59話 鍵音、街を追い出される
本屋鍵音。魔物から街を守った英雄。ただし、街は消し飛ばしました。そして今は滝のように涙を流して落ち込んでます。
「ひぐっ、うぐっ、わざとじゃないのに、わざとじゃないのに〜、ちょっぴり、街を溶かしただけなのに追い出された〜」
「追い出されたというか、もう跡形もなく消えてたよぉ。街の3割は消えてなくなったかな。マジ、マナが防護魔法を展開しなかったら、皆死んでたよ?」
「ルカさん、正論を言わないでください。わかってます。でも、そもそもこの強化服が強すぎるからなんです……嬉しいですけど、最初に説明してほしかった」
胡乱げな目でインナーである網スーツを摘む。強くなった理由はこの網スーツの網が魔法陣の役をしてるということだけど……。それが違うことに鍵音は気づいていた。
肉体に流れる魔力がどうも網スーツにも通るような気がするのだ。しかも網スーツに流れて戻ってきた魔力は数十倍の魔力になっている。
(こここ、これ! もしや魔法陣に模した魔法回路では? 人類が未だに見つけることができずに、理論だけはあるやつ!)
とすると、鍵音は今もうひとつの魔力回路を持っているようなものだ。力が数倍どころか、数十倍になったところからも、とんでもない補助機能だと分かる。
ちらりとマナを見ると、どこかで手に入れたのか、ウニイクラ丼特盛をむしゃむしゃ食べて幸せそうだった。このオーパーツレベルの魔導強化服の力にまったく驚いていない。
これが公表されたら世界的な革命となる。人類の全てはSランクになるかもしれない。量産型の強化服だけでCランクとなるのに、それに合わせてこの技術が加われば、人類は強力無比な力を手に入れることだろう。きっと魔物など、もう相手にはならないに違いない。
(でも、この技術を公表して良いのかな……。こんなのを一般人が持てるとどうなるのかな)
曲がりなりにもハンターであり、魔力操作には自信のある鍵音でも、小さな街の3割を吹き飛ばす魔法を暴走して放ってしまったのだ。これを一般人が持つこととなったら……。いや、悪人が手にしたら。
この世は崩壊するかもしれない。何の訓練も受けていない人間が指先1本で街を吹き飛ばせる世界。控え目に見ても地獄である。
今の鍵音は世界を滅ぼすことの出来るボタンを持っているに等しい。そのボタンを押せば魔物を殲滅できるかもしれないが、世界を滅ぼすことの出来る力でもある。
魔物は憎い。全てを滅ぼしたいが、この技術の余波を考えると、鍵音は公表するほど盲目ではない。人類がこの技術を適切に管理できれば問題はないが、そこまで人類のことを信用もしていない。必ずこの技術は流出してしまうだろう。
「ねぇ、マナ。この強化服は誰でも解析できる? 作ろうと思えば作れるの?」
「? いえ、そんなことはありません。私のセキュリティは完璧であり、解析は受け付けませんし、分解しようとしたら、溶けて消えます。なので、絶対に製造は不可能ですね」
マナの瞳がやけに真剣で、気圧されつつ、鍵音は安堵する。マナが大丈夫というなら、その通りなのだろう。
「良かったです。では、これは私専用なんですね。……分解しようとしたら? えっと、戦闘で少しでも壊れたらどうなるのかな?」
「もちろん全て溶けるのでマスターは真っ裸となります。大丈夫です、マスターはお綺麗なので周囲の人々は眼福眼福と喜んでくれるでしょう」
「いやぁ~! そんな痴女発生装置のような装備はいらない……うぅ、いるけど、もう少しなんとかしてぇ〜!」
やっぱり安堵できなかった。この装備は性能以外でも、とんでもなく危険なことが分かったのであった。主に鍵音の社会的地位的に。
◇
「えっと、このまま敵のダンジョンに行くの、マナちゃん?」
「はい。敵は戦力の大半を失ったはず。補充する前にダンジョンに潜入してボスを倒しましょう」
ルカがマナへと問いかけると、コクリと頷き返す。あれから街を出て、鍵音たち一行は敵のダンジョンに向かっていた。
半壊した街の復興は兵士たちやハンターたちに任せて、森林の中を移動中だ。半日前は人の生活にあった街並みが廃墟と化して、少し進むと草原が広がっている。蝉の鳴き声がどこからか聞こえてくるのが酷く呑気な感じがする。
魔物はほとんど姿を見ない。時折、草むらから獣タイプが躍り出てくるが、それも瞬殺していた。
鍵音、マナ、ルカ、チシャの四人でのんびりと歩いている姿は、まるでピクニックのようでもある。
「でも、なんでいきなり魔物たちが攻めてきたんだろうねぇ。あ、また来た」
2つの頭を持つ狼が木の陰から飛び出してくるが、ルカはなんともないように軽く手を振って燃やす。灰へと変わる魔物を気にすることもなく、話を続ける。
「そうですね。なにかトリガーがあったのではないでしょうか。魔物たちが一斉に攻めなければいけない理由が。……まさかマナのせいじゃないですよね?」
タイミング的には関係ないと思うけど、それでもなんとなくマナの存在がトリガーとなっているような気がする。
「私がトリガーになるには、世界的な影響が大きすぎます。軍事作戦において、一人の存在が影響するとは考え難いです」
「そっか。それもそうだよね。考えすぎだよね、あはは」
キョトンした顔のマナ。たしかに荒唐無稽すぎる考えだった。反省です。
「それにしても、出てくる敵は弱すぎて、まったく相手になりませんね。拍子抜けも良いところです」
メイドさんが視認も難しい速度で手を振ると、銀線が奔り魔物のくぐもった悲鳴と草むらから血が流れてくる。
「チシャって、そんなに強かったっけ?」
「マナ様にお願いして、精神とお菓子の部屋で修行した結果です、お嬢様」
「マナちゃんの回復魔法を受けると、お手軽にパワーアップできるもんねぇ。町の人々もパワーアップしたし、これ帰ったら大変だぁ」
チシャさんの返答に苦笑をするルカだけど、鍵音も同じ思いだ。少なくとも1ランクはパワーアップできる悪魔の魔法は、列を作り人が殺到するだろう。
「む、敵の拠点がわかったようです。この先にありますので、さっさと攻略してしまいましょう」
どこからか連絡を受けたようで、マナがウニイクラ丼特盛を全部食べ終えると、人差し指を森林に向けて振る。
たったこれだけで、膨大なエネルギーが刃となって森林を切り裂いて、遠く離れた岩山を見せるのであった。ポッカリと空いた穴。確実にダンジョンだ。
◇
「キキィ!」
『崩壊音波』
ダンジョンに踏み入れた途端に魔物が攻撃してきた。蝙蝠の翼を生やす男のような悪魔タイプ。しかも複数だ。
「でも、もう相手ではないんです」
『音波結界』
手のひらを振ると、鍵音はすぐに対音波結界を展開する。崩壊音波は空間を振動させて、敵を分解する強力な魔法だが、適した結界により簡単に防げる。
「支援します」
『銀の刃』
チシャが手の中に銀のナイフを作り出すと、蝙蝠男たちに投擲。命中したナイフを中心に蝙蝠男の身体が溶け出していく。
「それじゃ、私の番だね!」
『蒼龍氷槍』
龍のオーラを纏う氷の槍を数十も生み出すと、ルカが放つ。消えたと思えるほどに高速で飛んでいく氷の槍を回避することなどできずに、蝙蝠男たちはあっさりと氷塊となると、バラバラとなって地に落ちていくのであった。
弱すぎて相手にならない。他者目線だとそう思えるだろうが実際は違う。鍵音たちが強すぎるのだ。今の蝙蝠男たちはAランク。高速で空間を飛び回り、崩壊音波による広範囲攻撃で敵を分解する恐るべき敵である。
しかし、鍵音たちは人類の最高戦闘力を大幅に超えていた。マナならば、魂力の限界5%に達しただけですと、小石レベルの力だと気にもしない強さだ。それでも人類では現最強を赤ん坊扱いできる強さになっていた。
そのことは、満ち溢れる力と万能感により、鍵音たちは理解していたので余裕であった。
ピチョンと水滴が天井から落ちてきて、岩肌に囲まれる通路を進んでいるが、敵が何匹出てきても相手ではなかった。蹴散らしながら、いや、箒で埃でも払うように進んでいく。
「でも悪魔なのに、マナとは違うの?」
三つ頭の巨大な犬を火線で真っ二つして、鍵音は不思議そうにする。悪魔繋がりなら、マナも関係しそうだ。だが、マナは気にすることなく、敵を容赦なく倒していく。
「これらの悪魔は敵です。私たちと相容れぬ敵なので容赦をする必要はありません、マスター」
王冠を被ったリザードマンを拳の一撃で粉砕してマナは言う。
「そうなの? たしかに悪魔と言っても、マナちゃんはこんなに可愛いもんねぇ。違う種族と言われても納得」
「それにしても、悪魔とは。知恵を持つ者なのに、やけに頭の悪い攻撃しかしてきませんよ、お嬢様。なぜとどうしての、はてなマークがついてしまいます」
ルカが氷の波を通路いっぱいに放ち、防衛するべく隊列を組んでいたスケルトンたちを凍りつかせると、チシャが石礫にて凍り付いた敵を砕く。
楽勝すぎて、会話をする余裕がある一行だ。
「この敵たちは単純な思考しかできないタイプなんです。なので、今のマスターたちならば苦戦するほうが難しいはず」
マナはまったく手伝わずに、のんきにホワイトチョコレートを挟んだクッキーである白い友人をパクパクと食べている。小脇に抱えている大量の箱は全て白い友人なのだろう。
なるほど違う種族なんだと、鍵音は納得して━━フト気になることが頭に浮かぶ。
「ねぇねぇ、この悪魔たちは違う世界ということだけど、他の世界から来てるのなら、なんで魔物たちは私たちの世界に来るの?」
「それは魔物たちが生命体を食べるためです。人類は餌であり、彼らは餌場に来ているだけなんですよ」
「そこが不思議なんだけど、少しでも知性があるなら、人類とかを拉致して牧場でも自身の世界で作れば良いんじゃないのかな? だって敵は強力な魔法を使えるんだもん。おかしくない?」
「━━それは考えたことがありませんでした。そのとおりです。たしかにそれの方が戦闘もなく楽なのに……」
マナはハッとすると深刻な顔で考え始める。その横顔を見ながら鍵音も理由を考えるが、良い考えは浮かばない。
一行が静かになる中で、鍵音たちは最奥のボス部屋前へ到達するのであった。
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