44話 マナは追いかける
マナ・フラウロスは本屋鍵音の命令を受けて、葛城透という少女を追うこととした。猪武者との二つ名のとおり、まったく仲間を気にしない様子で、森林の奥へ奥へと飛ぶように素早く突き進んでいる。
「まってぇ〜! 早いよぉ〜。おねーたまー」
幼女モードなので、可愛く叫んで、てこてこと。幼女モードの時は、冷静沈着な言葉遣いよりも、弱々しい幼い言葉を使うのが良いでつよと千鶴から忠告を受けたので、幼い言葉遣いのマナ・フラウロスなのだ。とはいえ、本当に幼女の歩行速度ではあっという間に置いていかれてしまうので、普通に走っている。
他者から見たら普通にどころではない。鬱蒼と茂る草木、地面を這う根っこが自然の罠となり、前方を塞ぐ木々が障害物となり、獣道すら存在しない。その中で、獣のような速さでマナと葛城は走っているのだ。どこかのコミュ障では数秒ごとに根っこに足を引っ掛けて転倒するか、木々に激突して気絶するだろう。それだけ2人の体術が抜きん出ていることを示していた。
「どこかの幼女よ。すまないが、待っている時間はない。なぜならばこの先で戦闘をしている仲間がいるからだ! 早く助けに行かなくてはならないっ!」
「え~っ、あたちをおいてかないで〜」
振り向きもせずに、木々を縫うように走っていく葛城。たしかに、前方で戦闘をしている気配がする。彼らを助けようと急いでいるのだろう。幼女を放置するなんて冷酷ともいえるが、幼女モードは仮初なのでその判断は正しい。
(でも、人間モドキはずいぶん奥へと侵攻していますね。昨日、テテが侵攻してから時間はそれほど経っていないのに、少しおかしい)
疑問が頭をよぎるが、気にすることもないと考え直す。どうせ侵入してくる敵は全て殺す予定だ。
「幼女よ、この先は危険かもしれないから下がっていてほしい」
「危険と理解しているのですか? なら、他の仲間と準備をして突入するべきでは?」
猪突猛進の少女と聞かされていたが、意外なことに極めて厳しい顔をしているし、醸し出す雰囲気も殺気立っている。この先が自身の力でも危険だと、命を失う可能性もあると気づいているのだ。頭が悪いとのことだが、野生の勘がその分高そうだ。本能で危機を見極めるから、これまで無茶苦茶な行動でも生き残ってこれたのではないだろうか。
「そなたの言いたいことはわかる! だが、ここで躊躇った結果、救えるはずの人間が死んだらどうする? 我はハンターだ。人類を魔物の手から守るために、この道に入って身体を鍛えている。だから、ここで足を止める理由はないっ!」
「……そうですか、その意思は立派なものです」
燃えるような赤毛を振って、力強くいう少女の顔には少しの偽りもない。人々を救うために行動することに躊躇いがない。魔物を倒すための強い意志は感銘を受ける。
私たちと一緒だ。この美しい心と魂は人間である。
(やはり拠点作りは早計でないでしょうか。このような人間もいるなら、人間モドキと十把一絡にして対応するのは間違っているのでは?)
少しの疑問と躊躇いが生まれる。当初の予定通りに情報収集をするべきだったのでは? 相手の犠牲を考えずに行動するのは誤っているような……。
「ぬっ、見えたぞっ! すまぬが、我は先行する!」
剣戟と爆発音が聞こえ、前方で戦闘をしている者たちの姿が目に入る。兵員輸送車三台、軍用バギー二台、装甲車二台。そして、連携する二十名近いハンターたち。魔物たちに囲まれており、苦戦しているようだった。
「我は葛城透! 助太刀いたすっ! 唸れ、我が愛刀ストームブリンガー!」
『業風断罪』
なぜか洋風の名前の日本刀を抜き放つと、葛城は魔力を解き放つ。ストームブリンガーと呼ばれるだけあって、刀から生み出された竜巻は巨大であり、打ち出された先にある木々を粉砕し、ハンターたちを襲う魔物たちを呑み込み、ミキサーにかけられたかのように粉砕するのであった。
あっという間に魔物たちが駆逐されて呆然とするハンターたちへと、葛城は手を振って声を掛ける。
「大丈夫かっ! 我こそは葛城透。人類最強のハンターだっ! えっへん!」
胸を張って得意げに笑顔を見せて、馬鹿っぽい登場である。もう少しかっこよいというか、クールな登場はできなかったわけ? ここはこのマナ・フラウロスがかっこいい登場の仕方を見せてやろう。
「あたちはマナ・フラウロス。ソロモン72柱の一柱、大悪魔です」
地面に手を付けて、コロリンとでんぐり返しで登場だ。むふーっと鼻息荒く、お目々をキラキラさせて、呆然とするハンターたちの中へと姿を現す。かっこいい、誰が見てもかっこいい。これこそがかっこいい登場の仕方です。
幼女モードだと、少し思考が幼くなるという副作用を持つマナは驚いたでしょと、ぱっちりお目々で周りを窺う。
誰も彼も葛城ではなく、マナに視線を向けて、その可愛さに感動している。口元を引きつらせてるけど、感動しているんだよね?
「あたちはマナ・フラウロス。ソロモン72柱の一柱、大悪魔です。拍手していいよ?」
感動していると思うけど、念の為にもう一度挨拶しました。
「よ、幼女だ! 幼女がいる!?」
「わぁっ、か、可愛いなぁ」
「こんな危険なところに幼女!?」
とりあえず驚きながらもパチパチと拍手をしてくれるので満足だ。
「むっ、おいおい、この我が助けたのだから、称賛は我にするべきだろう? ほら、拍手拍手!」
「葛城おねーたま、拍手は人に強要するものではないですよ?」
「今拍手をねだっていた君が言うのかっ!?」
葛城のツッコミに、幼女は許されるんだよと肩をすくめると━━。
「助けただぁ? ふざけたことをいう奴だと思いきや、馬鹿な葛城じゃねーか」
銀色の強化服を着込んだ男が口を挟んできた。装甲車から体を乗り出して出てくると、嫌味そうに上から目線の物言いだ。
「むっ! 貴様は和光金光。このパーティーは『バンディット』のクランだったのか」
知り合いだったようで、葛城の目つきが厳しくなる。その様子を見て、男はヘラリと嘲笑う。傷だらけの強面の男で、歳は30前半といったところか。嫌味そうに顔を歪める姿がとっても『らしい』。生粋の傭兵といった感じかな。
「どういう意味だ? ここの魔物は危険な域に入っている。助けが必要だったろう? この者たちは見たところCランクだぞ?」
「はっ、わかってねーなー。どう見ても草加ダンジョンは復活してるだろ? しかも他のダンジョンと違う雰囲気だ。手に入る魔石も他の魔石と違うし、そんな魔石が採れるダンジョンコアは高値がつくに違いねぇ。だからこのネタを聞いて、急いで準備をしてやってきたわけよ」
「それとCランクのハンターを前に出すのと、どんな関連があるというのだ? このままだと死人が出そうだったではないか! 貴様はSランクだろう? なぜに車の中でぬくぬくとしていた?」
眉を顰めて尋ねる葛城。たしかに言っていることは正しい。俺から見ても、厳しそうな戦闘だった。助けに入ったことに誤りはない。というか、この男はこの世界で最高峰のSランクなのか。
「ほんとーっにアホだな、テメーは。このダンジョンは敵の戦法を学習するから、俺らはなるべく戦わないほうが良いんだよ。それにボス戦に備えて魔力も節約しなくてはいけねーからな。そんなことも分からないから、テメーは猪武者と言われるんだよ」
「バカを言えっ! 何人か怪我を負っているではないか。せめてAランクのハンターも戦闘に加えるべきだっ! 見ろっ、死んだ者はゾンビにされるダンジョンなのだぞ? 死者となってダンジョンを徘徊する恐ろしさもあるのだ、安全に行くべきだろう?」
「その分、魔石の歩合は大きいんだよ。なぁ、お前ら? うちのクランはハイリスクハイリターン。他のクランに比べると、報酬はべらぼうに良いよなぁ?」
「は、はい。他のクランと比べると数倍は違います……」
和光とやらがハンターたちを睨むと、目を逸らしながらポツポツと答える。そこには恐怖もあるが嘘はなさそう。金のためと納得しているのだ。
「な? そもそもハンターは命をベットして報酬を得る仕事だ。こいつらも納得しているんだよ。お前の手助けは邪魔にしかなってねーんだ。わかったら、さっさと去りな。この先に俺たち以外のハンターもいねーしな」
「むうっ……」
言葉を失う葛城を前に、どや顔となると和光は部下へと手を振る。
「おら、さっさと倒した魔物の魔石を集めるんだ。俺の勘がこの魔石はほかのものとは違うと言ってるんだ。一つも残すなよ?」
「はっ、はいっ!」
苦渋の表情の葛城を横目に、助けられたハンターたちは倒された魔物の魔石を集めていく。たしかにマナが加工した魔石は普通とは違う。少し魔力の凝縮量を高めてあるのだ。恐らくはこの世界の本来の魔石ランクよりも一段階高い。
「ひゅー、見ろよ、これ。この輝き。宝石のようだぞ?」
「あぁ、こりゃ今日は豪遊決定だな」
「札束が転がっているようなもんだ。ニヤケが止まらねーよ」
誰も彼も欲望で目が濁っている。呆れたね。
(良い人がいるけど、あまりにもその数は少ない……ソロモンの言う通りかもな。この世界に人間モドキは必要ない)
嘆息混じりに、ハンターたちに軽蔑の視線を向ける。救いようのない人々だ。と、思念が飛んできた。テテからだ。
『うさー、敵の拠点を発見したうさ。巨人族が出てくるうさよ!』
ハンターたちを眺めていると、地面が激しく揺れる。そして、地面に大きく亀裂が入ると地中からなにかが這い出てくる。
『テテ、よくやりました。現れる巨人はこちらで片付けますので、兵を引かせなさい』
『くっ、テテにも素体があれば活躍できるのに、残念うさよー!』
『偵察の任務は成功しているので問題ありません。それに……貴女の憑依する素体は手に入るかもしれませんからね』
フッとニヒルに笑うと混乱するハンターたちを眺める。ニヒルというけど、幼女なのでぐすっているようにしか見えないのは内緒だ。
「な、なんだ、あいつは!?」
「で、デカい。ここまでデカい魔物が存在するというのかっ!?」
地中から現れたのは、雲をつくような巨大な人であった。いや、人ではない巨人だ。その背丈は百メートルはある。
まるで彫刻を彫ったかのような筋肉美の男で、ザンバラ髪で荒々しい顔つき。そして体を覆う金属製の鎧。手に持つのは吹雪を纏う氷の剣。
「ぬぉぉぉ、このティターンの戦士ヨトゥンを殺そうとは笑わせる。何者かは知らぬが後悔するが良いっ!」
巨人族の一人、霜の巨人ヨトゥンだ。その顔は憤怒に満ちている。
どうやら巨人族の拠点を破壊できそうだね。
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