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幽霊界隈で「派遣」と呼ばれています。~怖くない主人公の迷惑すぎる日常~  作者: 凪塩 未来


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第1話:霊感ゼロのホラー作家志望と、後ろの「お客様」

こんにちは! 凪塩未来と申します。


本作は、「心霊スポットを巡る主人公には一切霊障が起きないが、彼女の移動によって周囲の人間ばかりが怪異に巻き込まれていく」という、ちょっと迷惑でちょっとユーモラスなホラーコメディ小説です。


霊感ゼロで能天気な主人公・楓と、彼女を乗り物代わりに利用する幽霊たちの奇妙な珍道中を、のんびり楽しんでいただければ幸いです。


読書の秋(あるいはいつでも!)に、クスッと笑えて少しゾッとするお話をどうぞお楽しみください!


※不定期更新となりますが、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の凄まじいモチベーションになります……!よろしくお願いいたします!

二十五歳の水野楓(みずの かえで)は、大きめの黒縁眼鏡をクイッと押し上げながら、スマートフォンの画面を凝視していた。


「……うーん、今日も完璧なまでに『ゼロ』だな」


画面に並んでいるのは、雑草が生い茂る寂れたコンクリートの壁と、暗闇をフラッシュで白飛びさせただけのパッとしない写真の数々だ。

今日の取材先は、地元でも有名な『赤沼(あかぬま)トンネル』。ネットのローカル掲示板では、「深夜に通ると必ず子供の泣き声が聞こえる」「バックミラーに血まみれの男が映り込む」「絶対に振り返ってはいけない」などと、おどろおどろしい噂が山ほど書き立てられている一級の心霊スポットである。


だが、実際に深夜のトンネルを一人で往復してきた楓の感想は、非常にドライなものだった。

――「空気がひんやりしていて、夏の夜の散歩としては最高に涼しくて快適だったな」


物音ひとつしない。誰かの視線を感じることもなければ、肌が粟立つような悪寒もない。背筋が凍る恐怖や、怪奇現象特有の重苦しい空気感とは一切無縁のまま、ただ懐中電灯の明かりを頼りに往復してミッションを終えただけだった。


楓は、怪奇現象を心から愛している。

幼い頃からホラー小説、都市伝説のアンソロジー、オカルト雑誌を読み漁り、自分でもいつか、読者の背筋を凍らせるような極上の怪談を書きたいと夢見ていた。

そのために、自分自身には「霊感がない」という致命的なハンデを気合とフットワークの軽さでカバーし、休日になれば一人であちこちの心霊スポットへと足を運んでいる。現地で聞いた噂や自身の体験(といっても毎回何も起きないのだが)をベースに、ゾッとするような怪談小説に仕立ててWEBの投稿サイトにアップするのが、彼女の毎週末のルーティンだった。


「これじゃあ、オカルト好きのただのハイキング愛好家だよ……。私の小説、最近どんどんエッセイっぽくなってる気がするぞ」


トボトボと夜道を歩きながら、楓は小さくため息をついた。

トンネルから最寄りのバス停までは、街灯のまばらな細いアスファルト道路が続いている。時折、草むらから虫の音が聞こえるだけで、人の気配はまったくない。


ふと、足を止めて夜空を見上げる。星が綺麗だ。

「――やっぱり、幽霊なんていないのかなあ。科学的に証明されてないんだから、当たり前っちゃあ当たり前か」


独り言を呟きながら、再び歩き出そうとしたその時だった。


カツン。


背後で、硬質な音が響いた。

アスファルトを直接、裸足のような硬いもので叩くような――そんな足音。


楓はハッと振り返る。

「……おっ?」


胸が高鳴る。ついに来たか。期待に目を輝かせ、懐中電灯の光を背後の暗闇へと向けた。

しかし、そこに広がっているのは、誰もいない殺風景な夜道と、街灯に照らされた自分の長い影だけだった。


「なんだ、気のせいか。野良猫か何かかな」


肩を落とし、楓は再び前を向いて歩き出した。

彼女は、決定的なことを見落としている。いや、見えないのだ。


彼女の背後――まさに「振り返ったその視線のすぐ先」には、トンネルの湿った闇から這い出てきた、数え切れないほどの「影」たちが、びっしりと隙間なく列をなして群がっていた。


ぐにゃりと不気味に顔が歪んだ男。

首から上が不自然な角度でカクンと折れ曲がった女。

そして、体中から泥と生乾きの水を滴らせた子供たち。


彼らは声なき声を上げながら、楓の背中にピタリと張り付いていた。

だが、楓の体温や、彼女が発する「怪異を微塵も気に留めない圧倒的な鈍感さ」は、霊たちにとって奇妙な居心地の良さを提供していた。恐れられることも、お経で祓われることもなく、ただそこに「人間がいる」。それだけで、あのおぞましいスポットから一歩も動けなかった彼らにとっては十分すぎるほどの環境だった。


しばらく歩くと、ぽつんと佇むバス停のベンチが見えてきた。

ちょうどタイミングよく、最終の路線バスがヘッドライトを揺らしながら静かに滑り込んできたり、プシューと乾いた音を立てて扉が開く。


「乗りますか?」

疲れた表情の運転手が、前を向いたまま声を絞り出す。

「はい」

楓は元気に返事をすると、タラップを上がり、一番後ろの席に腰掛けた。


バスが再び発車し、静まり返った夜の街をガタゴトと走り出す。

その車内、楓が座る座席のすぐ後ろの空間には、何体もの冷たい影たちがぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。

もちろん、前を走る運転手も、ほかに乗客がいない車内で窓の外を眺める楓も、その車内の異変に気づくことは一切ない。


バスは揺れる。霊たちは揺れる。

一人では決して遠くへ行けなかった彼らは、楓という人間を最高の「乗り物」にして、街の中心へ向かって着々と運ばれていく。


これから自分の生活圏で何が起ころうとしているのかを知ることもなく、楓はスマホを取り出し、今日の「収穫ゼロ」だった取材のメモを、淡々とテキストに打ち込み始めたのだった。


「……よし、今週もネタは地味だけど、文章力でカバーするしかないか」


車内に漂う凍てつくような冷気にも気づかず、楓は満足げに画面をスワイプさせる。

霊感ゼロのホラー作家志望と、彼女に群がる見えない乗客たちの旅は、まだ始まったばかりだった。

第1話をお読みいただき、本当にありがとうございます!


主人公の楓ちゃん、本人は「幽霊に出会いたい!」と真剣に意気込んでいるのですが、いかんせん霊感ゼロ&無自覚なせいで、背後にヤバい連中を大量に引き連れて歩く「移動式ホラースポット」になってしまっている不憫(?)な女の子です。


彼女が知らぬ間に持ち帰った「最初のお土産」が、次回以降、身近な人たちにどんな災難(?)をもたらすのか……ぜひ見守ってやってください。


ぜひブックマーク登録や評価をポチッと押していただけると、作者の背後で幽霊ではなく私が小躍りします!


それでは、また第2話でお会いしましょう!

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