宣告
林茂奈香の反応は意外にもあっさりしたものだった。
「はい、喜んで受けさせていただきます。」
喜んで、というのは校長の計らいで、ただ単に再試験を受けさせるのでは茂奈香が余りにも可愛そうすぎるので、もう一度この試験で900点を取った場合のみ奨学金を卒業まで出そうという提案があったからだ。
小阪教員を筆頭に殆どの教員が、さすがに二回連続で900点を取る事は万一茂奈香が実力者であろうとも無理だろうと考えていた。
というのも、前回の試験問題より更にレベルを上げた大学入試レベルの超難問が一問プラスされていたからだ。
しかし、万一これを茂奈香が解いてしまったとしたら…
港第一女学院から真の天才少女というべき逸材が発掘される事になるのである。
余りにも飄々とした茂奈香の態度に、再試験を宣告した小阪教員は少したじろいだ。
カンニングした生徒ならもっとうろたえて良いはずなのに、全くそのような感じは受け取れない。
しかし、この生徒は変な部分で動揺を見せた。
「壷は我が同好会の研究資料なんです!あの壷がなくては我が同好会は活動できないのです!」
今までのしれっとした態度が一遍し、少女は興奮して立ち上がった。
しかし氷の女王小阪も負けてはいない。
「でも、規則は規則です。同好会にはあなたから説明して研究のテーマを変えなさい。」
毅然とした態度で言い放つ。
「そんな…。」
がっくりと項垂れる生徒を見て、小阪は壷に何かあるなと考えた。
そして勝ち誇ったように付け加えた。
「でも、安心して、林さん。同じクラスの大塚京子さんも一緒に試験を受けたいと言っているの。クラスに勉強熱心なお友達がいると心強いわね。」
自らカンニングの予防線を買って出た大塚という生徒は、実は学年で2番目の成績を収めていた。
992点でその差8点。
執念とも言える負けず嫌いのその生徒は、自分も同じ条件で林に勝つ事にこだわり、普通の生徒であれば是非とも遠慮したい再試験を嬉々として受けようとしていた。
そもそも再試験に心強いも何もないのだが、どちらにしてもそんな事は、ほとんど茂奈香の耳には入っていなかった。