58話 鍵音は遂に無双する
YK96『ビキニアーマー』。名前の通りにビキニアーマーだ。スケスケの網タイツみたいな肌にピッタリと貼り付くインナースーツ、そして胸と股間を辛うじて隠すだけのピンクの装甲。真っ裸よりも恥ずかしい姿である。
「ここここここ」
「マスター、おめでとうございます。遂に勇者を倒せし伝説の鶏に進化したのですね。私もこれまでの苦労を思うと万感の思いです」
「ここれ、違うの! なんでこんなにエッチィ装備なの? もう少し私に優しい装備が良かったです。見てください、皆の視線が私に集まってます! エッチィ! この食い込みとかエグすぎるっ! 胸元も股の部分もエグい食い込みですよ? 痴女、これは痴女です!」
鍵音はトマトのように顔を真っ赤にして、手を振って抗議する。だって、皆の目がエッチィし、それどころか、ウワァとドン引きした表情もいるのだ。これは痴女と言われるより恥ずかしい。
しかし、鍵音の必死の抗議に対して、忠実なる召喚獣のマナはとても優しい表情で肩にポンと手を置く。
「マスター、私は考えました」
「あまり聞きたくないけど教えてください」
なにやら嫌な予感。この予感、マナを召喚獣にしてからというもの、いつもしているような記憶もあるけど、それでも嫌な予感は嫌な予感だ。
「成り上がりストーリーを願うマスター、その気高き願いを叶えるため、私は頑張りました」
手を組んで神に祈りを捧げるように天を仰ぎ、マナは騙る。たぶん語るではなく騙る。
「お金持ちになる成り上がりストーリーは、取り敢えず始まりました。シェルターと強化服事業がうまく行けば、大金が手に入ることは間違いありません」
「ふむふむ。だいたい予想できるけど、続きは?」
「ならば次はパワーアップしたマスターをお見せする時。とても残念ですが、マスターの地力を上げ、これ以上のパワーアップをするには普通の方法では無理です。肉体改造レベルが必要でした。ですが、それはマスターは嫌がると思って、ビキニアーマーを用意したのです。最近は厳しい規則のため、布切れのインナースーツを着せて、エロチックなところを台無しにされていたので、私は網スーツをインナースーツにしました」
「駄目なところです。網スーツはレオタードよりも恥ずかしいです!」
「そうですか? しかし、この地球のアニメで魔導鎧っぽい物が出るのをたくさん勉強したところ、大体は魔導鎧とはこういう物です。とってもエッチィのですよ。私は感心しました、たしかにこれなら目立つと。もう裸よりもエロさを求めてると」
「ぐぬぬぬ、は、反論できません。たしかになぜか女性の鎧はいつもそんな物ばかりですが、あれは太客のために必要なんですっ! 編集者も言ってます、女性キャラはエッチィのが正義だって! でも、これは現実。こんな装備は━━」
「肉体改造の場合、顔を3つ、腕を6本、筋肉ムキムキにしようと思ってますが」
「この魔導強化服気に入ったよ! うん、これならもう大活躍間違いなし! よぉし、これから街の生き残りを助けに行こうです〜」
マナの不穏なセリフを途中から被せて、鍵音は腕を天へと突き出すのであった。
◇
千歳空港周辺の街は魔法付与された外壁に囲まれて、大型の魔法砲台や儀式魔法用の儀式場を用意されて、多くのハンターたちを泊めるための宿泊施設も要塞のように堅固となっている。
しかし、その堅固な要塞街も今や酷いものであった。外壁は崩れて、結界は破壊されている。魔法砲台は瓦礫に変わっていて、儀式場はもはや跡形もなく吹き飛んでいる。辛うじてハンターたちの宿泊施設が残っており、魔物から守れている程度だ。
車で移動して、ようやく辿り着いた街は散々たる惨状であった。
「ここも酷いねぇ。そこら中魔物ばかり。しかも、悪魔タイプばかりだよぉ。悪魔タイプは魔法を使うからマジ厄介」
「あちこちに死体が転がってますね……」
「お嬢様たちの見るものではありません」
悪魔たちの行った惨状。あちこちに未だに悪魔たちが徘徊し、人の死体が多く転がっている。放置しておけば夏の真っ盛り、死臭で大変なことになるだろう。
その様子を見て、鍵音もルカもチシャも顔を曇らせる。これだけ大勢の死者を見たのは初めてだ。
「マナ、まさかとは思うけど蘇生魔法とか使える? なんか前に髪の毛1本から私を再生できるって言ってたけど?」
この間の髪の毛1本からは冗談だと思うが、一応上目遣いにマナに尋ねる。もしかしたらと思ったのだ。マナであれば可能ではないかと。
だが、マナは珍しく顔をしかめて首を横に振る。
「駄目です。あの魔物たちは魂を回収しています。魂を回収されないようにセキュリティをかけていない一般人はもはや復活は不可能です。こんな方法で攻めてくるとは……なかなか面白い敵のようですね」
「そっか。そうだよね。蘇生は神にしかできない奇跡の力だもんね。無理言ってごめんね」
「いいえ、それよりも魔物たちを駆逐しましょうマスター。ビキニアーマーの力を見せる時です」
「見せたくないから、コートとかで隠していいかなっ?」
「駄目です。ビキニアーマーだからこそ目立つ。それに夏のコートは私は痴女なので捕まえてくださいとアピールしていることになりますよ」
「社会的地位を捨てるか、羞恥心を捨てるかの究極の選択っ! うぅぅぅ、わかった、やるよ! どちらにしても痴女扱いなら最初からビキニアーマーで戦うよ。大丈夫、魔導鎧は全部こんなもの、こんなものなんだー!」
もはや開き直るしかない。マナは絶対に譲らないだろうし、ここで諦めるには、この魔導強化服は得体のしれない力を感じるからもったいないのです。
「では、街全体に探知をかけてください。広範囲に薄く魔力の波紋を流し、それでいて精緻にまとめ上げて、ターゲットである魔物を正確に探知出来るように」
「ええっ、私にはそんなに広範囲の探知は無理ですよ。だってCランクな」
「試しもしないでダメダメと否定から入る人間は絶対に成長しません。まずは試せばよいのです。白い友人は何個まで美味しく食べられるか、私は試すつもりです」
「それは試さなくてもわかるよ! それで、試せって……」
マナは鍵音が弱いことを知っている。大悪魔は何でも知っているような顔でじっと見つめてくるので、少し怖くなって、天へと突き出すように手を掲げて魔法を構成する。
Cランクでも使用できて、ランクが高いほど効果の高い魔法。
『探知』
いつもなら数キロ範囲に広がり消えていくはずの魔法だが━━今回は違った。
「うぇぇぇ!?」
思わず叫ぶほどに、『探知』の波紋が周囲に広がっていくのだ。その範囲は余裕で街をカバーする広さであり、瞬時にどこに何があるかを教えてくれる。
生き残っている人、魔物たちの残党、その形や魔力量なども全て。あまりの情報量に頭が痛くなり、少しふらつく。
「な、なにこれ? こんなのSランクでも無理じゃ。なんか身体が熱いし……うぇぇぇ!?」
自分の身体がふつふつと沸騰するように熱く、根源から魔力が流れ出すように強い力を感じて、自分の体を見下ろして、三度叫んでしまった。
「きょわー! 網スーツが光ってます! ネオンよりも光ってる! こ、これなに? ものすごい恥ずかしいんだけど!?」
「私の設計したマスターの能力を補助する魔法陣です。その網のマス目一つ一つの組み合わせが超高性能な補助魔法陣となっており、何千もの魔法陣によりマスターの能力を数段階高めます」
「聞いただけで気の遠くなる技術だけど、たしかに今の私はSランクをも超える力を持っていると本能が理解するけど、見た目が酷すぎるっ! 白く光って肌と同じ色に見えちゃうよ? 裸に見えない?」
「大丈夫です、マスター。肌スーツは赤白歌合戦でも使われて、大盛り上がりしたとこの世界の記録にありました」
「それ、後で抗議の電話が鳴りやまなかったってやつだよねぇ? というか、もうやだぁ、こんなスーツは脱ぐからね!」
「脱ぎますと、探知を逆探知してきた魔物に襲われてしまいますがよろしいのでしょうか」
「へ?」
言われて気づく。街のあちこちから魔物たちが狂ったようにこちらへ走ってきていた。えっと……街全体となると何千匹!?
マナを見ると、いつの間にかルカとチシャと共に喫茶店に入って結界を展開している。助けてくれる気は無さそうだ。頑張ってと書かれた手のひらサイズの旗をやる気無さそうに振って応援してくれていた。
「あ〜。もう、わかったよ! わかりました! これが私の成り上がりに必要と言うならやってやる!」
『烈火球』
高ランクの火炎魔法。強くなったから、いつかは使えるようにと覚えていた魔法を構成する。苦労するかと思いきや、あっさりと展開できたことに戸惑うけど、これが魔導強化服の力ということなのだろう。
家屋一つを呑み込む程の火球。それを二つ、三つと増やしていき、その輝きは太陽のように明るく、熱気は近づくだけで燃えそうな熱さとなる。
その異様な力に、魔物たちも足を止めて、火球を見つめる。逃げようとするのか、踵を返す魔物も出てくるが、これだけ恥ずかしい格好をしたのだ。逃がすわけにはいかない!
「いっけぇぇ!」
もっとも集まっている所に、まずは一撃。本来、自身では使用できないレベルの魔法だ。その効果も記録にあるのを覚えただけで、実際の効果は魔力量によっても変わるので、試しに使ってみた。
使ってみた。百メートルほど離れている敵に。
失敗だった。
「ほえ?」
着弾すると、熱のドームが広がっていく。半径百メートルところではない。鍵音をあっさりと呑み込むと、周囲1キロメートルを熱のドームで吹き飛ばす。
空中に待機させていた火球も誘爆していき━━。
「きょわー!」
その日、要塞街は炎に包まれて、半壊した。魔物により、破壊されていた外壁は溶けて、溶岩のように流れていき、多くの魔物も、街の施設も、生き残りの人々も、魔法の発動者も全て覆い尽くしてしまうのだった。
そうして残ったのは、マナがシールドを張って守られた人々と、ポツンと佇む鍵音だけとなり━━。
めでたく鍵音は伝説となったのである。
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