中間テスト
テスト期間中の学校は妙に静まり帰っている。
どの教室からも沸き立つ声が聞こえないからだ。
何となく退屈、というのが本当の話だ。
高橋は今日も保健室にいた。
学生じゃなくて本当に良かったとしみじみ思う。
テストだけで生徒を評価するなんて全く良い迷惑だ。
どうせだったら、漫才テストとか、ファッションセンステストとか、ぷよぷよ連鎖テストなんかが在れば面白いのにな。
勉強できなくても良い人間は沢山いるんだから。
そんな事を考えていると、突然保健室の戸がトントンと叩かれた。
「どうぞ〜。」
高橋がゆるい返事をすると、新井教員が一人の青ざめた女子生徒を支えながら入って来た。
「やよ…コホン。高橋センセイ。林さん、ちょっと体調悪いらしいから今日のテスト保健室で受けさせてもらえるかな?なんなら早退でもいいって僕は言ったんだけど彼女一応受けるって聞かなくてね。」
「すみません、お世話になります。」
そう言って頭を下げた少女は色白な肌から血の気が失せ、本当に具合が悪そうに見えた。
黒髪のショートヘアーは理知的な雰囲気に彼女を見せ、身長はきっと150センチないのではないだろうか、とても小柄であった。
「えっと、お名前は…?」
「林茂奈香、1年B組です。」
「では、そうゆう事だから、高橋先生頼みます。」
新井教員は担任をしているB組の試験監督をすべく、茂奈香を高橋に託すとそそくさと保健室を後にした。
保健室には高橋と茂奈香の二人が取り残された。
「林さん、ではこの机でテストを受けてね。気分が悪くなったらそこのベッドで休んでもらって構わないから。ただ、制限時間は他の子と同じ50分になっているからそこは気をつけてください。」
「はい。」
二時間目のチャイムと共に、その女子生徒はテストを始めた。
静かな保健室に彼女の走らせる鉛筆の音だけが響き渡る。
カリカリカリカリ…
その必死になっている姿は微笑ましかった。
きっとこのテストの為に一夜漬けとかで頑張ったんだろうなぁ。
事実、高橋が高校生だった頃一夜漬けは普通で、寝不足過ぎて保健室受験をした思い出も無きにしもあらずであった。
そんな懐かしい思い出が頭を過る。
林さんは真面目そうに見えるけど、きっと私と同じタイプね。
ふともう一度茂奈香に目を向けると、彼女は…突っ伏していた。
時計はまだ開始から5分を告げたばかり。
大丈夫かなと心配気に見つめていると、そのうち静かな寝息が聞こえてきた。
そして何やら小さな声で呟いている。
何々、か、れー…た、べ、た…い?
‘カレー食べたい。’
何だか林茂奈香と言う少女がとても可哀想に感じた高橋なのであった。