑魚レベル。最前線で戦う小隊です」
「え!? だって、今、悪魔王って?」
「リリスは悪意たっぷりの冗談が好きなんです。名を名乗らなかったでしょう? 悪魔王という名前は小隊の隊長クラスという意味で、四天王はその部下なんです。即ちそこら辺にいる有象無象の魔物たちとほとんど変わりません」
正式には悪魔王隊長という名前なのだ。RPGで出てくるエンカウントする量産型魔王と同じなのである。
このレベルで雑魚なのと、唖然とする鍵音たち。たしかに悪魔王たちは魔力体の状態でこの世界に来ている。その力もほとんど発揮しているので、封印がほとんど解けていることを示していた。雑魚なので封印もあまり効かなかったようです。
「もう一度聞きます。幹部たちはどこですか? 私は彼らと出会えるのを楽しみにしていたのに、なんで使い捨ての雑魚しかいないのですか?」
ちょっと怒って人差し指を向けると、悪魔王は肘をついて不遜なる態度を見せる。
「もちろん貴様に食われないように、戦略的撤退済みだ。ここからは我らがお相手しよう」
ちっ。どうやらさっさと逃げたようである。悪魔型はずる賢いため、自分たちが不利だと感じると速攻逃げるのが厄介だ。
でも、本当なのだろうか? ここまで来るのに私は戦闘をせずに、極力気配を消していた。それなのに気づいた……?
ハッとする。
「本当はまだ撤退の最中ですね? この会話は時間稼ぎ。偉そうにして! 話を長引かそうとしている!」
ならば、すぐに追いかければ、追いつけるかも!
「バレたか! だが、力を封印されているソウルイーターと、ほとんど力を解放した我ら。どちらが強いか分かるまい! 全員攻撃開始だ!」
悪魔王が手を上げると、四天王たちが飛びかかってくる。超高速の世界。時間の流れはゆっくりとなり、鍵音たちは構えようとするが、その動きは酷くゆっくりだ。
その中でも瞬間移動のように速い動きで四天王が迫る。
炎で形成された肉体を持つ悪魔が大剣を振り上げる。
「ヌォォォォ、数億度の炎を内包する俺の炎の剣を受けてみろ、ソウルイーター!」
『太陽剣』
数億度というのは偽りではなく、振り上げた大剣には莫大なエネルギーが内包されており、その輝きは太陽のようだ。触れれば灰も残らずに炎に呑み込まれるだろう。
この世界のハンターならば。
「雑魚が私を馬鹿にしてるんですか」
『情報改変:氷』
人差し指で逆巻く炎の剣をチョンとつつく。
キンと乾いた音を立てて、炎の剣は氷となった。炎の剣を持つ悪魔ごと。
氷となった悪魔が細かい氷の破片となって崩れれていく後ろから、他の四天王たちが飛びかかってくる。
「暴風にて貴様を切り刻む! 亜音速の剣舞を受けてみよ!」
『暴風剣舞』
今度の敵はシミターだ。暴風を用いて、私へと幾つもの残像を残して、亜音速の連撃を繰り出す。
「遅すぎますね」
だが、私はシミターを紙切れでも摘むように、あっさりと指で摘む。
「ううっ、動かない!?」
力を込めてシミターを取り戻そうとする愚かな魔物へと一歩で間合いを詰めると、手のひらでパチンとお腹を叩く。その一撃により、魔物の身体は内部から衝撃波により膨れ上がり爆発四散するのであった。
「くっ、オデの大地の封印にて動きを止めるべさ!」
『大地封印』
「わ、私の氷にて永遠の時を過ごしなさい」
『永久凍土』
一瞬で2匹を倒した私に、残りの2体の魔物たちが顔を引き攣らせながら魔法を使う。
私の周囲に土と氷の牢獄が生み出されて、封印を仕掛けてくる。見た目は土と氷だが、内包する封印術は数百は掛けてあり、能力の低下や封印相手の魔力を使い封印を強化するといった小技が備えられていた。
「雑魚にしてはなかなか考えた封印術ですね、ですがこの程度で、ソウルアバターを止められると本気で思っていたら不愉快ですね」
埃でも払うように軽く腕を振るうと、土と氷の牢獄は灰のように崩れ去り消える。情報魔法を使うマナにとっては、この程度はないも同然だ。
『情報改変:分解風』
さらにもう一振りして、そよ風を生み出す。しかして、そのそよ風に触れると、残りの2体の魔物たちは抵抗も許さずに消滅した。
「これで四天王は全滅。残りはあなただけですよ、悪魔王。優しく殺してあげますので、逃げた幹部たちがどこに行ったのか教えてください」
「ここで命乞いをするくらいならば、そもそもここに残るわけがなかろう! せめて一撃でも喰らわせてやるわ!」
優しく言ったのに、なぜか私の方が悪人のような気がしますね? まぁ、魔物の言葉など聞く耳を持ちませんが。
「魂を消滅させし、この一撃。たとえソウルイーターでも無事にはすまぬ!」
玉座が立ち上がると、悪魔王は自身の力を内部から膨れ上がらせる。肉体が光っていき、解き放たれた魂の力が空間を揺らす。
どうやら魂の全パワーを使って自爆するようだ。自身が消滅することを躊躇いもなくできる忠誠心はリリスの部下の厄介なところだ。
雑魚とはいえ、この爆発は確実に北海道の半分を消滅させる威力はある。
「リリス様のために!」
『魂爆発』
悪魔王の肉体が内部から弾けると、内包されていた魂力が爆発する。吹き荒れるエネルギー流は触れるもの全てを滅ぼしてゆくだろう。
「まぁ、爆発が広がればの話ですけど」
悪魔王の肉体へと腕を突き入れると、私は爆発する魂を手のひらで覆うように掴んだ。手のひらが少し光って、ポフンと可愛らしい音を立てる。
それで終わりです。たかだか雑魚のエネルギー爆発。この百倍の威力でも抑えられます。
「き、来ますっ! 気をつけて……あ、あれ?」
ようやく杖を構えた鍵音たち。でも、悪魔王たちは全て倒されており、困惑した顔となる。実際の戦闘時間は1秒にもなりませんでしたから無理もない。
「さぁ、雑魚は片付けました、敵を追いかけましょう」
でも、鍵音たちを気にする余裕はない。さっさと逃げた幹部を追わなければ。
玉座の後ろに階段ありませんかね?
ルックスY。マガポケで連載中です。見てみて〜。
モブな主人公。マンガボックスにて連載してます!
コンハザがシーモアにて発売中!




