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オパルールは未開の地

ちょっと短いです。

 


 その後も楽しく話させていただきましたが帰る間際になって思い出したように会長のゼブラ様が封筒を取り出しました。


「私共の間ではミクロフォーヌ様はお体が弱く、街を歩くと人の熱気に充てられてしまうとお聞きしていましたが噂は噂に過ぎないと思い此方をご用意しておりました」


「これは?」


「近々ソリッド商会でパーティーを行う予定なのです。オパルールの新商品や他国の物もご用意しておりますのでミクロフォーヌ様もよろしければお越しください」


「……よろしいのですか?わたくしを呼ぶということは、ソリッド商会にご負担がかかりますよ?」


 冗談ではなく恐らく確実に贔屓にしている貴族達にそっぽを向かれ、経営が立ち居かなくなる可能性が十分にあります。

 商会を潰したいの?と封筒からゼブラ様に視線を移すと彼は封筒を渡した時と同じ笑みを浮かべていた。


「むしろ今までミクロフォーヌ様にお目通り願わなかったのかと悔やんでいるくらいです」


「……そう、」


「それにミクロフォーヌ様は見識豊かで私共にはない繋がりを持っていらっしゃる。私はオパルールを豊かにしたい以上に面白く新しいものに目がないのですよ」



 貴族の圧力よりも探求心の方が上回ったということかしら。意外と博打好きなのね。

 そう考えていたらゼブラ様が少し身を寄せ声を潜めつつ教えてくれました。


「ここだけの話ですが今代の王になってから保守政治になり、他国から手に入れた良質な商品も税が上がり買い手が遠退くばかりで。

 お貴族様は長年支えてきた子飼いにしている商会とばかり仲良くするものですから私共も頭を悩ませているのです」


 そういえば関税のせいで輸入が制限されていたわね。国力をあげるという意味ではわからなくもないけど皺寄せは平民だけで貴族達は他国の物も普通に手に入れていたはず。


 他国から参入したソリッド商会は元々大きく経営が上手くいっていたから貴族に依存しなくても良かったのでしょう。今になって憂き目に遭っているのは貴族かライバルの商会に目をつけられた、という辺りかしら。


「それは大変ですわね。ですがわたくしは侯爵家とはいえ他国の娘。自由になるものは少なくそちらのご期待には添えないかと」


「構いません。そのパーティーにミクロフォーヌ様がいるというだけで価値があるのですから」



 わたくしを使ってケンカを売りたいのか、わたくしを盾にしたいのか悩みどころね。でもそれだけゼブラ様も腹に据えかねてるのか、苦慮しているということかしら。


 でもだからと言ってわたくしも魔法学校に資産のほとんどをつぎ込んだせいでソリッド商会で羽振りをきかせるなどできない。

 行くからには買うか売るかというそれらしい理由がないと居づらいわね。


「でしたらアルモニカ様。あれはどうでしょうか」

「あれって?ああ、〝コンロ〟のこと?」

「コンロ?ですか?」

「ええ、料理などに使う竈のようなものです」


 初めて聞いたのか親子は首を傾げていましたがヴァンが実演すると『うおーっ』と小さな子供のようにはしゃいでいました。


「凄い!これは革命ですよ!!素晴らしい!!私もいくつか国を回っていますがこれは初めて見ました!」


「凄い!凄いです!紙から火が出るなんて思いませんでした!この魔方陣?があるからですか?」


「ええ。この文字列を変えれば水も出ますよ」

「スゲーッ!!」


 子息のトラッド様は完全にここがどこか忘れてますね。紙に書いた魔方陣に魔力を流して火を点けたのですが親子には文字通り魔法でとても楽しそうでした。

 下に置いておいた水桶に燃えカスが落ちてゼブラ様が「勿体ない!」と拾おうとして火傷されてましたが魔方陣ごと燃えてしまったので拾っても確認できませんよ。


「エクティドでは鉄の板に陣を描き長時間燃やしても溶けないように付与魔法でコーティングしてあります」


「ああ、紙ではすぐに燃え尽きてしまいますしね。ですが長時間というとその間魔力を流しっぱなしということですか?」


「着火には魔力と詠唱の二パターンあり、持続させるために魔方陣の下に魔石を使用していますわ」


「魔石ですか?!確か確率で倒したモンスターから得られるんですよね?」


「よくご存じですね。他にも魔力を込められる石もあるのですよ」


「魔法スゲーッ!」


 トラッド様語彙力。さっきからずっと目を爛々とさせているトラッド様にこういう反応は久しぶりだわ、と思いました。

 オパルールの貴族はたいして魔力も魔法も使えないのに知ったかぶりをする者が多かったですし。エクティドのことをまったく知らない者も多いですし。


 トラッド様みたいな方々に教えた方がきっと魔法の扱いもすぐに覚えて楽しんでくれるんだろうな。そう考えるとやはり魔法学校建設が頓挫したのは痛いなと思ってしまいました。



 ◇◇◇



「やっぱり何かしたでしょ」


 満足げに帰っていく親子に呆れた顔でヴァンを見れば「少しだけです」と白状した。


「トラッド様がアルモニカ様似のご令嬢を探して馬車乗り場を彷徨っていたのでほんの少し助言したまでのこと。パーティーへのお誘いまでしたのはソリッド商会の判断ですよ」


「あちらも知ってるでしょうけど、わたくしと関わって何かあったらどうするの?」


「それはあちらでなんとかするでしょう。ソリッド商会は他国にもパイプを持つ大商会。それを知らないと言い切る彼の方の記憶力が残念なだけです」


 調べて貰った時に王子はソリッド商会など聞いたこともないと声高に叫んだのだそうだ。


 確かに今の国王になってからソリッド商会との取引は縮小の一途らしいですが王妃様が使っている化粧品や国王達が使っている筆記具、それに王子が好んで食べている果実はすべてソリッド商会から買っているもの。


 代用品はなくはないですが恐らくゼブラ様の目利きで選んだ以上のものはなかなか手に入らないでしょう。



「ともあれ、ソリッド商会と契約できればもう少し生活が豊かになるでしょう。枕の完成にはソリッド商会の協力が必要だったので」


「……まさか商品にするつもり?」


「第一はアルモニカ様の安眠できる枕の開発ですが、お許しいただければ其方の方も考えております」


「抜け目ないわね」


 ソリッド商会の思惑は他国エクティドの侯爵令嬢であるアルモニカも頻繁に買い求める、という絵が欲しかったに過ぎない。

 それを買うだけではなく商売相手として『コンロ』を出品し支出を防ごうとしただけなのだけど、うちの執事はもう少し先の取引も念頭に入れているようだ。



 しかし当日、思ってもみないことが起こりました。







読んでいただきありがとうございます。

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