視線の中心
終業のチャイムが校内に響き渡り、生徒達が下校を始めると高橋は職員室へ向かった。
今日は中間テスト後の職員会議が開かれることになっていたので、保健室受験者の監督をしていた高橋も出席しなければならなかった。
職員室の扉を開くと、中はいつもと違う雰囲気に包まれていた。
一人の生徒が何かわめき散らしている。
黒い髪を一つに結び、背の高い真面目そうな少女だ。
顔は怒りにゆがみ、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
その少女の傍らに、相変わらず厳しい顔つきをした小阪教員が立っており、その周りを新井教員や狭山教員が困った顔をして取り囲んでいた。
突然高橋が来た事に気づいた大山教員が
「やよいちゃん、ちょっと…」
とささやくと、腕をぐいと引っ張った。
そしてそのまま小阪教員の立つ輪の中心に引き出された。
「あの…どうなさったのかしら?」
さっきの不自然な言葉遣いが尾を引いている高橋に、小阪教員が今日見た中で一番恐ろしい顔で眼を飛ばした。
「高橋先生、待ってましたわ。あなたのお話が聞きたかったのです。」
予想外の状況に高橋はごくりと生唾を飲んだ。
「か…カンニングですか。」
拳を握りしめた長身の生徒は高橋を見据えてゆっくりと頷く。
どうやら話題の中心は先日高橋が試験監督をした林茂菜香という少女がカンニングをして満点をとったという事らしい。
「林さんが満点なんて取れるはずないんです…。だって彼女はいつも授業中上の空だし、指された時もほとんど何も答えられない。それにテストの日、怪しい薄焼きの壷を学校に持ってきてたんですよ!何なんですか、あれ!校則違反じゃないんですか!?」
最後の頃はもはや叫ぶように言い捨て、彼女は悔しそうに嗚咽を漏らした。
おずおずと優しい新井教員が生徒の背中をさする。
「大塚はいつも頑張っているもんな。でもな、林がカンニングしたなんて決めつけちゃぁ駄目だ。高橋先生、林にそんな様子は見られなかったんですよね?」
「えぇ…。林さんはカンニングなんてしていなかったと思います。それに殆どの時間体調が悪そうに突っ伏していたんです。確かに短時間であれだけの問題を全部解いたというのには驚きなんですけど…見る限り怪しい動きはしてなかったです。」
高橋の発言を黙って聞いていた小阪教員が口を開く。
「大塚の言う通り、林は授業態度の良くない生徒というのは私も承知です。私が教える物理でも全く理解しているようには思えない発言を多々しております。しかし、彼女がカンニングをした証拠というものはないのです。」
一同がその通りだというように頷いた。
小阪教員は続けた。
「しかし、試験監督の発言には信憑性がありません。というのも、勤務時間中ふらふらと校内を無駄歩きする彼女が、試験時間中林茂菜香をずっと注視していられるでしょうか?私はそうは考えられません。よって、林はカンニングすることもあるいは出来たのです。」
皆の視線が一斉に高橋に集中する。
こいつ!
何なのこいつ!
さっきの事を言っているの!?
本当に嫌な女である。
高橋は顔に血が昇っていくのを感じた。
「よって、林には健康な状態で信頼性のある教員の監督の下でもう一度正式な試験を受けて貰うのが妥当かと思います。それから、校内に学問に関係ないものを持ち込んだ件に関しても、林には厳重な注意が必要かと思います。」
淡々と表情も変えず話し続ける小坂教員に、誰一人として反論するものはいなかった。




