東北弁の握る謎
その日の夜、いつものように高橋は、猛おじいちゃんと靖子おばあちゃんと三人で小さなちゃぶ台を囲んでいた。
皆何気なく夜のニュースを見やっていると、ナントカ組の拳銃密輸をしていた二人組が捕まったというようなニュースが流れてきた。
キャスターは伝える。
‘なお、二人組は今も事実を否認しておりますが、取り調べ中にうわ言のように東北弁を呟いているようです。二人の心は何事かによって大きなショックを受けていると見られております。警察はその東北弁というキーワードが組織の中枢に通じていると見て、捜査を進めております——’
高橋はキュウリのお新香をかじりながら猛おじいちゃんに話しかけた。
「そういや、おじいちゃん。アランさんって今何してるの?」
それを聞いた瞬間、猛爺さんの眉毛がぴくりと動いた。
「わしは知らん。」
ちょっと怒ったような答え方に、決して高橋と視線を合わせようとしないこの白々しい反応。
高橋は確信した。
猛おじいちゃんは何かを知っている。
気になる事があったのだ。
それは、涼平が喫茶店で話してくれたエピソードの中の一説だった。
’東北弁の流暢な外国人の爺さんが強面の二人組を追い払った。’
東北弁の外人なんてそうそうこの辺にはいないのが事実である。
まして、ご年配ともなれば、真っ先にあのSSSでも一番謎に包まれたモハメド・アラン、通称イエローシルバーが思い浮かぶ。
そして、そのキーワードを聞いた瞬間、富おじちゃんも高橋と同じ様に感じていたに違いなかった。
出身国、年齢、家庭の有無、過去の職業に至るまで全てが謎に包まれたイエローシルバー。
出身国はおそらくカレーが主食な国のように推測されるのだが、それ以外は全く生活感も出ておらず予測する事は出来なかった。
でも、きっとSSSに加入している以上、猛おじいちゃんが何も知らない訳はなかった。
事件の臭いがする、と高橋は思った。
これまでSSSの中でも一番取っ付きにくいお爺ちゃんであったアランさん。
彼にとても興味をそそられた。
めくるめくヤクザな世界…、イケメンのマフィア…。
そんな危険な出会いも良いかも知れない、なんて思考が完全に逸れながらも、高橋はお決まりの幸せな妄想に浸っていた。
また、学校では中間テストが迫っていた。
先生や生徒達は各々テスト対策に終われ忙しくなる時期である。
よって保健室の座談会はしばしお開きの状態が続くに違いない。
この期間に…と、高橋は拳を握りしめた。
絶対イケメンマフィアな彼氏を作ってやるわ!
その決意は、中間テストで成績一番を目論む生徒よりも熱く、気迫に満ち満ちていた。
きっと、彼女にとって年下の従兄弟に先を越されたという事実は並々ならぬ屈辱だったに違いなかった。
ここで1章が終わりです。
ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました!
2章はアランさんと新女子高生のお話になります。
なお、高橋弥生は健在です。